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8月の半ば。世間ではお盆の真っ最中、俺はひなを連れて帰省した。
一応婚約者なので、両親への紹介と挨拶も兼ねてるんだけど、ひなとは家族ぐるみの付き合いだし。そもそも俺の結婚相手にとひなを推してたからな。
改めて報告にきたという方が正しいのかな。
リビングに通されて、ソファーに座って、俺の両親と対面するひなが珍しく困惑してる。
「 仁から報告された時は、やっとかって、お父さんと喜んだものよ」
「 ほうよ。でも出来たらうちのお嫁さんになって欲しかった」
「 はは」
ひなは親父の半ば本気な発言を苦笑いして聞き流してる。
親父がそう思うのも仕方ないのかな。
将来俺がこの家を出ていけば、この家の男は親父だけになってしまう。
今も女性陣が強くて大変なのに。
そんな事考えていたら、控え目なノック後、リビングのドアから夕陽が顔を覗かせた。
「 父さん、大事な話し中なんわかっとんじゃけど、今いい?」
「 おう。どしたんな。夕陽」
「 数学解らんとこ教えて」
「 ん? 拓人くんに教わればえかろうが」
「 拓人さんは昨日勉強みてもらった。今日は父さんに教えてもらいたいんよ、駄目?」
「 仕方ないのう」
「 やったー父さん大好き」
夕陽は父さんの腕に抱きついてるよ。父さんもまんざらじゃないようで、顔がにやけてる。
雫と晶が思春期の女子らしく「ウザイ、父さん嫌い」って言ってるのに対して、夕陽は父さんの事大好きだ。
朝陽兄さんには物凄く冷たいのに。
「 行っちゃたわね。話の途中だったのに」
苦笑しながらそう言った母さんは、昼御飯の支度するわと腰を上げた。
「私手伝います」
「 そお? お願いしようかな。仁、あんたも手伝いんさい」
「わかったよ」
俺達は、リビングからキッチンへ移動した。
「ひなちゃん。お米研いでご飯炊いてくれる」
「はい」
ひなは、母さんの指示通りてきぱきと作業を進めていく。
お米研いで炊飯器へ入れてスイッチを押すと、味噌汁の準備に取りかかる。
俺はというと、洗い物したり皿を出したりする。
「 さっきのお父さんじゃないけど、ひなちゃんにはお嫁さんとして、ウチに来て欲しかったな」
「 なんでです?」
「 うーんなんとなくかな。跡取りは確かに雫だけど。あの子結婚したら、同居しないって言ってるしね。ひなちゃんが、跡取りじゃなかったら良かったのにって思っちゃうのよね」
「 ……そうなんですか」
ひなの声がちょっと寂しそうになってる。聞いてる俺もちょっと寂しく感じてしまう。
実際結婚するのは大学出てからの話だからあと7年くらいある。
まだまだ先のような気がするけどな。
「 なんてね。今から湿っぽくなってちゃいけないわね」
「 お義母さん、大丈夫。お義母さん達が寂しくならんように、時々帰ります。その為にも、今から仁の事幸せに出来るように頑張るから」
「 そう、お願いね」
母さん、ひな。今のセリフ俺が言うべきじゃないかと思うんだけど。
まぁいいか。そんな風に思った夏の日だった。
夏休み編は終了です。次回から二学期突入です。




