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広島から帰って数日。ひなの機嫌が治ってない。その証拠に。
「 たく、ひなのやつ今日も連絡してこん!」
課題を済ませた俺は、ベッドに寝転がりスマホをチェックする。
今朝、無料通話アプリでメッセージを送った。「既読」は付いてるのにな。もしかして、噂に聞く「既読スルー」か?マジかよ。
「だいたい、夕陽と拓人が付き合ってるの渋々了承してるだけで、納得出来ないんだよ」
「 心が狭い人ですねー。だから、ひなお姉ちゃんに愛想つかされるんですよ」
「ミッミカン? なんでおるん?」
「なんでって、夕陽がこっちの戻って来たて聞いたから」
「 じゃけ言うて」
ミカンははいつぞやみたいに天井にくっついているんだ。……ヤモリじゃないんだから。
そもそも、いつの間に入ってきたんだろう?
俺がそんな風に考えていたら、ミカンは壁を伝っておりてきた。
「んしょと。今、どうやって入ったんだ。とか思ったでしょ? 普通に玄関から入りましたよ。だけど、仁さんの反応見たくて天井にくっついてみました」
「 あっそ、にしても。夕陽がこっちに戻って来たって言うとったけど、朝陽兄さん何にも言うてなかったけどな」
「 そりゃそうですよ。夕陽が思いつきで、今日来る事にしたんですから。彼女が家を出たってメールくれた時間から計算して、家を出てきたつもりだっけど早かったみたいですね」
ミカンはそう言うと、何故か俺の手を引っ張り部屋から出ていく。抵抗しようかと思っても、よく見たらミカンの意思に背いた行動を取ると、電気が走るという魔法がかけられていた。下手に抵抗しないほうがいいな。
そのまま一階へ連れていかれると、夕陽がいた。
「 ただいま、仁」
「 おっお帰り」
ニヒーと上機嫌な笑顔で俺に挨拶してきた。
何故思いつきで帰って来たんだろう?
「 あのね。この服ね、拓人さんが可愛いって誉めてくれたんよ。だから仁に見せに来た」
ニコニコ顔の夕陽。確かに可愛い。白くて袖口がフワリとしたTシャツに紺のスカート。シンプルな組み合わせだが、そのシンプルさが夕陽の可愛いさを引き立ててる。
だけど、拓人に誉められたというのが気にくわない。
「 別に見せにこんで(来ないで)ええじゃろ。だいたい、拓人にお前の秘密を話しとらんのじゃろ? 拓人にお前の秘密話したらどんな反応するかの?気味悪がられるかも」
と言って後悔した。だけど後の祭り。
夕陽の大きな両目にみるみる水滴がたまる。
ヤバい。地雷踏んだ。
「 うわあーん。仁の馬鹿。そんくらい分かっとるよ。俺がいっちゃん(一番)気にしとる事言わんといてや」
グシャグシャの泣き顔のまま夕陽は、家を飛び出してしまう。
――俺はなんて事言ったんだ。夕陽が言う通り、夕陽自身が気にしてる。心が狭い。ひなに愛想つかされるのも当たり前だ。
俺は夕陽を探しに外へ出ると、すぐに見つかった。
玄関先に植えられてるハナミズキの側でぐずぐず泣いていた。
「 夕陽、ごめん。俺が悪かった」
夕陽が無言で抱きついてきた。しばらくぐずぐず泣いてたが、しばらくすると元通りの夕陽になって許してくれた。
――パーケンダッツのアイスクリームを買わされたけど。
なおこの様子は、ミカンの携帯のカメラでばっちり録画されており、ひなに見せられたてた。
まあだからじゃないが、ひなの機嫌も元通りになり、こちらとも和解は出来たのだった。




