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04 思う存分、運命を感じなさい

 (かなめ)に手を引かれるまま、生徒たちの視線を浴びながら歩く祀莉(まつり)

 思考に夢中でヒロインの前を通り過ぎてしまっていることに全く気づいていなかった。




 そんな祀莉の耳に聞こえてきたのは、小さな声で話し合う令嬢たちの声だった。


「見ました? あの子、特待生の方ですわよね。北条様が通られても頭を下げませんでしたわ」

「不躾にじっと北条様を見つめてましたわよね!」

「まぁ、なんて失礼な態度かしら!」



 ————それだ!!



 学園の王子様的存在の要が歩いているのに、挨拶もなく呆然と見ていたヒロイン。

 その上、自分の婚約者をじっと見つめていることに腹を立てて、祀莉が必要以上に叱咤する。

 要が北条家の御曹司だと知らないヒロインは、どうしてみんな恭しく頭を下げているのか理解できなかった。

 そして、ただ要を見ていただけなのに、なぜ初対面の令嬢から一方的に怒られているのか分からない。



(そういうことだったんですね……って、あぁ!! もう門を過ぎてしまっています! ヒロインと要の出会いが……!)




 悪役令嬢としての役目を果たそうとしたが、思わぬミスをしていたことにようやく気づいた。


「大変です。要、今すぐ戻りましょう!」

「はぁ? 何言ってんだ……」

「良いから来て下さいっ!」


 繋がれていた手を今度は祀莉が引っ張る。

 さっきまでぼーっとしていたのに急に引き返そうとはどういうことかと、疑問を持ちつつも要は従った。



(なんてことを……! 今からでもまだ間に合うでしょうか……)


 不安に思いながらも祀莉は校門に引き返した。




 考えごとに集中している間に通過した校門。

 そこには小さな集団ができていた。


 気の強そうな女子生徒数人に囲まれて困っている女の子。

 間違いない。

 あの子がヒロインの鈴原桜だ。


 要の手を離し、注目の的となっている集団に近づいた。

 校門の近くでは甲高い複数の声が飛び交っている。


(どうしましょう……)



 口をはさむ隙すらないほどに、女子生徒たちは桜に罵声を浴びせていた。

 この中に割って入る勇気がない。

 しかし、こうなってしまったのは自分のミスだ。


(怖がってはダメです!)



 祀莉は息を吸って、囲んでいる女子生徒たちに向かって大きな声を出した。



「ちょっとあなた方、何をしているんですか!!」




 ——それはわたくしの役目なんです!


 そういう意味を込めて言ったつもりだった。



 が、ここにいる全員が詰られていた桜を祀莉が助けたように受け取っただろう。

 邪魔をされて立腹したリーダー格の女子生徒が祀莉に食って掛かった。



「あら、こちらの生徒が北条様のお通りなのに頭も下げず、失礼な態度でしたから注意していただけですわ」


 彼女の言葉に取り巻き2人が加勢した。



「そうですわ。あなた、見ない顔ですけど新入生かしら?」

「なら、花園様には逆らわない方が良くてよ」


 花園様と呼ばれたリーダー格の女子生徒がふん、と笑って胸を張った。

 きつく巻かれた髪をハーフアップにしている。

 この令嬢の方がよほど悪役っぽい。

 自分もそれらしく髮を巻いてくれば良かったのだろうか……。


 これ見よがしに髪をかきあげる目の前の女子生徒は、花園グループの令嬢だそうだが、西園寺には到底およばない。

 高飛車に振る舞っているのは、今まで自分がこの学園の頂点だと思い込んでいるからに違いない。


 この人は祀莉が要と一緒に車から出てきたところを見ていないのだろう。

 西園寺家の令嬢でかつ北条要の婚約者である祀莉が入学したと知ったら、この態度はどう変わるのだろうかと興味がわいた。







「——お前たち、何をしている」

「ほ、北条様……! あの、わたくしたちは……」


 祀莉の後ろには要が立っていた。

 桜から祀莉にターゲットを切り替えた令嬢たちを苛立ったように見下ろす。



「ひぃ……っ」


 さっきの態度はどうしたと言いたくなるくらい、ビクビク怯えている女子生徒に同情した。

 自分からは見えないが、どんな風に見下ろされているのかは想像がつく。


(あの目で見下ろされたら誰も逆らえない……)



 かつての自分もそうだったように。




「もういい。行け」


 低い声で命令された令嬢たちは深々と頭を下げ、そのまま後ずさるようにこの場を去っていった。


(家のランクで生徒も先生も態度を変えるとは聞いてましたけど、こんなにもあからさまだとは……)



 無言で令嬢たちを見送った要は祀莉の隣に立った。



「何を言われていたんだ」

「いえ、わたくしではなくこちらの……」


 そう言いながらヒロインである鈴原桜へと視線を向けた。

 その視線を追って要も彼女を見た。



 肩より少し下くらいの黒に近い焦げ茶色の髪。

 くせ毛らしく、肩に当たる部分がくるんと巻かれている。


 何でも良いからケチをつけたいライバルは、そのパーマが生意気だと言っていたことを思い出した。




 だが、そんなことは良い。

 今は要とヒロインの出会いだ。



 要の瞳に桜の姿が映し出される。






 ——さあ、思う存分、運命を感じなさい。

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