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「 あっそか。皆、泊まったんじゃった」
俺のベッド下に、床にひいた布団の上で、学校指定のジャージを着た三人の男女が死体の如く転がってる。
俺の家に泊まった長谷川と渉。それとひなだ。
7月の初めの週末。差し迫った期末試験に備えて、俺の家に集まっての勉強合宿だったんだけど昨日は金曜日。部屋のテレビで野球中継を視ながら、地元球団の応援に夢中になって、ほとんど進んでない。
「 んっ? 朝? 」
床にひいた布団から、ノゾノゾと起きる長谷川。かぶっていた毛布を丁寧にたたみ、一つ伸びしてから立ちあがった。
――さっきから、気になって仕方ないんだけど。
「 お早う。長谷川。つか起きとる?」
「 お早う。仁くん。うん、起きてるよ、ほら。」
ほらって、目開いたつもりなんだろうけどさ、ほとんど開いてないじゃん。目開いてないのにどうやって動いてんだろ? 謎だ。
俺が、そんな事を考えてる間も長谷川は、器用にまだ意地汚く寝ている渉やひなを、踏まぬようふらふらと、部屋から出ていく。
余談だけど、年頃の男女が同じ部屋で、雑魚寝状態なんて、問題ありなんだろうけど、俺らにやましい事なんてしてない
そのうち、ひなと渉も起きてきて、顔を洗い、ひなと長谷川は、朝食の準備、俺と渉はその手伝いなんだけど、手伝い中、俺は、失敗する度にひなから何度もお尻に蹴りを食らった。一応彼氏なのに、扱いがひどい。
「 いつになく、豪華な朝食だな」
朝食の準備が出来た頃、起きてきた朝陽兄さんはそう言う。
いつもは、トーストと目玉焼きだけど、今朝は、ご飯に焼き魚と味噌汁。それに、プレーンオムレツに温野菜サラダがテーブルにズラリと並べられてる。
ひなと長谷川が、お互い得意な物を作った結果こうなった。
組み合わせにやや難がある気がするけど、美味しそうだ。
「 そういや、いつも週末は、冷蔵庫すっからかんなのに、今日は、珍しく野菜や玉子がきちんと入っとったね。なんで?」
いつも週末、この家に来て、おかずの作りおきをしてくれてるひなが、朝陽兄さんに、質問してる。
「 それは、真央ちゃんみたいな可愛い娘がご飯を作ってくれるって言うから、はりきって、買い物してみた」
「へー、そっすか」
朝陽兄さんのセリフをサラリと、長谷川はスルーした。そういや、長谷川って、たまにこうやって、男っぽいセリフが出るときがあるよな。どうしてだろ?
そんなやり取りの後は、スムーズに朝食を終え、片付けのあと、皆で勉強してた時だ。
「 仁、スマホ鳴っとるよ。」
「 サンキュー 誰じゃろ?」
ひなから受け取ったスマホの表示を見ると、親父だ。――珍しい、メールもしてこないのに、なんかヤバい事でも起きたか?
「 もしもし、どしたん?」
『 仁、試験前で悪いんじゃが、今すぐに帰ってきてくれ。夕陽が倒れた。』
スマホから聞こえてくる親父の声が、震えてる。夕陽には、生まれた時から原因不明の病気による発熱でしばしば入院してる。
親父が震えた声を出すくらい、夕陽の容態はよくないんだろうか?
「 わかった。すぐに帰る。」
俺は、スマホでの通話を終えると、渉達に事情を話して、勉強会を中止した。
俺は、取るものもとりあえず、実家に向かったのだった。




