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 ふとすれ違う野獣の仔どもたちがすみれを見ていることに気づいた。あからさまにこっちを指をさして何か言う仔もいる。なんだろう。なんか嫌な感じ。

 ある野獣の仔は、すみれを見てギョッとして、自分の持っている人形と見比べていた。

「すみれ? すみれだ。すみれが現れた~っ」

「知り合い?」

 んなわけない。オオカミの顔の仔に友人はいないだろう。


「すみれだ。本物のすみれ」

 他の野獣の仔が叫んだ。みんなの注目を浴びる。

「すみれだ」

 まるでお忍びアイドルが見つかってしまったかのよう。一体、なんだろう。ちょっとむかつくのは、皆が「すみれ」と呼び捨てにしていること。


「ねえ、ちょっと見せて」

 ライオン顔の野獣の仔の持っている人形を見せてもらう。十センチほどの小さなフィギュア。

 それはどうみてもすみれだった。上手に特徴をとらえている。しかも檻に入れられていた当時のボロの麻袋のような服を着ている。

「ねえ、これ、どこで買ったの?」

 野獣の仔はひったくるようにしてすみれの人形をとり、後ろを指さした。


 それは見覚えのある木の下で、見覚えのある二人が売っていた。

 レオンが入っていた檻がまだそのまま残っている。そこに「まぼろしのJK すみれ」と書いてある看板が掲げられていた。その前にいるのはあの不愛想な猫少女と小男だった。


 二人はすみれを信じられない目で見ていた。まさか戻ってくるとは思っていなかったのだろう。バツの悪い顔。檻の中には大量のすみれフィギュアがあった。

「ねえ、なんでこんなの売ってんの」

 そう突っ込む。

 すみれ人形を買おうとしている野獣の親子が、じろじろ見ていた。

 まさか、ブラッケンが生き返って、またこの二人がこき使われているのかも。


「ああ、あれから・・・・・・。私達自由になったけど、行くところがなかった。そしたら・・・・・・小男が一緒に商売をしようって・・・・」

 お前が主犯かと、すみれが小男を睨んだから、彼は怯んだ様子でブンブンと首を振る。


 まあ、そんなことはどうでもよかった。この二人もかわいそうなんだ。ブラッケンは極悪人。あんな奴でも、あいつのおかげで生きていけた人たちもいるのだ。


「まあ、いいじゃん。多めにみてやれよ。このすみれ、本物より胸、あるし」

 そう言って、後ろから肩を抱かれた。

 えっ、えっ、えっ。

 この感触。振り返るとレオンがいた。

「レオン、戻ってたの?」


 そう、龍の谷へ里帰りしていた。

「さっき、戻ったんだよ。でもすみれがいないし。ミリアんとこ、行ったらここだっていうから」

 いつものミノの顔。安堵感がひろがる。一応安全だとわかっていても、ここは、あの霧の里。なにかが起こればまた、帰れなくなるかもしれないという不安がつきまとっていた。でもレオンがいてくれれば大丈夫。

「僕のつけた目印、役に立っただろう」

 あ、思い出した。すみれの制服に書いた文字。

「どこの世界に、目印ですみれのば~かなんて書く奴がいるのよっ」

「あ、なんだ。もしかして、そんなことで怒ってる?」

 あたりまえだ。思い切りレオンを睨みつけた。

「すみれだけでよかったじゃない」


 レオンが自分の書いた文字を見ていた。

「あん時さ、すみれと喧嘩したばっかりだった。それでもすぐに龍の里へ帰らなきゃいけなかったしな。許せ。これ、役に立つんだ。ここの霧には光る。帰る道も照らしてくれる。それに魔物たちも寄せ付けない」

 知ってる。これのおかげで助かったのだ。


 目の前で、猫少女と小男がじろじろ見ていた。

「よっ、久しぶりだな」

 レオンがそういうと、再び怯んだ顔で目を伏せる二人。

「ここですみれの人形、売ってんだ。考えたねぇ。すみれって言えば、もう一つ、龍だろう。龍と一緒に売ればもっと儲かると思わないか」


 小男が後ろから箱を出し、開ける。そこにはレオンそっくりの龍の人形が入っていた。ちょうど売り出そうとしたところだったらしい。レオンはそれをもう読んでいたのだ。

 レオンはすみれを見てウインクする。

「なあ、ここで僕たちの人形を売ることを許可してやろう」

 猫少女と小男の顔が明るくなった。


「でもさ、なぜ私のフィギュアを売ろうなんて考えたの?」

 わずかにすみれのば~かの文字が赤く光りはじめていた。

「すみれ、怒るな。許してやれよ」

 猫少女と小男が怯んだ顔でこっちを見ていた。


「わかってる」

 

「あ・・・・あれから・・・・・・。私達、この辺りの見世を点々として働いていた」

 おどおどした様子で猫少女が語りだした。

「どこもあの大騒ぎの後、私達を雇ってくれる見世ってなかった。ちょっとだけ臨時とかだけだった。そんなとき・・・・・・」


 猫少女と小男の後ろから、いきなり男が現れた。

「はい、わたくしがこの二人に、すみれさんの人形を作ろうと働きかけ、費用も全部出しました。いかがでしょうか」

 木の扉から出てきた青年は二メートル以上ある。しかし、その顔は若い。たぶん高校生くらいだ。


「これはこれはすみれさん。実物に会えるとは光栄です。本物の方がずっとお美しい。勝手にそのお姿を商品化してしまったわたくしの罪をお許しください」

 ずいぶんときざな言い方をする人だ。

 すみれの手を取り、じっと見つめてくる。

「本当にかわいらしい。わたくし、星ハヤタと申します」


 後ろにいたレオンが割り込んで、その手をはらった。

「悪いけど、すみれはオレのもんだ。勝手に触るなよ」

 ハヤタの手を払いのける。

 間近で見ると、首が痛くなるほどのところにハヤタの顔があった。

「え? あ、ごめんね。君、いたの? 小さかったから見えなかった。へえ、龍のレオンさんですか。ああ、あはははは」

「何がおかしいっ」

 さすがのレオンも笑われてむっとしていた。

「龍がなんで人間の格好してるんだろう」

 口調が変わっていた。この人、二重人格のよう。


「けんか売ってんのかっ。そう、オレは龍だよ。それがどうした! 背だって伸ばせるぞ」

 そういうが早いか、レオンの背がハヤタと同じくらいに伸びた。伸びたけど、全身バランスよく伸ばさないで、ゴム人形をむりやり引き延ばしたようになっていた。もちろん、ミノの整った顔が引き延ばされ滑稽な顔になっていた。

「やめてっ。これ以上、ミノの姿で遊ばないでっ」

 思わず叫ぶ。

「だってさ、こいつがケンカ売ってきたんだろっ」

「背なんか高くなくていい。ちゃんとしたミノの姿に戻ってよ。それができないんだったら、・・・・怒るよ」

 もうすでに背中のすみれのば~かの文字が赤く光っていた。

「わかった。戻る」

 元のミノの背になった。


 ハヤタはそれをみてニヤニヤしている。

「ふん、龍っていってもかなり若いな。何百年も生きてる龍はもっと器用に化けるから」

 ハヤタがそういうとレオンがまた咬みつきそうな顔になった。

 なんでこの人はこんなことを知ってるんだろう。そして、やたらとレオンを刺激している。

「あのっ、星さん」

 


「すみれさん、ハヤタと呼んでください」

「ハヤタさん、私達に係わらないでください。私、レオンの彼女ですから」

 すみれは、ハヤタにやめてほしくてお願いする。

「そうだ。オレ達は毎晩一緒に寝てるんだぞ」

 余計なことまで言うし。


「そうだけど、一緒に眠っているだけ。誤解のないように、そういう関係にまだなってない」

 言い訳っぽかったかも。

 レオンはハヤタを胡散臭そうに見ている。

「お前、M87星の人間だな。ユキちゃんの婚約者だろう」

 あっと思った。そう言えば、ユキちゃんは婚約者と一緒にいたいから来たと言っていた。

 ハヤタも驚いていた。

「ユキちゃんを知ってるんですか」

「ミリアんとこで働いてるよ」


 ええっ、とハヤタが絶句していた。

「ミリアんとこ、行くけど、知らせてやろうか?」

「僕から会いに行きます。教えてくれてありがとう」



 ふと気づく。亜由美と莉緒がいなかった。

「大丈夫、あの二人なら何かを探しに行ってる。このマーケットにいるから心配ないよ」

「ほんと? 大丈夫なのね」


「うん、何を買うのかは別だけど、大丈夫だよ。誰にでも、内緒で何かを買いたい、手に入れたいって思うものはあるだろう」


 そう言って、レオンはいつの間にか、紙袋を手にして、ボリボリと食べていた。

「ねえ、もしかして、それってカマクビ?」

「そうだよ。食べる? あ、苦手だったか」


 レオンがあははと大笑いしている。

「おっ、これ、当たりだ。こういうのって滅多にないぞ」

 レオンが一口齧った断面には、蛙が入っていた。

「ひっ」

 すみれは飛び下がる。


「ヘビが蛙を丸のみした直後に捕らえられて、カマクビにされたんだろう。普通はこんなの入ってないんだ」

「やだ、レオン。もう絶対にキスしない」


 レオンは楽しそうに言う。

「へえ、龍の谷から戻る途中、ワニを三頭食ってきたけど、そっちならよかったのか」

 ワニ三頭・・・・。想像できない凄さ。

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