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拓人の家から、再び病院へ戻った俺は、ろくにノックせずに、夕陽の病室のドアを開けた。
「 親父、夕陽は?」
「 さっきまで、起きとったんじゃが、わしが席はずしとる間に、寝てしもうた」
「 ほうなん」
ホッと息をついて、ベッドを見ると朝見た時には付けられていた酸素マスクが外されていた。
朝は、苦しそうだった表情も穏やかで、スースーと寝息を立てていた。
「 仁さん。仁さんのお父さんとお母さんに、お話ししたいです」
後ろにいたミカンがそう訴える。夕陽の病気について説明したいんだろうな。
でも、親父達だけじゃなく、雫や晶に説明した方がいいよな。
「 あのさ、どうせなら、親父達だけじゃなくて、雫や晶にも話してほしいんよ」
「 わかりました」
「 親父、聞こえた?ミカンが、夕陽の病気について説明したいんと。今 ええ?」
「 あっミカン? ――ああ、おったんか」
夕陽の診察をしていた親父は、俺の後ろにいたミカンの存在に、ようやく気づいたらしく、ミカンの顔を見つめた。
「 えーと、夕陽の病気の説明じゃったか? ちいと (少し)待ってくれ。仕事の調整してくる。それと、これで、母さんを呼び出してくれや」
そう言って、親父は、首から下げてた、院内連絡用のPHSを放り投げてきた。
――これ大事な物だろ。大体、家族とはいえ、俺部外者だぞ。こんな物ホイホイ渡すなっての。経営者のくせに。
俺は、そう言いたいのをこらえて、教えられた通りPHSを操作し、母さんのPHSに繋いだ。PHSに出た母さんは、最初呆れた声を出していたけど、ミカンが夕陽の病気の事を説明したいという事を伝えたら、声色を変えて、仕事の調整して院長室へ行くわと言って、PHSを切った。
PHSを持って院長室へ向かった。
ちゃらんぽらん過ぎて、つい忘れそうになるけど、うちの親父ってこの病院の院長なんだよな。 病院の最上階にある院長室の重厚なドアをノックしてから、入ると、ドラマに出てきそうな立派な部屋の真ん中、こりゃまた、ドラマに出てきそうな立派な机とその椅子に座った親父にPHSを返す。
「 親父、母さん呼び出したよ。もう少ししたら、来ると思う」
「 ほうけ、雫と晶も呼んだけ、もうちいとしたら来るじゃろうて」
「 ほうなん」
親父に座って待っとけと、すすめられたので、親父の机の前に置かれたソファーに座る。 むちゃくちゃ座り心地がいいから、ちょっとテンション上がりかけた。
しばらくして、家族全員が揃った。
親父をはじめ、母さんや雫と晶もミカンをヒーローを見つめるような目で見てる。
ミカンは、タジダジしてるけど、ミカンは、俺ら 詳しく言うなら、母さんや夕陽の生まれた一族の祖先がいたという世界からやって来たのだから、夕陽の病気に当然詳しい。もしかしたら特効薬とか知ってるかもしれない。なんて期待してるんだろうな。
ミカンは、タジダジしながらも、俺や拓人に聞かせてくれた事と同じ内容を話してくれた。
「 ミカン。あなたの説明で、夕陽の病気については、よくわかったわ。その魔力過多症というのには、有力な治療法はないの?」
母さんは、期待するような目で見てるけど、ミカンは、下をうつむいてる。
ミカンの気持ちを察するように、目付きの悪いボブカットの女の子―晶が口を開く。
「 無いんだろ? ミカンは、その方法を探したけど、見つけられなかった。もし、見つかっていたんたなら、そんな辛そうな顔しない」
「 うん。さっき言った通り、あたしの妹も、夕陽とおんなじ病気だった。だけど、魔力過多症は、あたしの住んでいた国では、難病の指定を受けてるって、だから無いの」
「 そう」
ミカンの話は、そこで終わった。俺と雫は、夕陽が起きるまで、いることにした。ミカンや晶も残るって聞かなかったんだけど、母さんの説得により、家に帰っていった。
その後、夕陽のベッドの側で寝てしまった。その間に、病気の秘密を探る為に、夕陽が拓人に平原本家に行く事をお願いすると知ったのは、ちょっとショックだった。 まあ、祖先が残したという魔法について記した手記を探すのに、平原本家にある倉庫の中に入らないくちゃいけないと知った俺は、拓人にお願いして正解だと思う。だって、あの倉庫昼間でも、暗いだもん。
その理由で、手記捜索を母さんから、外された事を知ったひなに、ヘタレだ。情けないだと避難されるのは、別の話だったりする。




