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奇妙な店の噂

My Girl・君に出会えたの続編です。

「その奇妙な店ってさ・・・・・・」

 

 学食から戻り、教室へ入った時、そんな話が耳に飛び込んできた。すみれは思わず、足を止める。

美輪亜由美みわあゆみと河合良美、菅原莉緒すがはらりおが話し込んでいた。

「入る時の扉は一つなのに、出るときは扉が二つあるんだって、ねっ、不思議でしょ」

 亜由美が得意げにそう言った。

 すみれも思わずうなづきそうになる。それはまるでトンチのようだ。入るときは一つなのに、出口は二つ、それはなんだ? という謎のよう。


「えっ、えっ、それってさ、どっちから入ってきたか、覚えていないと別の所へ出ちゃうってこと?」

「うん、そうみたい。でさ、三組の佐藤さんが戻ってきてないらしいの。昨日その店、喫茶店へ行くって言ったきり、行方不明なんだって」

 亜由美の語りは上手だ。如何にもなにかそこに潜んでいるという声色を作り、行方不明なんだってというところで、にやりと笑った顔なんて、思わず背筋がゾクリとした。もう良美も莉緒も興味はあるが、怖気づいていることがその表情からわかった。


「ねえ、それってさ、表と裏口に通じるだけじゃないのかな。そんなことってあり得ないでしょ」

 良美がそういうオチだったと言って欲しそうだ。

「それじゃ、全然不思議じゃないでしょ。現に佐藤さん、今日休んでいるの。たぶん、ご家族は今頃、捜索願を出しているかもしれない」

「ねえ、あの佐藤ちゃんでしょ。ちょっと変わり者のさ。彼女なら、不意にどこかへ行ってしまうこともあり得るんじゃないかな」


  そんな話で三人が騒いでいた。隣の席の高橋麗奈がすみれに目配せした。それってどう思う? という意味。すみれはさあ、という曖昧な顔を作り、返事をしていた。

 そこへ数学の先生が入ってきたから、その話は中断された。後ろを向いていた莉緒は慌てて前を向く。


 すみれは授業に集中できなかった。入っていくときは入り口が一つしかないのに、出るときは出口が二つ。普通に考えると、良美の言う通り、表と裏口へ通じるドアが二つあるということ。しかし、そうではないらしい。それによって、帰ってこられなくなった女子高生がいる。興味深々だった。

 亜由美たちは放課後、その店に行くらしい。

 ちょっと前までなら、すみれも好奇心に勝てず、一緒に参加していたかもしれない。しかし、今のすみれは、そういう奇妙なことが現実に起こりうることを知っていた。

 一言、忠告しておく必要がある。亜由美を捕まえた。


「ねえ、だめだよ。よしなさいね。そんなところへ行っちゃだめ。もし、帰れなかったらどうすんの」

 少々、お説教じみた言い方になった。しかし、亜由美たちは全く気にしていない。

「あ、すみれったら、聞いていたんだね。ねえ、一緒に行こう。良美は嫌だっていうの。だから、ねっ」

 後ろにいた麗奈がギョッとしていた。

「そうだ。すみれの彼氏、礼音レオンくんも一緒に連れてきてよ。一人くらい男の子がいた方が心強いでしょ」

 多少は不安に思っているらしい。

「あ、ごめん。礼音は今、里帰りしてる」

 竜岡礼音。実は龍と人間のハーフで、半龍という存在。今、人気絶頂のアイドルのミノそっくりの顔に化けている。髪型を変えれば、ばれないだろうという安易な発想だったが、見事にそっくりだという評判で、今、すみれの学校で彼を知らない者はいない。さらにすみれの親戚ということで一緒に暮らしていることも知られていた。それでいて、彼氏とも言われている。


「明日になれば帰ってくるから、明日行こうか」

 そうだ。礼音を連れて行けば怖くない。

「待てないよ。明日はピアノの練習があるし、今日、今から行く」


「ねえ、なんでそんなに行きたいわけ? そんなに好奇心を煽る店?」

「そうじゃないよ。今、期間限定で一週間だけ開いている喫茶店なんだよ。もう明後日には閉店になる。そこは今、イチゴづくしのメニューばかりなんだって。そしてそこのイチゴを食べるとものすごく幸せな気分になれるらしいの」


 それってますます怪しいと思う。扉二つ、行方不明のJK、そしてこの十月という秋真っ盛りにイチゴ、一週間だけの開店喫茶店。

 すみれは最後まで抵抗したが、結局亜由美と莉緒に引っ張られて一緒に行くことになった。


 そう、今、礼音は本当に龍の里へ里帰りをしていた。ひと月に二、三日帰る。霊力を蓄えることと腹満たしのためだ。この時とばかりに獲物を食べたいだけ食べてくるとのこと。半龍とはいえ、その体躯は大きい。すみれと一緒に食べている食事では体がもたないのだ。たまに海へ行って、ごっそりと魚を食べてきたときもあったが、誰かに見られて恐竜が出ると噂にもなった。それで思い切って里帰りすることにしたのだ。


 すみれは、亜由美と莉緒との三人でその噂の喫茶店へ向かった。麗奈は途中でいなくなっていた。怖くなったらしい。バスを乗り継いでかなり田舎の町に降り立った。本当にこんなところにあるのか。

 亜由美はよく知っていて、スマホで地図を見ながら迷わず向かっていた。


 緑の蔦と赤く紅葉している蔦が絡まる古びた小さな喫茶店だった。そのすぐ右隣りはクリーニング店、左は雑貨屋だ。扉は一つ、小さな明り取りの窓があるだけ。しかも曇りガラスで中は見えない。

 喫茶・ミリアとだけ書いてある看板が下げられていた。


 亜由美が中へ入った。それに莉緒、すみれが続く。狭そうだが、四人座れるテーブルが五つあり、カウンター席には八人座れる椅子があった。割と混んでいる。

「いらっしゃいませ」

 元気な声が響いた。すぐにかわいらしいあどけない顔のサーバーの女の子が出てきた。

「三名様ですかぁ」

 その少女は、背がすごく高かった。たぶん、百八十くらいあるだろう。見上げるほどの背。しかし、若いと思う。同じ高校生にも見える。


「今ですとカウンター席しかないんですけどぉ」

 亜由美の顔が曇る。

 それをすぐさま、嗅ぎ取ったサーバーは言った。

「じゃあ、他の席が空くまでカウンター席にどうぞ。その分、イチゴをサービスさせていただきます」

「えっ、本当ですか。じゃあ、カウンターで」

 現金なもので、亜由美はすぐさまうなづいていた。


 カウンターに座るときに気づいた。ちょっとギクっとする。

 あった。確かに扉が二つ。さっきすみれたちが入ってきた扉ともう一つ、すぐ隣に同じものがあった。たぶん、入ってきたのは右側だと思う。確かじゃないけど、たぶん・・・・・・。

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