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再び、霧の里へ

 真っ白な世界へ落ちていた。一寸先も見えないくらいの深い霧に包まれた世界。

 いきなりのことで、何があったのかわからない。ここはどこ?


 すみれたちは地面に落ち、お尻をいやというほど打ったことよりも、何も見えない世界に気を取られていた。

「キャッ」

 いきなり莉緒が叫ぶ。皆がその声に飛び上がった。

「どうしたの」


「ねえ、見えないけど誰かいるっ。誰かが私の腕を掴もうとした」

「誰が? ここに?」

 すみれの鼓動は激しくなっている。嫌な予感。嫌なところ。思い出す、あの時のことを。

 亜美と二人、霧の里に連れていかれたときもこんな感じだった。


「あ、私も・・・・。触ったの誰?」

 亜由美もそう叫ぶ。

 亜由美がすみれに助けを求め、体ごとぶつかってきた。一緒に転びそうになる。

「キャッ、誰かが私の腕をひっかいた」

 莉緒も泣きそうな声で体を押し付けてきていた。

 おしくらまんじゅうのように押し合いをしていた。これほど密着しないと、お互いがどこにいるのかわからないのだ。


「ねえ、絶対に離れないで。こんなところで、もしはぐれたら・・・・・・」

 その先が言えない。怖くて、言ってはいけない気がした。

 すみれにもわかった。時々、目の前を黒いモノがよぎる。たぶん、それが亜由美と莉緒の触れたのだろう。一体なんだろう。


「いやあ、誰かが私の頬に触った」

「私も、誰かが舐めた? いや、なに、ここはどこ」

 二人はパニックに陥る。しかし、すみれにはすぐ近くでうごめく気配を感じるが、直接は触ってこない。

「あ、すみれ? すみれの背中になにか、書いてある。しかも光っているよ」


 さっきまで真っ白な世界だったのが、なにか青白い光に照らされ、亜由美と莉緒の顔がわかるくらいになっていた。なんだろう。背中?

「あ、ええと、すみれのば~か、え、すみれのばかって書いてある」

 制服の背中の何かが光っていた。上着を脱いでみると確かに、《すみれのば~か》と書いてあった。これって礼音の字。礼音のいたずら書きだとわかった。寄りによって、すみれの制服の上着にだ。


「レ・オ・ン、ゆるさないっ」


 すみれの怒りが爆発した。そう叫んだと同時に、その文字が赤く光った。眩しいほどの光。すぐにまた青白い光に戻った。

 なに? これ。一体どんな意味があるんだろう。こんなことが制服の背中に書いてあったこと、全然気づかなかった。霧の中に入り、文字が光って浮き出たのだろう。普段の光では、肉眼では見えないものだった。


「お客さ~ん、大丈夫ですかぁ」

 上の方から声がする。上を見上げると、遥か遠くの方からさっきの喫茶店のサーバーの少女の声がした。

「あ、はあい。何とか無事ですけど、霧で何も見えません。どうやって帰ればいいんですか」

 亜由美が上の方に向かって叫んだ。


「緊急事態、発生です。今、そっちへ行きますね。ちょっとどいててください」

 えっ、退く? そう思ったとき、ドンという地響きがした。青白い光が照らす世界にとてつもなく大きな足が見えた。


「え、ええ~」

「きゃ~っ」


 巨大な足が、見る見る間に縮み、見覚えのある少女がそこに立っていた。

「失礼いたしました。私、ユキと申します。実を申しますと私、身長が十メートルあるんです。今は普通の人間サイズに合わせていま~す」

 身長が十メートル、そんなことを聞いて、ああそうだったんですかなんて返事できない。あっけにとられていたすみれたち。

「あなたが、すみれのば~かさんですよね」

 ユキはすみれに向かって悪びれずそういう。

「ええと、私の名前はすみれですけど、ば~かは余計です」


「えっ、そうだったんですか。道理で変な名前だと思いました。背中にそう書いてあったからてっきりそれが名前なんだと」

「私の背中に、これが書いてあったこと、わかったんですか。あの店の中で?」

「はい。最初に入ってきたときからわかりました。それってレオンさんの字ですよね。ミリアさんもわかってましたよ」

「レオンを知ってるの?」

「はい、ミリアさんのお知り合いですから。たまにあの店にもいらっしゃっています」


 ミリアという名前に聞き覚えがあった。確か、魔女のミリアって言ってたっけ。あのきれいな人が魔女、そして目の前のユキは?


「すみれのば~かさんは、レオンさんのガールフレンドなんでしょ」

「あ、あのう、ば~かはいりませんから。すみれって呼んでください」

「あ、ごめんなさい。つい、そう読んじゃって、そういう名前なんだって覚えちゃったから、あはははは」

 この人、憎めない、かわいいって思う。


「きゃ」

 莉緒がまた叫ぶ。

 ユキは持っていた懐中電灯を照らした。すみれの背中の文字と同じ青白い光。

 さっと莉緒の後ろを照らした。その背後に黒く動くものが見えた。光から逃げているように見える。


「あれって、楽しい氣なんかを吸い取る吸血鬼の一種で、吸魂鬼です。喫茶店にいましたよね。あの黒マント、皆さんの楽しそうな氣を吸い取っていた。だから、ミリアさん、早く帰ってもらうために、いつものブラッディジュースを奮発したんです」

 ああ、やっぱりあれって血のジュースだったんだ。イチゴジュースにしては赤黒かったし、生臭い感じがしていた。


「あの吸魂鬼、すみれさんたちが普通のドアを使って帰ることを察して、わざとあっちから帰っていきました。あの連中はどこからでも帰れるから。その際、この空間に連結したまま、つまりドアをきちんと閉めずに帰ったんです。その後、そのまま開けたら、ここに繋がるように細工していました。それに気づかず、ごめんなさい」

「あ、そうだったんですね。普通に帰れるって思ってたから、変だなって」


「このライトとすみれさんの背中の光があれば、あの吸魂鬼は近づけません。できるだけ近づいて歩きましょう。私、このままナイトマーケットへ送りますから」

「ナイトマーケット」

「はい、このまま光が導く先にあります。そこへ行けば、なんとかなります」


 すみれとユキとの間に、莉緒と亜由美が歩く。

「ねえ、ユキちゃんって人間じゃないの?」

「あ、人間の一種ですけど、地球上の人間ではありません」

 そうだろう。身長十メートルの人間って、見たことないし、この辺にはいない。

「私の彼、M87星の王子なんです。そして私はその許嫁の一人。彼、今、日本で修業しているんです。私も同じ日本で暮らしてみたくって、ミリアさんのところで働かせてもらっています」


「へえ、許嫁の一人ってことは、他にも候補がいるってことですか?」

「はい。たぶん、そっちの人の方が美人なんでしょうけど、私、彼のこと、大好きなので頑張ります」


「ユキちゃんは、このキコの木の下でも大丈夫なの?」

 そう聞いてみた。半龍のレオンは、この木の下にいるとその力が半減していた。

「よくご存じですね。はい、私は人間ですので大丈夫です。これでも家族の中でチビって呼ばれているんです」

「ユキちゃんって、一体何者?」


「私の故郷、M87星はウルトラの星とも呼ばれています。通称ウルトラマンっていうのが彼」

「すっごい、じゃあ、ユキちゃんはウルトラマンのお嫁さん」

 真っ赤になるユキ。

「あ、予定ですけどぉ。うまくいったらの話ですよ。バルタン星の蝶子っていう人がライバルです。姉はバルタン星の女に彼氏を盗られました。だから私が負けるわけにはいかないんです。家族中が私を応援してくれています」

 どこの星の人もいろいろ大変なんだって思う。


 ずんずん歩いていくと、やがて明かりのついた賑やかなところへ来た。

「ああ、よかった。ここがナイトマーケットです。ええとうちの店は」

 ユキが指さしたその先には、赤と緑の蔦の絡まる店があった。外見は同じなんだ。

「お帰りはあそこから入っていただきますと、他のドアから元の世界へ戻れます」


「じゃあ、もう一つのドアから出ていたら、ここへ直接来てたってわけね」

「はい。ミリアさんが幸せがギュッと詰まったイチゴで喫茶店を開いた時、人間界にも入り口を設けたんです。期間限定で、望むならここでショッピングを楽しんでもらえるように。そのために券をプレゼントしました。その券はそのまま使わずに人間界へ戻れば、消滅します」

 そうか、普通なら安全にここで買い物が楽しめたってわけ。


「では、私はこれで戻りますね。もうこのドアは人間界に通じているドアですから、帰りたくなったらここへどうぞ」

 ユキはそう言って、シュワッチと言いながら、店へ帰っていった。

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