挿話 夕陽の事情。
夕陽の事で話がある。親父にそう言われて俺は、実家に約1ヶ月ぶりに戻ってきた。
実家のリビングに入ると、ちゃらんぽらんな親父が真剣な顔でソファーに座っていた。親父の側には、母さん。親父と母さんの目の前には、妹の雫晶もいた。
――家族全員集合するとは余程重要な事らしい。
「 話って何なん?親父」
俺は、雫の側に腰を下ろすなりそう言った。
「夕陽の事じゃ」
「夕陽の事?」
今更話ししなくちゃいけない事でもあるんだろうか? 養子の話なら朝陽兄さんに突っぱねられて、駄目になったハズだ。
俺がそんな風に考えていたら、親父が話し始めた。
「 まあ、突拍子もない言う事がの。実は夕陽は、女の子なんじゃ」
「「「はあ?!」」」
俺ら兄妹の声が重なった。そりゃそうだ。俺らの知る夕陽は男の子。それを女の子ですなんて言われても、納得出来ません。
親父は困ったような顔話をしてくれた。
母さんの実家である平原家の先祖は、異世界からやってきた吸血鬼。ここまでは俺らも知ってるし。俺自身吸血鬼としての能力を一部引き継いでいる。
だけどそこから先の話が重要だった。
その昔、異世界からやってきた吸血鬼のダン・ホワイトは、助けてくれた女性と結婚する。やがてその女性との間に子どもが生まれた。双子の男の子だったそうだ。
ダンは生まれた自分の子どもを見て困惑した。なぜなら同性の双子で生まれた吸血鬼の子は、双子のどちらかが、片割れを吸収してしまう。そうして、双子が、ひとつになる事で、一人前の吸血鬼になる。
だが、ダンはそれを望まなかった。
この世界で生きてく為に、吸血鬼である必要はないからだ。
ダンは、そこで思いつく。見た目だけでも一時的に性別を変えてしまえばいいと。思春期になる頃に戻す事を条件に、
ダンは、生まれてきた息子の片割れの性器を魔法で作り変え、女の子として育てたらしい。
思春期になる頃に戻すのは、吸血鬼は、思春期を迎える頃に完璧な姿にならなければ、普通の人と同じように血を吸わなくても生きていけるらしい。
そんな事情から、同性で生まれた平原家の血を引く双子は、片割れの性器を魔法で作り替えるという事がずっと行われていたらしい。
夕陽もその一人だと言う。夕陽には昨年亡くなったが、律という双子の姉がいた。
「ただのう。夕陽の場合。戻すのに魔法じゃのうて、(じゃなくて)朝陽くんが外科手術で性器を元に戻したんよ」
「 なんで? 魔法なら、ひなか俺が使えるじゃろ? 夕陽の場合女の子じゃけ、方法が、分かりゃひなに戻してもらえばええじゃん」
「んまあの。じゃが、朝陽くんが肝心の魔法についての書かれた物を、律や夕陽の両親の遺品と一緒に処分してしもうたらしい。」
「……なんじゃそら」
呆れて何にも言えねー。去年ドライブの帰りに事故で亡くなった夕陽の両親と律。その遺品と一緒に処分したって。
いい加減過ぎるぞ、朝陽兄さん。
まあその後、親父から夕陽を養子にすると聞かされるのだった。




