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「 お互いを下の名前で呼びあうなら、いっそのこと付き合っちゃいなさいって、瞳子さんに言われたんだよ。ねっ。」
「 うん。――なんとなく返事しちゃったけど。」
「なんじゃそら。」
「 瞳子さんらしいねぇ。」
俺とひなは、それぞれ感想を漏らす。
拓人から夕陽と付き合う事になったいきさつを聞いてちと呆れた。
『 お互いの下の名前で呼び合う』って、友達でも出来るよな? わざわざ付き合う必要なくね?
いくら拓人でも、気にいらね。そう言ってやろうと思ってたら、脇からいらん茶々をいれる奴が約1名。
「 即座に返事出来るって事は、夕陽と林原くんは、何べんかおうとる( 会ってる)って事よね? 」
ひなは、拓人じゃなく夕陽に質問してる。夕陽は、満面の笑みで答える。その笑みを俺に向けてくれませんかね?
「 俺が、入院しとる間にお見舞いに来てくれたー。いっぺんも来んかった誰かさんと違ってね。」
夕陽の発言に、ひなと拓人から非難めいた視線を送られた。――そんな目で見んな俺だって、行かなかったの後悔してんだ。
「 じゃけ、言うたじゃろ。夕陽のお見舞いに行っときんさいって。てか、林原くんに、知らず知らずひかれても仕方ないよね。」
「 仁は、冷たい。入院しとる時、会いに来て欲しかったのに、来てくれんかったんじゃもん。退院する前なんか、熱が出て辛かったから、会いに来て欲しかった。母さんに仁に来てって伝言頼んだんじゃけど、聞いとらんのん?」
「 うっ聞いたけど、行かんほうが、ええかと思って行かんかった。」
「 俺の発熱は、しょっちゅうじゃし。だいたい、風邪じゃなくて、生まれつきの病気のせいだし。やっぱり仁は、冷たい。拓人さんのが、優しい。」
「 だとよ。」
「 うう。」
二人して責めんなよ。 でも、行かなかった俺が悪い。 母さんに来てって伝言頼んだんでまで、夕陽は、俺に来て欲しかった。――寂しかったんだ。まあ、夕陽の場合、色々と複雑な事情があって、実の両親とは上手くいってなかった。
その代わり、実の兄貴である朝陽兄さんと、今は、亡くなってこの世には、いないけど、夕陽の双子の姉 律の可愛がりようは、半端なかったもんな。
朝陽兄さんは、仕事で忙しいし、律もいないのに、寂しくない訳ないもんな。
兄貴失格だ。
「 ごめん。夕陽俺が悪かった。」
「 いいよ。その代わり、拓人さんとのお付き合いは認めくれるよね?」
それとこれは、別な気がするけど、またまたひなが、いらん横やりを入れてくれる。
「 瞳子さん公認って事は、当然 優おじさんも公認って事よね? 諦めんさい。」
ひなの言う優おじさんてのは、俺の実の親父であり、夕陽の養父だ。うちの両親のルールにどっちかが、公認した事は、自動的に両親の公認になるんだ。ひなは、自分が血を吸う相手に俺を選んだ事を親父に認めてもらった過去があるから、そう言ってきたんだ。
両親も公認してたら、八方塞がりだな。
「 わかったよ。」
「 ありがとう。仁、大好き」
妹が喜んでくれてるのは、嬉しいけど、やっぱり相手が、拓人ってのは納得できない。
でも、この後、夕陽の相手が拓人で良かったと思う出来事が起こるのは、もう少し先だったりする。




