五話
誰かに肩を揺すられ、俺は覚醒して、気だるく閉じた瞼を上げる。
「は?」
まず、視界に入ってきたのは深紅の瞳だった。
そして、ベッドで寝ていたはずが、石のレンガの上に変わっている。痛い。
「誰だ……?」
「……私はあなたと同じ、吸血鬼」
深紅の瞳を持つ吸血鬼が立ったことで、その姿を見ることができた。
腰程まで伸びる銀髪のツインテール。きめ細やかな白っぽい肌。そして、両手足に繋がれる枷。
「あんたは……罪人か何かか?」
「……違う。寝て起きたらここにいた」
「あぁ、そう」
状況は俺と同じらしい。彼女との共通点は、吸血鬼だということ。つまりは、
「血液魔法のせいでバレたか」
過去に血液魔法を使用する吸血鬼がいたのだろう。
それで、俺が吸血鬼であることが気づかれた。そんな感じだろう。
取り敢えず俺にも嵌まっている枷を強引に引き千切ろうとするが、力が思うように発揮できない。
服装も貫頭衣のようなものに変わっていた。
「えーっと、端末は……よし、あった」
なぜか回収されずにポケットに入っていた端末を取り、起動する。
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城川 裕【封印】
Lv : 55
種族 : 吸血鬼・真祖
生命力 : 58,300 / 58,300
魔力量 : 28,600 / 28,600
筋力 : 55,000(550)
耐久 : 53,000(530)
敏捷 : 50,000(500)
器用 : 51,000(510)
魔力 : 52,000(520)
固有スキル【使用不可】
・解析
・隠蔽
・吸血
・鮮血の王
・弱点克服
・飛行
・韋駄天
・全ステータス十倍
・血液魔法
・—————
・—————
・—————
・—————
スキル【使用不可】
・心眼
・土属性魔法Lv3
・光属性魔法Lv1
・生命力回復速度上昇Lv3
・魔力回復速度上昇Lv3
・見切りLv5
・気配遮断Lv4
・魔力遮断Lv4
・魔力感知Lv3
・剣術Lv5
・槍術Lv2
・体術Lv4
・投擲Lv5
・直感Lv6
習得可能(2440ポイント)
・無属性魔法 100
・闇属性魔法 200
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……逃げるのは無理らしい。
「どうしたものか……」
「……わたし達は、そのうち出られる」
「は?なんでだよ?」
「……私とあなたは、人間に忌まれる吸血鬼。明日には奴隷商に売られて、誰かに買われる」
苦笑いを浮かべるが、彼女は微かに笑みを浮かべる。
「でも良かった。わたし以外にも吸血鬼が生きてたんだから」
彼女はどこか遠い場所を見るような眼をする。
「あなた、名前は?」
「裕。城川裕。そっちは?」
「わたしはアリストリア。姓はずっと前に失った。長いからアリスでいい」
「それじゃアリス、聞きたいことが———え……?」
急激に眠気が襲ってくる。
「これ……睡眠…魔法。抵抗され……ために使わ…る」
最後まで聞き取れずに、睡魔に負けて意識を失った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
クラティア火山の最深部。そこは強力な火龍や飛竜が闊歩する魔境である。
その一歩手前にあるフロアで、一人の少女が竜の死体を量産していた。
「はぁ!」
荘厳な輝きを放つ聖剣を振り、襲いかかる竜達を薙ぎ払っていく。
そのうち、生きている竜は恐れをなして逃げ去っていった。
少女はそれを追うことなく、竜の死骸に触れ、彼女だけが持つ魔法を発動させる。
「『収納』」
死骸の山は、その一言で消え去る。
「『テレポート』」
次の瞬間には、少女の姿は跡形もなく消え去っていた。
王都のギルド。少女はそこへと一瞬で移動していた。
「買い取ってください。これ全部」
ギルドの内部に、竜の死骸が現れる。
「ほぉ……わかった。これだけの量だと……そうだな、4,300万デラってとこだな」
ギルドマスターはどこからか白金貨四枚と小さい白金貨三枚を少女に放る。
それを見て頷いた少女は、王都の東側の大通りへと向かう。
そこには、娼館や奴隷商店などが建ち並び、夜になると活気の出てくる場所だ。
少女は事前に調べた情報から目的の店へと向かうと、扉を開ける。
「これはこれは、勇者様ではありませんか」
「ここに吸血鬼の奴隷がいますね?それを買いたいんです」
「申し訳ありません。つい先ほど、キャラバンの方が購入されていきました」
「………。それはどこのキャラバンですか?」
「幾ら勇者様とはいえ、お客様の情報を確認するわけには……」
「はい」
勇者様と呼ばれた少女は、百万デラの価値のある小白金貨を差し出す。
「ワールドライナーというキャラバンになります。明日、出発されるそうです」
「そうですか、ありがとうございます」
濃い藍色の髪を揺らす少女———陽は、キャラバンの集会場へと足を進めた。