六話
「まさか、奴隷に墜ちとるとはの」
金床などの道具を荷馬車に載せ終えたドワーフの老人は、馬車内で眠っている二人のうち、少年を見てそう呟く。
「吸血鬼か。まったく、いつから忌避されるようになったんじゃ」
二人を購入する際に、二人を忌まわしげに見ていた奴隷商人を思い出し、それに対して僅かに憤る。
「いつの時代になっても、こういうのは消えんのかのぉ」
しばらく彼は二人を眺めていると、部下の一人が駆け寄ってくる。
「リーダー、そろそろ出発の時間です」
「おお、そうじゃったか。それじゃ、行くとするかの」
こうして、大規模のキャラバン、ワールドライナーは王都を出発した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おぉ、ようやく起きたか」
「あれ?鍛冶屋のじいさんだよな?」
「そうじゃ。混乱しとるじゃろうから説明しておくかの。ここはわしの創立したキャラバンじゃ。それで、わしは奴隷のおぬしらを買ったんじゃ」
「おぉう、ちょっと意外だわ」
こちらに笑いかける鍛冶屋のじいさんは、扉を開いてチョチョイと手招きをする。
「その娘も連れて来るんじゃ。早速仕事をしてもらうからの」
「あいよ。おい、起きてるか?」
「……ん、あなたより先に起きてた」
「じゃ、行くとするか」
体育座りをするアリスに手を差し伸べて立ち上がらせると、俺達は部屋の外へと出る。
「馬車だったのか」
先ほどまでいた部屋は幾つも連なる馬車の一つだったらしい。あまりにも振動が無さ過ぎて勘違いしてしまった。
「ほら、こっちじゃよ」
じいさんが向かっているのは馬車の先頭だった。そこには、筋骨隆々で大きな謎の生物が馬車を引いていた。
「こやつは、伝説の魔物、ベヒーモスじゃ。手懐けるのには苦労したんじゃよ」
先頭の馬車へ案内される。そこは、大量の武器と防具で埋め尽くされていた。
「おぬし達の仕事は、魔物からキャラバンを守る護衛じゃ。この中から武器を一つ持っていくがいいぞ」
そう言って、大量の武器から一つだけ選ばせられる。
俺には少し、試したいことがあった。
適当に手に持った武器に対して、解析を発動する。
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鉄剣
レア度 : C
・鉄製の剣
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「おぉ」
思った通り、解析は生物以外も対象になるらしい。
それに、スキルが発動することができている。
俺は片っ端から解析をかけていった。
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鋼剣
レア度 : B
・鋼製の剣。
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鉄槍
レア度 : C
・鉄製の槍。
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鋼刀
レア度 : A
・ダマスカス鋼製の太刀。
・武器耐久上昇。
・斬れ味上昇。
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俺は迷わず、その刀を手にした。
少し抜いて刀身を出すと、鈍色の輝きが目に入る。
「うむ、二人とも、決まったようじゃの」
じいさんは感心したように頷く。
アリスの方は、ハルバードのような武器を持っていた。
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魔槍・トリアイナ
レア度 : S
・ミスリル製の斧槍。
・武器耐久超上昇。
・斬れ味超上昇
・魔法威力上昇
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「え」
「ふふん」
得意げな顔で小さな胸を張るアリス。
俺より高性能な武器を手にして、彼女は不敵に笑みを浮かべた。
「それらはわしの傑作の部類に入る業物じゃ。手入れを怠るなよ」
「これ、じいさんが打ったのか」
「そうじゃ。見事な出来じゃろう?その鋼を作るのには苦労したんじゃ」
「そうかい。じゃ、ありがたく使わせてもらうぞ」
ベルトに括ろうとするが、今の俺の服装は貫頭衣なのだった。
それを見たじいさんが、
「あぁ、おぬしらの着ていた服は回収済みじゃ。さっきの馬車に置いてある。着替えてくるがいい」
「お、準備いいな」
俺らは目覚めた馬車の中に戻ると、服を探す。
「お、あった」
ジーンズとノースリーブのシャツ、それにポケットが多く付いた長いコート。下着もあった。
「……わたしが先に着替えるから、外に出てて」
「ん?あぁ、わかった」
俺はジーンズのベルトに付いていたミスリルのナイフを持って外へ出る。
少し刃をぬいてみると刃こぼれ一つない綺麗な刀身が露わになる。
「色々と、あの娘には世話になったな」
一週間にも満たない時間だったが、彼女といた時間はそれなりに楽しかった。
移動する馬車に合わせて歩いていると、着替えたアリスが出てくる。
「……終わったから、いいよ」
「ほい」
入れ替わり馬車に入り、ささっと着替える。
武装はミスリルのナイフと鋼の太刀。投擲用ナイフはかさばるので、それがなくなった今は、以前より動きやすくなっている。
暇になった俺は、紅い端末を取り出して見る。習得可能スキルに刀術があったので取っておく。
「初仕事になるのか」
魔力感知のスキルに反応があった。キャラバンの後方。
俺は刀を抜き、魔物の殲滅に向かった。