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59 事の顛末

 花園家と間宮家の両親は、どうして西園寺家の父親がこの場にいるのかと、不思議に思っていた。

 学園に用事があってたまたまここに居合わせた、きっとそうだろう……とそんな認識でいた。


 娘たちからは“桜を閉じ込めた”とことについて、言いがかりをつけられていると聞いていた。

 もし、それが本当だとしても自分たちの力でなかったこと・・・・・・にするつもりだった。


「娘は違うと言っている。私は信じている!」

「うちの子を妬んでの言いがかりだ!」



 ──と、こんな感じで認めようとしない。


 しかし体育館倉庫に設置されていた監視カメラの映像を見せられて、目を見開いたまま固まった。

 高性能カメラがばっちりと娘の姿を捉えている。

 倉庫前で行われていた行為──桜と祀莉・・を閉じ込めた場面も一緒に。

 これで言い逃れはできなくなった。

 予想もしていなかった事実に2人の両親の顔色は真っ青だった。



 花園百合亜と間宮香澄もまずい……と、映像から目を背けた。






「それと──西園寺祀莉さんの背中の痣、心当たりはありませんか?」


 そんな2人に対して学園長が口を開いた。

 保険医から、祀莉の背中には痛みを伴うほどの痣がついていたことが報告されている。

 カメラは倉庫前の扉を監視するためのものなので、扉から2メートル以上離れた場所は記録されていなかった。

 学園長も彼女たちの仕業だと分かっているがここは敢えて問いかけた。



「どうなんです?」

「……」


 押し黙る2人の女子生徒を一瞥して学園長は続けた。


「ここに西園寺さんが着ていた制服があります。そして、これにはくっきりと靴の足跡が……」

「っ!」


 ビニール袋に包まれているのは、丁寧に折り畳まれた祀莉のベスト。

 背中の部分が見えるように入れられたそれを学園長は2人に見えるように掲げた。



「あ……、そ、それは……っ」


 花園百合亜が動揺して思わず声を出してしまった。

 ベストには靴底の形が分かるほど、鮮明に土汚れがついていた。

 父親にねだって買ってもらった数量限定のブランド品。

 特徴的な靴底とメーカーのロゴが見事にスタンプされていた。


 それを見た瞬間、父親は百合亜を平手で引っ叩いていた。


「なんてことをしてくれたんだっ!」

「きゃぅっ!!」



 それから娘を擁護していた父親は態度をがらりと変え、ただただ祀莉の父親に向かって頭を下げていた。

 間宮家も一緒になって許しを乞うていた。

 泣きじゃくる娘の頭を押さえつけて、何度も何度も謝罪と釈明の言葉を口にしていた。





***


 そんなことが……と、祀莉は諒華の話に耳を傾けていた。


「で、転校するか自主退学かって話をして、その後はまぁ……大人の話だから私たちは帰りなさいってことになって……。そこで秋堂君がね──」

「え? 秋堂君もそこにいたんですか?」

「私が呼ばれたんだから当然でしょ? ちゃーんと北条君もいたわよ」

「そうなんですか……。それで、秋堂君がどうかしたんですか?」

「あ、そうそう。必死に謝ってる彼らを見て秋堂君が突然口を開いて……」






 ──あのさ、ここには桜のご両親もいるのに、なんで西園寺の小父さんにだけ頭を下げてるの?





「……って、すっごい剣幕で」

「え……?」


(秋堂君が……? 要ではなく?)


 そこは要の役割なんじゃ……。

 桜の両親がいるのならなおのこと。

 彼女を助けるヒーローとして良い印象をつけておくところではないか。


(なんでそんなチャンスをむざむざと秋堂君に奪われるんですか!)




「いっつもヘラヘラしてるあの男があんな顔するなんてねぇ……祀莉? どうかした?」

「……いえ。あの、要は何も言わなかったのですか?」

「北条君? 一切言葉は発してなかったわね。ただ……」

「?」

「無言で彼女たちを睨みつけていたわ。それに気づいた花園百合亜がずっと怯えていて……」



(桜さんがあんな目に遭ったんです。それはもう当然ですよね!)


 でも睨んでるだけじゃなくて、もっと貴矢のようにヒーローっぽい行動をとってほしかった。

 祀莉がときめくような展開はなかったようだ……残念。

 


「そうですか……要はただ睨んでいただけ、ですか……」

「なに言ってんの! 北条君もえげつないわよ。北条君が動いてたのは話し合いの前!」

「はい?」

「ベストについてた汚れはそこまでくっきりじゃなかったのよ。で、同じメーカーの靴をわざわざ取り寄せて、もう一回汚れをつけてたのよ。くっきりと!」

「え……」


(それは証拠品ねつ造というものでは……)



「数量限定でプレミアがついている靴を一日で手配した手際は見事だったわ。いくら積んだのかしら?」

「……」


 裏で工作するなんてヒーローとはほど遠い。

 堂々と掲げたということは、父親や学園長もグルなのだろうか……。

 諒華曰く、その靴は彼女がありがたく頂戴したらしい。


「北条君がね、持ってても仕方がないし祀莉じゃサイズが合わないから私にくれるって。別に構わないわよね?」

「わたくしは構わないのですが、諒華は良いのですか? 証拠をねつ造するために靴底を汚したんですよね?」

「ねつ造って言わないの! 土をつけただけ。デザインは可愛いから私はもらえてラッキーよ」


 諒華が気にしていないなら別に良い。

 デザインが可愛かろうと、どうせ祀莉の足には合わないのだから。



(……ん? どうして要がわたくしの靴のサイズを知ってるんですか……?)


 残る疑問に首を傾げた。


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