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ナイトマーケットで見つけたモノ

 ナイトマーケット。すみれが半龍のレオンと初めて会ったところだ。ものすごく怖いイメージがあったが、正規の客としてくるなら、それほどではないのだろう。

 明らかに人間の姿をしていない野獣や、怪しい魔女も大勢いるが、みんな気にしない。ハロウィンの世界にいるみたいだ。

「ねえ、あれ、見て。人の形、してる。あれってなんだろう」


 亜由美が指をさし、真っ先に近づいていた。

 人の形。それも等身大。砂糖にまぶされているが、その顔はチョコレートで描かれていた。なんか見たこと、あるかも。

「あっ、この顔、佐藤ちゃん? ねえ、佐藤ちゃんにそっくり」

 三組の佐藤君江によく似ていた。男子がよく、砂糖キビえと言ってからかっていた、そう、行方不明になったって噂の佐藤ちゃん。

 

「佐藤ちゃんが砂糖漬けにされてる?」

 亜由美の発言に、莉緒が気味悪そうに見る。

「まさか」

「でもそっくりだよ」

 ん、亜由美の言う通り、確かに佐藤ちゃんに見える。


 すみれたちがじろじろと見ていると奥からおじさんが出てきた。

「さあさ、いらっしゃい。おいしいよ。新入荷だ。切り分けてあげる。指がいいかい?」

「えっ、ええと」 

 すみれが戸惑う。もし、本物の佐藤ちゃんだったら、どうしようって思ったのだ。あり得る。この世界。


 そこへ魔女っぽい黒いマントをかぶった女性が来た。

「右手をちょうだい」

「あいよ」

 おじさんは威勢よく返事をして、ナイフで手首から切り取ろうとした。


「きゃあ、やめて」

 莉緒が思わず叫んだ。

 おじさんは涼しい顔でざっくり切る。すると赤いドロッとしたものが出てきた。

「ぎゃああ、血っ」

 それを手際よく紙皿に受け止めて、差し出していた。

 よく見ると砂糖がまぶしてあるドーナッツだった。どろりとした赤いものはラズベリージャム。

 すみれもドキドキしていた。

「もう、本当に心臓に悪い。もし本物だったらどうしようかって思った」


「ねえ、でもさ、ここまで佐藤ちゃんにそっくりってことは、どっかにいるってことだよね。モデルがいないとこんなにそっくりに作れないでしょ」

 亜由美の言う通りだ。モデルがいないとこんな形のドーナッツ、作れるはずがない。


「君たちは買わないのかい? うまいんだよ」

 このおじさんに訊いてみればいい。


「あのう、このモデルの人、ご存じですか。たぶん友達です」

 おじさんはにやりと笑う。その笑みには、知っているよ、だから? という意味合い。

「教えてやってもいいけどさぁ、指一本でも買ってよ」

 そういう所は抜け目ない。ちゃんと商売しているようだ。


 すみれたちはそれぞれ指二本づつもらうことにした。ユキからもらった券を出した。

「ほほお、お客さん、ミリアんとこの。ああ、そうかい。おかげさまで最近、生粋の人間が大勢来てるよ。楽しんどいで」

 そう言っておじさんは、亜由美と莉緒には指二本づつ切って差し出した。しかし、すみれを見て、眉を動かし、なぜか右耳を切り取った。

 手渡された耳の形のドーナッツを見る。なぜすみれだけ耳なんだろう。なんかリアル過ぎて嫌だ。

 亜由美と莉緒は気にしないでパクパク食べていた。


「すみれ、食べなよ。けっこうおいしい」

 莉緒にそう言われて、恐る恐る食べてみた。本当だ。ふんわりしていて中のラズベリージャムがちょっと酸っぱかったりして甘さをうまく調節している。もう耳の形なんてこだわらない。すぐに食べ終わった。

 おじさんはすみれたちの食べっぷりに満足したらしい。うんうんとうなづいている。


「さすがだね。このドーナッツのおかげで売り上げはぐんと上がってるんだよ。人間の形で売ると絶対に人間の食べ物を買わない食人鬼でさえ買っていくんだ」

 え? 今、食人鬼って言った?

 三人で顔を見合わせた。恐ろしい響き。やっぱりここにはそういう存在もいる。


「これを作った本人は、この木の下にいるよ。呼ぼうか」

 おじさんはそう言って、木の根元のドアを開けて中へ入っていく。すぐに出てきた。

「今、超忙しいってさ、悪いけど中へ入ってきてくれないかと言ってる」


 すみれは反射的に首をふる。これって、上手に人間を誘い込んでつかまえるパターンかもしれないと考えたのだ。おじさんもそれがわかったらしい。ニヤリと笑う。

「そうそう、このマーケットでは、そのくらい用心深くないといけないよ。でも本当にあの子がそう言ってる」


 ドアを開けっ放しにした。

「君江ちゃんの友達らしいよ」

 中から君江の声が聞こえてきた。

「ごめ~ん。今、他の物、作成中。手が離せない」

 ほらねと言わんばかりのおじさん。


「じゃあ、お邪魔します」

 三人は中へ入った。

 上は屋台のような店だったのに、木の扉から地下へ入るとそこはかなり広い厨房があった。そこで佐藤ちゃんがドーナッツをデコレーションしていた。

 それはやはり君江をモデルにしたドーナッツで、化粧をしてあげるように顔にチョコレートを塗る。


 君江はすみれたちを見る。

「あらあら、こんなところでみんなに会えるなんて。まあまあ」

 笑える。君江はいつもおばさんっぽい言い方をする。


「ねえ、どうしてこんなところで、こんなものを作ってるの?」

「捕まったわけじゃないよね」

「やっぱ、あの喫茶店からきたんでしょ」


 三人が質問をする。

「そう。あの喫茶店に行って、ここへきたの。実はあの子たちを助けようと思って」

 君江がそういうとすみれたちの足元にちっちゃな鳥のような羽をもつ小動物が十匹ほど現れた。つぶらな目でこっちを見る。


「なに? すっごくかわいい」

 亜由美が屈みこんで触れようとすると、わさわさと君江の後ろへ逃げていく。

「でしょ。この子たち、ここのシェフに生きてるまま砂糖漬けにされていたの。野獣の仔たちの好物なんだって。そのままパクリって食べちゃうらしい」

 すみれは思い出す。檻の中にいた時、あの野獣の仔たちが持っていたお菓子を。牛の目玉焼き、みみずの踊り食い、蛇の頭をカリッと揚げたカマクビ。


「かわいそうだったから、こっそり逃がしちゃったの。そうしたら私が捕まっちゃった」

 君江は、えへへと笑う。

 大胆なことをする。

「そいで、私が砂糖漬けにされそうになったの」

 え、佐藤ちゃんが砂糖づけ?

「それも嫌だから、もっとおいしいものを作るって、つい言っちゃったの。それでドーナッツ。ここのおじさん、普通のものじゃおもしろくないからって、私の型をとって、それに合わせて等身大のドーナッツ、あれで三体目よ」


「すっごく上手。あれで佐藤ちゃんってわかったから」

「そうでしょ。今、同時進行で肉を使ったものも作っている。肉食獣たちのリクエスト。あはは」


「一緒に帰れる? 佐藤ちゃん、ずっと休んでるから心配してるよ」

 莉緒が思い出したように言った。

「ああ、家には心配しないでって言ったんだけどな。ミリアさんの喫茶店が終了する明後日までここにいる。元の世界に戻ったら、ここでのこと全部忘れちゃうんだって」


 なるほど。うまくできている。楽しむだけ楽しんで、すべて忘れて帰る。それもいいかもしれない。


 君江は無事だった。しかもここの世界でクッキングに勤しんでいた。あの二日で帰るなら問題ないだろう。すみれたちは、ナイトマーケットを楽しむことにした。

 亜由美がきょろきょろしていた。なにか面白いものはないかと物色しているよう。


「ねえ、ここってさ、もっと不思議なものを売ってたりして」

 亜由美はそんなことに興味があったらしい。不思議なものってなんだろう。

「ん、わかんないけどあり得るよ。その人が本当に欲しいって思えば可能だって」

 そうレオンが言ってたっけ。

 亜由美はあからさまに顔をほころばせる。莉緒も真剣な顔で、なにかを考え込んでいる。

 どうしたんだろう。さっきまで怖いものにおびえていたのに。



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