挿話 言いたい事は自分で言え。
「 腹イテェ、頭ばり(すごい)痛い」
くそひなのやつ。戻ったらただじゃすまん。
そんな呪詛の言葉を心の中で呟きつつ、教室の机に臥せってる。ただしいつもの姿じゃなくて、ひなの姿だ。
俺がさっきから苦しめられてるのは、女性なら月に1回はやってくるアレ。月経。
日常的な呼び方をするなら生理。それに伴う生理痛だ。
今日は終業式だけなのに、なんでこんな目に合わなくちゃいけないんだ。
昨日、ひなのやつにいきなり噛みつかれたと思ったら、気づいたら、入れ替わってるんだもんな。
とか、考えてる俺に声がかけられた。
「仁くん、お水買ってきたから、痛み止め飲んで」
「 サンキュー、助かります」
俺は長谷川に礼を言ってから、もらった痛み止めを口にした。
これでマシになるだろ。
「 それにしても、ひなとは中2からの付き合いだけど、生理痛ひどい事とは知らなかったな」
「 ……あいつは自身に痛みを取る魔法かけとるもん」
「 えっそうなの」
「 やり方俺も知っとるけど、出来んのよ。難しくて」
自分自身に魔法かけるというのは思いほか難しいんだ。どうにかかけても1分と持たずに、激痛が走るんだ。
昔大怪我した時に、試したから間違いない。
他人の痛みをやわらげたり、怪我治したりする方が楽だな。
「 あれ?野村アリサとひな」
朝来て、野村アリサに引っ張っていかれてたのは、見たけどいつの間にか戻ってきた。
俺の姿になったひなは、野村に何か言うと、俺のところへくる。
「 ひなちょっとこい!」
「 えっ?何なん?」
何故かお怒りモードのひなに、野村アリサの前まで連れてこられた。
「 俺が無理やり、婚約者にされたんじゃないの証明しちゃる」
そう言うや否や、ひな《俺》の体を引き寄せると、スッと頬にキスをした。
あまりにも突拍子ない行動に、キスされた俺はもちろんの事、クラスのやつら全員が氷ってる。
目の前の野村アリサに至っては、魂抜かれたみたいになってた。
「 これでわかったじゃろ。今後一切俺につきまとうな」
ひなは、俺の手をつないで教室を出ていった。
「 ごめんねー。ああでもせんと、野村アリサが、あんたの事諦めそうになかったけぇ」
「 別にええけど。そういう事はあらかじめ、言うといてや」
「わかった、わかった」
ひなはそう言って、もう一度俺の手をつないで、教室へ戻った。
余談だが、ひなに生理とわかって入れ替わったのか訊いたら、生理の事は失念してたとの事だ。




