62 テスト勉強と誕生日プレゼント
放課後。
四方館では祀莉と桜が向かい合って座っていた。
「あ、祀莉ちゃん。その問題はね──」
祀莉が手を止めて悩みはじめたところで桜が丁寧に問題の解説をはじめる。
とても分かりやすい解説に、ふむふむと相槌を打ちながら祀莉は問題を解いていった。
二学期の期末テストまで2週間を切った。
要の宣言通り、放課後は桜が祀莉の勉強を見てくれていた。
桜も自分の勉強をしながら祀莉の様子を見つつ、良いタイミングで手を貸してくれる。
(要もこうしてくれれば良いのですが……)
監視するように祀莉の手元を睨みつける彼のプレッシャーは半端ではない。
毎回のことながら恐怖と戦いつつテスト勉強に励んでいる。
結果、それなりの成績を残せているのだが……騒動があった球技大会後のテストはあまり良い結果ではなかった。
あんなことがあったのだから、と言い訳しようにも目の前の桜はトップをキープしていたので、ギリギリ平均に届かなかった祀莉は何も言えずただ落ち込んでいた。
(前回があれだったので、今回は更にスパルタだと思ったのですが……)
今回は桜が勉強を教えてくれることとなった。
要は放課後になると祀莉と桜を四方館に残して下校してしまう。
何か用事があるのかと訪ねても「まぁ、ちょっとな……」と曖昧に濁す。
桜と何かあるのかと思ったが、彼女は祀莉と一緒にいるのでその考えは完全に否定されている。
「どうして要はすぐに帰ってしまうのでしょうか……?」
そんな疑問が無意識に口から出ていた。
「あ、やっぱり北条君とが良いですか?」
祀莉の呟きに反応した桜はニコニコと笑っていた。
「い、いえ! そういうわけではなくて……!」
「ふふふー。良いんですよー。やっぱり私より北条君が良いんですよねー」
「あの……」
更に追い討ちをかけるように畳み掛けてくる。
祀莉が要を気にしているのが気に食わないのだろうか。
嫌味っぽく聞こえるように語尾を伸ばしている。
「いいなー。北条君と2人きりー」
「うぅ……」
否定すればもっと嫌味を乗せて返ってきそうなので、祀莉は口をつぐんで心の中で叫んだ。
(すみませんっ! でもわたくし、そんなつもりはないんですー!)
「もうすぐ祀莉ちゃんの誕生日ですね」
「え?」
口をギュッと結んで黙っていたら、桜の方から唐突な話題。
祀莉は目を丸くした。
確かにもうすぐ祀莉の誕生日だった。
「どうして知ってるんですか?」
「ふふ、秘密です」
なぜ?どうして?と何度も質問してみたが桜は笑ってはぐらかす。
知っているのは諒華ぐらいのものだが、桜を交えて話をしていてそんな話題はあがったことはない。
だったら誰が……?
一瞬、要の顔が思い浮かんだ。
(でも要がわたくしの誕生日を知っているとも思えないですし……)
ダメ元でもう一度「どうしてですか?」と訊ねてみても「どーしてでしょうねー」としか返ってこない。
教えてくれる気はないらしい。
気になって仕方がないのだが……。
──ならば自分で考えるしかない。
んんーっと考えを巡らしたがやっぱり分からない。
問題を解いている時以上に悩んでいる祀莉を見て、「そーですねー……」と桜が静かに言った。
「ではヒント! ……ていうか答えですね。私が祀莉ちゃんの勉強を見るように提案したのは北条君の方です」
「え……?」
「しばらく放課後は忙しいからってお願いされていたんですよ!」
祀莉は桜を見たまま、ぱちぱちと数回瞬きした。
どうだ!と勢いをつけて言った桜は祀莉のいまいちな反応に同じように目を瞬いた。
「あれれ? 祀莉ちゃん、分かってない?」
「いえ、分かりました……」
……けど、ただ意外だった。
要が祀莉の誕生日を知っていたという事実に。
集中が切れてきたこともあり、勉強会はただの雑談になってきていた。
桜もシャープペンを置いておしゃべりモードに入っている。
「祀莉ちゃんは今まで北条君にどんなプレゼントをもらってたんですか?」
「え?」
唐突な話題から唐突な質問に。
祀莉の頭はついていくのに必死だった。
戸惑いながらも桜の質問した本当の意味に思い至った。
(もしかして、桜さんは要のセンスを確かめるために事前調査を……?)
興味津々に訊ねてくるが、生憎祀莉は要からプレゼントなんてもらったことがなかった。
残念ながらその調査は無駄に終わってしまい申し訳ない。
正直に「もらったことなんてありませんよ」と告げると、桜は「またまた〜」と冷やかすように追い打ちをかける。
(本当ですってば……!)
誕生日プレゼントと言えば……毎年家族に何か欲しい物はないかと聞かれるが、本当に欲しい物を言えるはずがないので「お任せします」とだけ伝える。
そうすると大抵、可愛らしい服やぬいぐるみがプレゼントされる。
(そういえば、去年の才雅からのプレゼントは素敵なアクセサリーでしたね)
小粒の宝石がついたブレスレット。
とある有名ブランドのものだということは包装で分かった。
こんな高価な物じゃなくて良いんですよ、気持ちだけで充分ですと何度も言った覚えがある。
しかし才雅は「姉さんのために毎月コツコツ貯めてるから」と笑って手渡すのだ。
(うぅ……なんて良い子なの……っ!)
ちょっと調べれば、あきらかに才雅の小遣いだけでは買えるものではないと気づいたが、もらった物を値踏みするような行動は失礼だと思った祀莉は、未だにそれが才雅だけからのプレゼントだと思い込んでいた。
「ふーん。2人だけの秘密ですかー、そうですかー」
祀莉が黙っていると桜はひとりで自己完結していた。
にこにこ、というよりはにまにまと笑っているように見えた。
(どうして突然誕生日の話題を……? あ! それって……!)
桜の誕生日も近いのではないか、と祀莉は推理した。
プレゼントを調達するために要は放課後、祀莉と桜を残して奔走しているのではないか……と。
(わたくしに邪魔されず、桜さんに内緒でプレゼント選びができる! きっとそうです!)
桜の態度からしてうまく隠せていないようだが、こんなにも期待されていれば問題ないだろう。
プレゼントを受け取ったときの嬉しそうな顔が浮かぶ。
(できれば想像ではなく実際に見てみたいですが……)
「桜さんの誕生日はいつなんですか?」
「え、私ですか?」
「はい!」
あわよくばプレゼントを渡しているシーンを盗み見できないかと祀莉は目を光らせる。
そのためにはまず桜の誕生日を知らなくてはならない。
(今調達しているなら、きっとテスト前かテスト期間中ですね!)
テスト勉強なんかより祀莉にとってはそっちの方が重要だ。
正面に座る桜にぐっと顔を近づた。
祀莉の勢いに驚きつつも、桜は質問に答えた。
「12月25日ですよ」
「12月……25日……ですか?」
聞き覚えのある日付をゆっくりと繰り返す。
それもそのはず。
その日はクリスマスであり──
「はい。────祀莉ちゃんと同じ誕生日です!」




