二話
結論から言えば、血液魔法はかなり使い勝手の良いスキルだった。
体内にある血は流石に無理だが、自分以外の血も操れるし、固めて武器とし使うこともできる。
その時の強度は、例によってレベルの高い生物の血液を使うほど上がるようだ。
「うらっ!」
血の槍を思い切り投擲する。何度か練習したため、それは狙いを外さずに首に突き刺さった。
「ふぅ、これで3体目か」
もう、アースドラゴンを単独で狩るくらいは出来るようになっていた。
っていうか、レアっぽいのにアースドラゴン出過ぎだろ。
手慣れた動作で吸血を行い、服や肌に付着した血を血液魔法で除去する。
それを終えたら、端末を取り出してステータスのチェックだ。
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城川 裕
Lv : 45
種族 : 吸血鬼・真祖
生命力 : 442,800 / 442,800
魔力量 : 320,000 / 322,200
筋力 : 7,060
耐久 : 4,920
敏捷 : 2,950(5,900)
器用 : 2,360
魔力 : 3,580
固有スキル
・解析
・隠蔽
・吸血
・鮮血の王
・弱点克服
・飛行
・韋駄天
・血液魔法
・—————
・—————
・—————
・—————
スキル
・心眼
・光属性魔法Lv1
・生命力回復速度上昇Lv2
・魔力回復速度上昇Lv2
・見切りLv2
・槍術Lv2
・気配遮断Lv2
・魔力遮断Lv2
・魔力感知Lv3(1up)
・土属性魔法Lv3
・剣術Lv4
・体術Lv4(1up)
・投擲Lv5(1up)
・直感Lv6
習得可能(740ポイント)
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いつも通り血液魔法でナイフを作り、売れそうな部位を解体していく。
そして、今のレベルアップにより魔力感知の範囲が広がり、俺はとある場所を発見した。
人口約1,000万人の巨大な都市だ。
隠蔽と遮断系スキルをフル活用し、一応いつでも逃げられるようにして、都市の入り口の列に並ぶ。
俺の番が回ってくると、水晶玉を渡される。
「ふむ、犯罪歴は無いな。通って良いぞ」
水晶玉を回収され、通行の許可を貰う。
「なんだ、案外簡単に入れたな」
一悶着あると予想していたが、杞憂だったようだ。
大きな城門を通過すると、大通りが視界に入る。
鎧に身を包んだ人からローブ姿の商人まで、とにかく賑わっている通りだった。
両サイドに並ぶ店の内、目当ての店を見つけると、人混みを抜けて扉を開ける。
瞬間、俺は腕を振るい、飛来してきたそれを掴み取る。
それは、刃を潰された短剣だった。
「危ねえな……」
「ふむ、見事な反応じゃった。おぬし、名はなんという?」
店の奥から出てきたのは、短剣を投げたらしいドワーフのように身長の低い人だ。
「俺は裕。それと、いきなりこんなもの投げるなよ……」
「儂はそれすら対処できん弱者に武器を提供する気はない。してユウよ、何を求める?」
「あのさ、魔物?の角とかって武器に加工できたりするのか?」
そう、俺が訪れたこの店は鍛冶屋。アースドラゴンの角が邪魔なので、いっそ武器にして持ち運びを楽にしようという魂胆だ。
「当然じゃの。魔物の角や爪は特殊な構造をしておるからの。そう言うからには、何か持っておるのか?」
「まあな。これだ」
懐から四本の角を取り出す。アースドラゴンのものだ。
それを見たドワーフの爺さんは、僅かに目を見開く。
「ほぉ、アースドラゴンの角か。中々に上質なものじゃが、これで何を作る?」
「投擲用のナイフを作れるだけ。代金はその角から引いてくれ」
「そうなると、投擲用ナイフは九本作れるの。それとおぬし、他に何か素材は無いのか?あったら買い取ってやれるんじゃが」
「あ、そうなの?」
こういうのは、ギルドだけでしか買い取ってくれないと思い込んでいた。
他にあるのは、アースドラゴンの爪だ。計32本ほど。
「やはり品質が高いのぉ。一本4000デラでどうじゃ?」
合計で128,000デラ。日本円だとどのくらいなのだろうか。
「それで頼む」
「うむ。ほれ、これが代金じゃ」
小さな革袋を渡される。中には金貨が一枚、小さな金貨が二枚、それと銀貨が八枚入っていた。
これで、これより下の通貨はだいたい予測できる。
「ナイフの方は……そうじゃの、明日にはもう完成しそうじゃから、取りに来るがいい」
「結構速いんだな。それじゃ、また来るよ」
革袋をベルトに括り、俺は大通りに足を運ぶ。
相変わらずの人通り、いや、むしろ増えているような気がする。
「おい、勇者様が降臨なさったそうだぞ!」
「なに!?どこだ?一目だけでも見ておきたいが……」
「……勇者か」
神聖の王であるあの美少女しか浮かばなかった。
その噂をしていた奴の後を、俺は追跡し始めた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「やっぱりか」
円形の大広場の中央付近で、例の美少女———確か名前は陽———が立っていた。
……というか、野次馬に囲まれて自由に動けないようだ。
「勇者様、先ほどの魔法をもう一度お見せください!」
「すいません、人が集まっていると危ないので魔法はちょっと……」
「僕を弟子にしてください勇者様!」
「え、えっと。ごめんなさい。私は教えるのとか苦手なので……」
なんというか、御愁傷様としか言えない状況らしかった。
「………ん?」
突然、その姿が消えたかと思うと、少し離れた場所に移動していた。
僅かにだが、魔力感知が反応したため、恐らくは神聖魔法というスキルの力だろう。
「やっぱりチートだな」
あれからどのくらいレベルアップしたのか。少し気になった俺は解析をかけてみる。
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雨宮 陽
Lv : 40
種族 : 人間
生命力 : 320,000 / 320,000
魔力量 : 479,000 / 480,000
筋力 : 12,000
耐久 : 8,000
敏捷 : 4,000
器用 : 8,000
魔力 : 12,000
固有スキル
・神聖の王
・神聖魔法
・聖剣呼応
スキル
・生命力回復速度上昇Lv3
・魔力回復速度上昇Lv3
・直感Lv3
・体術Lv4
・剣術Lv5
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このステータスが神聖の王のスキルによって十倍されるかと思うと、若干鳥肌が立つ。
ふと、彼女は周囲をキョロキョロと見回し、何かを見つけたのかパアッと表情を明るくさせる。
そして、こちらへと歩いて来て……。
「あの!あの時助けてくれた人ですよね!怪我は大丈夫ですか?」
俺の左腕を見て安堵した後、心配するように聞いてくる。
解析したのが直感スキルで気付かれたのだろうか。
「……まぁな。そっちこそ大丈夫だったのか?」
「はい。私、こう見えても強いんですよ?」
そう言いながら腰の聖剣を示してくる。
やめてください。本能がそれを拒絶してるんで。
「あ、私は雨宮陽って言います。それで、もし良かったら、どこか食事にでも———「あぁ!勇者様、いつの間にこんな所に!」———ごめんなさい。また今度行きましょう!」
そう言って何処かへ駆け出してしまう。
「よし、俺も冒険者ギルドを探すか」
陽の左手には何かのカードのようなものが握られていた。
絶対ギルドカードだろう。あれは。
辺りを見回すと、剣が交差した紋章の刻まれた看板を発見する。
「やっぱりあったか」
迷わずそこへ入ると、やはり冒険者ギルド的な場所だった。
受付カウンター、クエストボードと記された板、酒場の様な卓と椅子。
まさに、といった様な空間だった。
「登録なら一万デラだぞ」
何かを言う前に、カウンターのおっさんにそう言われた。
無言で小さい方の金貨をカウンターに置く。
「ようこそ。ここは冒険者のギルドだ。そこのクエストボードから依頼を見繕って、それを達成するだけの簡単な仕事。まぁ、入ったばかりのFランカーじゃ、雑用くらいしか依頼は無いけどな。ある程度依頼を達成すると、ランクアップができる。そうすれば受けられる依頼も増えるし、報酬も増える。ここまではいいか?」
「ああ」
「依頼を受けるには受注料を払わないといけない。報酬の十分の一程だ。これは違約金代わりだな。達成すればちゃんと返ってくる。魔物の素材はギルドで買い取ってやれる。それでランクアップする場合もあるな。それと、冒険者同士の争いにギルドは一切関与しない。説明は以上だ。何か質問は?」
「いや、ない」
「オーケー。それじゃあこのカードを持ってけ。これに触れれば勝手にお前の情報を表示してくれる。優れものなんだぞこれ」
白いカードに触れると、文字が刻まれていく。
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城川 裕
ランク・F
称号・
筋力・A 耐久・B 敏捷・A 器用・B 魔力・B
スキル
・心眼
・剣術Lv4
・体術Lv4
・槍術Lv2
・投擲Lv5
・光属性魔法Lv1
・土属性魔法Lv3
・見切りLv2
・直感Lv6
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「なんだ、優秀じゃねぇか。この値なら……そうだな、Cランクの昇格試験を受けられるが、どうする?」
「試験って具体的に何をすれば?」
「ん?そうだな、こっちが定めたクエストを達成するだけでいい。どうする」
「じゃ、受けるかな」
「よし、それじゃあ…………これだな、これを達成してこい」
クエストボードから一枚の紙を渡される。
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フレイムリザードの討伐
適正ランク・C
達成条件 : クラティア火山に生息するフレイムリザードを討伐し、証拠として十体分の牙を集める。
報酬 : 20,000デラ
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「健闘を祈るよ」
受注料を払い、俺はギルドを後にした。