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ミリア

 猫少女が、すみれ人形とレオンの龍人形をくれた。少しうれしくなる。それをポケットに入れて、ナイトマーケットを歩く。

「じゃあ、他の二人の買い物が済むまでミリアんとこで時間をつぶそう。すみれのこと、紹介したいし」

「ん」

 レオンに肩を抱かれて、再び緑の葉と赤く紅葉している蔦の絡まる喫茶店に向かった。向こう側(人間界)から入るときはクリーニング店と雑貨屋に囲まれていたのに、霧の里に存在する喫茶・ミリアは単独の建物だ。もっと古く見える。

「ねっレオンはこのお店のこと、ずっと前から知ってたの?ユキちゃんはよく来るって言ってたけど、一人で来てたの?」

 そう問いかけると意味ありげに微笑むレオン。

「なんだよ。妬いてんのか。ミリアは助けられた恩がある。よく来るって言っても月いちの里帰りの時によるだけだ」

「なんだ。私の知らない間に通っていたのかと思ったの」

 すみれの安堵を感じたのだろう。レオンが屈みこんでちょこんとくちびるにキスをする。

「ヘビと蛙のキス」

 徹底的にすみれをからかおうとしているレオン。

「もうっ」


 店へ入る。ユキちゃんの元気のいい「いらっしゃいませ」の声が飛んでくる。入ってきたのがすみれとレオンだとわかると破顔した。長年の友人に会えたようなすごいいい笑顔。

「お二人がそろってきてくれるなんてうれしいです」

「ん、連れの二人がさ、どっかで買い物してるからその時間つぶし」

 レオンは当たり前のようにカウンター席へ座った。すみれもその横に座る。店内は人間界のカップルたちとどうみても魔女という人たちのグループがいた。

 その魔女たちは、すみれの背中に注目しているのが感じられる。チクチクする感じがある。魔女たちにはレオンのいたずら書きの《すみれのば~か》が見えるんだろう。それに、レオンが半龍だということもわかるみたいだ。

 レオンはそういう視線を全く気にせずに奥にいるミリアを見ていた。

 やっぱりちょっと妬ける。すみれにはいつもどうからかってやろうかという目なのにミリアを見る目はちょっと違う。恩人だって言うけど、その差にジェラシーを感じていた。


 レオンが「ば~か」とつぶやきながらすみれを抱き寄せる。また小さな嫉妬、読まれていた。だって・・・・。

 奥からミリアが出てきた。

 色鮮やかなイチゴのソースがけのバニラアイス。

「お二人にサービス。バニラアイスだけでも癒されるけど、このイチゴソースも癒しがつまってるの」

 食べる前からうれしくなっていた。

「ありがとうございます」

 一口食べると冷たくてまろやかなバニラアイスと甘酸っぱいソースが絡み合って、さっきまでの嫉妬はなくなっていた。レオンは一口食べると残りをすみれに差し出していた。

「甘いの、苦手だ。食べろ」

「ありがと」

 それほど甘くないし、レオンは甘いのも好きだってこと知っていた。すみれがことのほか、気に入ったことがわかって、残りをくれたのだ。


「ミリア、こいつがすみれ」

 紹介ってそれだけ?って思う。もっとちゃんと紹介してくれると思ってたのに。こいつって、どいつよ。

「先程は失礼いたしました。怖い思いをさせてしまってごめんなさいね」

 ああ、吸魂鬼にドアの細工をされてしまったこと。

「いえ、ユキちゃんが助けてくれましたし」

 ちらりとユキを見た。

 レオンも誰なのか見当がついたらしい。

「あのやろう。ミリアのこと、好きなんだ。この店が開店した時からずっと毎日来てるよな」

「そうね、ここに来ると人の感じる幸せを食べられるからじゃないかな」

 仕方がないのよという温厚な笑顔。大人の女性。かなうはずないって思う。


 レオンは、まだミリアに嫉妬の炎をもやしているのかとすみれの頭を撫でた。

「ミリアは魔女だ。僕が行くあてのない旅をしていた時、知り合った」

 そう説明しながらもレオンがすみれの頭の中にその時の状況がイメージできるように画像で送ってくれた。

 深い緑の森の中、一か所だけ真っ赤に紅葉している場所があった。そこにミリアの喫茶店、そして研究所があった。

「すごくきれい。ミリアさんの髪の毛みたい」

 思わずそう言っていた。

「私は森と契約して共存しています。森の管理、手入れをすることにより、木々の持つ癒しの力をもらっているの」

「森? 木から癒しの力って、木にそんな力があるんですか」

 森林浴ってことは聞いたことがあるけど。

「毎日、木の下に立ってみて。そうね、ある程度若い木は元気がもらえるからおすすめ」

「そうなんですか」


「もちろん木たちも人から元気をもらっているの。昔から立っている大木は通り過ぎる人の思考を読み、無意識に癒そうとしている。旅人の無事を願ったり、いつもその前を通る人には元気そうだねと話しかけたりもするの。人はそれを無意識に感じているはず」

「へえ」

「そう意識するといつもの景色が変わって見えるわよ」


 またすみれの頭の中に、画像が送り込まれる。


《ここがミリアの研究所》


 ガラスでできている広い温室のような建物。中には植物園のように様々な木々、鉢植え、そしてイチゴ畑、ブルベリー、ラズベリーなどの木も所せましとばかりに植えられていた。


「ミリアは季節を変えることもできる。だからイチゴ畑には春を、ブルベリーたちには夏で覆って栽培してるんだ」

「愛情をこめて手入れをすることで、果実たちも愛を感じて大きくなってくれる。だからここのイチゴは食べると幸せな気分になれるの」


「ギブ・アンド・テイクってことなんでしょうね」

 いつのまにか、ユキちゃんもいて微笑んでいた。

「そう、そういう法則ですべて成り立っているわね。与えるばかりじゃ満たされないし、もらうばかりでもそのありがたみがわからない。何事もバランスが大切」

 それってみんなが知っていることだけど意識していないことのように思える。

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