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「離してや!」
休日の商店街に響く少女の声。ひなと入れ替わった俺が発したものだ。
周りの人に助けを求めるつもりで、発した言葉だが、面倒事に巻き込またくないのか、通りががった人は、皆素通りしていく。
くそ、見た目は、優男のくせに意外と力がある。『 君との素晴らしい未来』とか聞いていてドン引きするような話をしてたと思えば、いきなり腕を引っ張りやがる。
「 ――大人しくこっちへ来てくれないか? さっきから三人の男が、僕達の後をつけてるんだ。」
「 嫌です! 大体今日のデートだって乗り気じゃないし、告白だってお断りしたでしょう! 」
「 僕は、納得いかないな。君の好きな人というのは、音無 仁の事だろ? 旭ヶ丘には、知り合いがいてね。ちょっと調べさせてもらったんだよ。何をやっても、妹より劣った駄目なやつって言うじゃないか。そんなやつ、君には、ふさわしくないね。」
「 なっ」
――どうせ俺は、雫より劣ってるよ。悔しくて、唇を噛みしめてたら、背後から三人分の怒りのオーラを感じた。
「 悪かったっすね。妹より劣ってて。」
「 あんた、仁の事何も知らない癖に、好きな事言ってますね。 仁が劣ってるんじゃなくて、仁の妹が規格外なだけですよ。」
「 ひ、じゃない。仁! 林原くん?」
「 ひな、そがな( そんな)アホな奴からはよ離れろや。」
演技じゃない怒り浸透しきった声で、俺が新井先輩から離れる前に強引に手をひなは、引っ張り見せつけるように、抱きしめる。あまりも自然な行動だけど、かなり恥ずかしい。思わず下を向いてしまう。
「 黙って聞いとりゃ、好き勝手な事言うてくれるじゃないですか。拓人の言う通り、俺の妹は規格外なんすよね。いわゆる天才ってやつで。凡人の俺がアイツに敵う訳ないでしょ。どっから、情報得たのか知らないけど、他人の評価だけで、俺の事知ったつもりにならんといてもらえます。つか、こいつ俺のもんなんで、今後一切関わるのやめて欲しいんすけど。」
「 君こそ!勝手な事言ってるじゃないか。服部くんの意思確認してないじゃないか!」
――自分の事棚に上げるなよ。
そんな事を考えていたら、渉が’’ニタア”っと凶悪な笑顔で、新井先輩に近付く。
「 新井先輩。あなたがそれ言いますか。
俺の面忘れた訳じゃないですよね?」
「 お前は、橋田渉」
「 お久しぶりです。先輩。いやー、あの時の事件以来っすね。俺の彼女 長谷川真央にストーカーして事を認めて土下座した時以来ですかね。」
「 うう。」
長谷川にストーカーしてた?? 初耳だぞ。
「 マジで?キモいな。」
「 うわ最悪だな。渉の彼女にストーカーしてた挙げ句に、今回は服部さんを無理やり彼女にしようとしてたって。」
「 実はさ、仁達からこの話聞いた時から、どうにか復讐出来ないかなって思ってたんだよな。真央からは、復讐しないでねって言われてたけどさ、俺的には納得出来てなかったからな。今回の事に便乗したんだよ。ごめん」
両手をあわせて謝る渉。普段人を悪く言う奴じゃないから、ずっとこんな事を考えてるとは思わなかったな。
「 いや、別に。謝る事じゃない。それより、はよご飯食べに行こうや。腹へった。」
「そうだね。」
「だな。」
途中から作戦とは、違う流れになったけど、結果オーライってことでいいのかな。
渉の爆弾発言で呆けたままの新井先輩を残して、俺達は、商店街を後にした。
ひなは、抱きしめてた俺を離したけど、その代わり手は、ずっと握ったままだった。絶対にはなさない。そう言ってるかのように。




