三話
「クラティア火山ってどこだよ………」
図書館でもあれば調べられるが、俺は確実に迷子になる自信がある。
どうしたものか。そう悩んでいる俺の隣に、フードを深くかぶったローブ姿の何者かが近づいてくる。
「……誰だ」
「わ、私ですよ、陽です。変装しないと色々面倒なんです」
それを聞いて納得した。あの光景を見せられた後なので説得力があった。
「話は聞きましたよ。クラティア火山、行くんですよね?」
「……ああ」
「案内しましょうか?」
「……………頼む」
「ふふん。任せてください。あ、そういえばまだ名前を聞いてないんですけど……」
「ん?そうだったか。俺はし———ユウだ。姓は無い」
もう少しで本名を言って、日本人だとバレる所だった。そんなことをしたら俺が〝王〟の後継者であることが割れてしまう。
俺の名前を何度か呟く陽。
それを終えると、眩しいくらいの笑顔で手を引っ張ってくる。
「さ、行きましょう。私のスキルで瞬間移動するには、その場所を視界に入れてないと出来ないんです」
割とあっさりとスキルを明かしてきた。これは信頼されているからだろうか。
都市から出た瞬間、俺の目の前には巨大な火山が広がっていた。
「おうふ……凄いな、こんなスキルがあったなんて」
「いえ、正確には神聖魔法という魔法の一つなんです」
瞬間移動すら、神聖魔法の一つでしか無い。なら、他の神聖魔法はどれだけ強力なのだろうか。
そんなことを考えているうちに、陽は火山に開く洞窟の前に移動していた。
「一応聞いておきたいんだが、この中にフレイムリザードっていう魔物は居るのか?」
「さぁ……私も初めてなのでわかりません。けど、フレイムってつくくらいだからいると思いますよ」
俺は引っ張られながら洞窟へ入る。
内部はかなりの熱気だったが、俺は【弱点克服】のお陰で幾らかマシだった。
「う……暑いですね……」
心なしか、陽の声にも元気が無い。
「いや、そのローブ脱げばいいだろ」
「あ、そうですね」
彼女は結構天然なのかもしれない。
ローブを入り口近くに置き、聖剣の柄に手を置いて周囲を警戒する陽。
「近くに魔物はいないみたいですね」
確信したように彼女はそう言う。確かに、俺の魔力感知にも反応は無い。魔力感知と似たような効果を持つ魔法が、彼女の神聖魔法の内にはあるのだろうか。
「む」
魔力感知に反応が三つ。陽もそれを認識したようで、聖剣を抜いて構える。
姿を現したのは、赤い鱗と膨れ上がった筋肉、さらに鎧と剣を装備した二足歩行するトカゲだった。
「これが……フレイムリザード?」
「ユウさんはフレイムリザードが目当てなんですか?」
「ギルドの昇格試験の内容がこいつらを十体討伐することなんだよ」
「そうなんですか。えっと、それじゃあ私は手を出さないほうがいいですね」
聖剣を鞘に収め、俺より後ろに下がる陽。
俺はフレイムリザードに解析をし、俺でも倒せそうかを確認する。
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Lv : 40
種族 : フレイムリザード
生命力 : 15,200 / 15,200
魔力量 : 4,000 / 4,000
筋力 : 560
耐久 : 380
敏捷 : 630
器用 : 440
魔力 : 100
スキル
・剣術Lv3
・熱耐性Lv3
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予想よりステータスは低い。だが、吸血鬼だとバレないように、吸血と血液魔法は控えるべきだ。
今まで血液魔法が主な武器だったため、武器は使えない。相手から奪うって使うのがいいだろうか。
三体の内一体が突撃してくる。
左上から袈裟斬りをしようとする腕を受け止め、その腕を掴んだまま膝を振り上げる。
一瞬だけ力が抜けた所で、剣を奪い取って間合いを取る。
武器さえあればもう負けることは無いだろう。
韋駄天のスキルで二倍になった敏捷で、三体とも横に一刀両断する。
断面から吹き出る血の誘惑を理性で断ち切り、三体分の牙を剣で剝ぐ。
「お見事です。この私でも動きを追えませんでしたよ?」
「そうか?速さだけなら陽に勝ってるかもな」
割と小さな牙を金の入っている革袋に入れ、刃こぼれした剣を放る。
「ユウさんって、自分の武器を持たないんですか?」
「いや、いま造ってもらってる最中だな。まぁ、明日には出来てると思うけど」
「だったら、私のナイフを貸しましょうか?」
「ナイフ?」
「はい。ミスリル製なのでよく斬れますよ?」
「……それじゃ、今日だけ貸してくれ」
「はい♪」
陽は腰からナイフを外して渡してくる。
それを受け取り、少し刃を出してみる。
紫がかった金属。鋼より高性能と云われるそれは、産出量が少ない高価なものと相場が決まっている。
俺はその斬れ味に期待し、洞窟の奥へと向かって歩いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「いやー、今日は楽しかったです。ストレス発散にもなりましたし」
ギルドへ帰って俺は無事にランクアップ。Fランクから一気にCランクに昇格だ。
「あ、これ、返しとくぞ」
ミスリルのナイフを差し出すが、押し返されてしまう。
「それは貰っちゃってください。ぶっちゃけ私、聖剣しか使わないので」
「は?でも」
「それは貰っちゃってください」
「………あぁ、はいはい」
大人しくナイフを腰に戻す。
「それでは、また会いましょうね、ユウさん」
「おう。じゃあな」
そう返すと、笑顔を浮かべて走り去っていく。
「うん?」
彼女の物言いに、どこか違和感を感じた。
気のせいだと割り切り、俺は適当な宿を探した。