表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
服部ひなさんは、厨二病が、治らないようです。  作者: ねこた まこと
5 ひなさん家の家族事情。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/70

この章はひな目線です。

7月半ばのある土曜日の事だ。


「 めんどくさい」

「 ほんま、早く終わればええのに」



私と仁は、そう呟いてからお互いの顔を見て苦笑しあう。

私は赤に花柄の振り袖。仁は、スーツを着ている。さすがに七五三という印象はないけど、若干着られちゃってる感はあるな。

私達が、こんなかしこまった服装をしてるのはパーティー会場だからだ。

パーティーといっても、結婚パーティーなんかじゃない。

服部工業という日本を代表する企業の創立記念パーティーだ。広島市の中心部にあるホテルの宴会場を借りきって行われてる。周りには、ドレスや着物で着飾ったご婦人やスーツを着てる男性が、グラス片手に談笑してる。


ちなみに、服部工業てのは、服部の名前が冠されてる通り、うちの実家が経営してる。元々は、小さな部品を作る工場(こうば)だったのを、今は亡きうちのお祖父ちゃんが、医療機器の製造に乗り出したんだ。

今じゃ、体温計や家庭用の血圧計から病院で使用される注射器や点滴のカテーテル、注射針等の製造は、日本じゃトップシェアを誇ってる。

私は、その服部工業の創設者の孫であり、現社長の娘だ。まあ、服部工業の創設者の孫で、社長の娘という肩書きより、もう1つの肩書きのが、邪魔くさいけどね。


私は、仁と適当に取ってきた食べ物をつまみながら、時折やってくる人と世間話をしていた。




「 ひな()()()


その声に一瞬背中がぞわっとするけど、しぶしぶ振り返る。

目の前には、髪をひっつめて、眼鏡をかけた中年の女性。服装は、かっちりとしたパンツスーツだ。彼女は、私の母親であり、服部工業の社長である美紀枝の秘書の高遠(たかとお)さんだ。


「 社長が、そろそろ皆様の前で、仁様とご挨拶なさるようにとの事です。」

「 はい 」


あーやだやだ。お祖母ちゃんやお母さんに頼まれた事とはいえ、なんで、腹に一物抱えてそうな、ジジイやババアどもの前で、挨拶しなきゃなんないの。

しかも、仁を婚約者として、紹介するなんてさ。

私は、そう思いつつも、会場の前方に用意されたマイクの前に立ち、『ひなお嬢様』の仮面をかぶり挨拶する。


「 皆様、本日はお忙しい中、お集まり頂き、誠にありがとうございます。」


うげげぇ、キモいキモい~。こんなん、私じゃない~。早く振り袖なんか脱いで、いつもの装備(セーラー服)に戻りたいよ~。

でも、習慣って恐ろしいわ。

頭の中で、こんな事考えてても、スラスラと、ひなお嬢様バージョンの口調で、口上こうじょう述べられんの。


「 本日は、皆様に私わたくしから、ご報告があります」


一呼吸置いてから、仁を紹介する。

婚約者として、仁を紹介した途端、ジジイやババアどもの目付きが変わる。

表面上は、祝福してるように見えても、うちの会社と強いコネクションが欲しかった連中は、心の中で、舌打ちしてるのが、目に見えて分かるよ。

でも、私の婚約者に身内を宛がおうにも、あの音無家の子息とじゃ、無理だと諦めてるみたいだ。

仁のお父さんって、普段ちゃらんぽらんだけど、実は結構有名なお医者さんなんだよね。



「だー疲れた~」


パーティーが無事に終わり、私は、ホテルの部屋に戻るなり、バタンとベッドに倒れこむ。

あの暑苦しい振り袖は脱いで、いつもの装備(セーラー服)っていきたいとこだけど、ホテル内では、お嬢様バージョンとけないから、レモンイエローの膝丈のワンピースに白いカーディガンだ。

仁も着替えてるけど、いつものハーフパンツにパーカーじゃなくて、ジャケットとスラックスを着てる。



「 ハイハイ、お疲れ様でしたね。ひーちゃんと仁くん」



私達に、お気に入りのカモメの野菜ジュースを持ってきたのは、お母さんの秘書の高遠さん。ただし、さっきまでの、出来る女みたいな雰囲気じゃなくて、ブラウスに普通のスカートにエプロンというごく普通の主婦みたいな感じだ。

さっきまでの、高遠さんは、会社の外での姿で、どっちかて言うと、こっちが、いつもの高遠さんだ。


「 いやー、毎年の事とはいえ、疲れるわね~。ひーちゃんも仁くんも、今日はゆっくり休んでくださいよ」

「わかってる」

「 ゆっくり休んでくださいって、言われてもさ、 私やな予感するんよね」

「 やな予感って、おじさんが、やって来るとか?」

「 うん」


野菜ジュースをすすりながら、私は、東京にいる父親の顔を思い浮かべる。

私の父政治まさはるは、何を隠そう政治家だ。

民自党の副総裁なんだよね。

私が、六歳の頃、突如、名前が政治なんだから、政治家になんきゃって、言ってさ。

それ聞いたお祖母ちゃんは、美紀枝さんと別れてから、政治家になんなって言ったんだ。

まあ、お父さんはマジで離婚して、広島の選挙区から出馬して、当選しちゃったんだなこれが。

以来、政治家として、頭角を表して、今じゃ、与党の幹部だもんね。


まあ、このお父さんが、来たら来たで大変なんだよな。

私が、そんな風に考えていたら、スマホに一件のメール。


『 愛しのひーちゃん。仁くんと仲良くしてますか? 今から会いに行くからね』


うげげぇ、マジか。お父さんが来たら、大変じゃん。

私は、これから始まるであろう騒動を想像して、ため息をついたのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ