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24 体育館の裏には何があるでしょう?

(やりました! 言ってやりました……!)


 ヒロインを体育館裏に呼び出すというミッションを終えた祀莉は大いに満足していた。

 要から感じるチクチクとした視線も今日は気になら——き、き……


(——気になります! 何ですかさっきら、わたくしの方をチラチラと!)



 あとでちゃんと見せ場は作ってあげるから、今はそっとしておいてほしい。

 ビシッと決めて格好いいところを見せてくれれば、それで良いんだから。


 あぁ、放課後になるのが待ち遠しい。



 そのせいもあって、今日はやけに授業が長く感じられた。





***




 やっとホームルームが終わり、待ちに待った放課後だ。

 教室を出る準備は整っている。


 テスト前の時同様、要の邪魔が入るかもしれないが、今の自分なら強気に出れる。

 いくら睨みつけられたからって…………やっぱり怖い。


 お願い邪魔しないで!と心から念じつつ、ホームルームが終わったと同時に、挨拶もそこそこに教室を出た。

 危惧していた要の邪魔はなくてほっとした。





(これで滞りなく悪役令嬢として——…………んん? あれ? あれれ……?)


 背中に気配が感じる。

 要ではないことは、なんとなく分かった。

 ちらりと背後を伺えば、桜が後ろからついて来ているではないか。


(確かに放課後、来て下さいとは言ったんですけど……)




 こういう場合、先に祀莉がいてどーんと仁王立ちで構えているというのがお約束。

 ヒロインは行くべきかどうしようかと葛藤しつつ、不安気に登場するものだろう。


 そう思っていのだが、教室を出てすぐに後を追うようにしてついてきたのである。

 しかも、嬉しそうに。



(何があっても要が助けにきてくれると思っているのでしょうか……)


 なんて肝の据わったヒロインだろうと思いつつ、祀莉は“体育館裏”を目指した。








***




「うわぁー……。やっぱり素敵なところだなぁ……」


 桜が目をキラキラさせて感嘆の声を上げた。




 ここで問題。

 体育館の裏には何があるでしょう。

 正確には、二階に体育館がある体育棟の裏側。


 とりあえず呼び出しの定番、体育館裏をチョイスしたのだが、またしても祀莉はうっかりしていた。

 この学園にはいわゆる“体育館裏”というスペースはなく、かわりに白い壁に囲まれた豪華な建物がそびえ立っていた。


 それは特別な人間にしか利用できない施設——四方館。

 祀莉と要が、放課後に寛いでいる場所。


(四方館って、体育館裏にあったんですね……)



 体育館に行くのと、四方館に行くルートはまったく別。

 まさか、ほぼ同じ場所に向かっていたとは、今の今まで気づかなかった。

 防音、防振設備が完璧だから、隣の棟で部活動が行われていても、全く気にならなかった。





「まさか、西園寺さんが招待してくれるなんて思ってもいなかったです! 私が気になるって話してたのを聞いてたんですか?」



 “放課後、体育館裏に”という言葉を、“四方館に招待する”という意味で桜はとらえていた。

 だから嬉しそうに祀莉の後についてきていたのだ。



「え……っと、はい。まぁ……」


 自分が思っていたのと全く異なる結果になってしまい、動揺のあまり生返事をしてしまった。

 そう返事してしまった以上、四方館に招待せざるを得なくなった。






 ちょこんとソファに座る桜。

 瞳を輝かせて部屋の様子をぐるぐると見渡していた。



(お願いだから本棚には興味を示さないで下さい……)


 そこには祀莉のイメージを損なうとんでもないもの(漫画&小説)が隠されている。

 辞書と図鑑でカモフラージュされているが、それでも冷や冷やしていた。



「あの、西園寺さん。話って……? もしかして北条君の——」

「えぇーっと! な、何か飲み物を持ってきますね!」

「えっ! あの、おかまいなく……!」



 いきなり本題に入ろうとする桜の言葉を遮って、祀莉はそそくさとキッチンスペースに逃げた。

 彼女の方から要の話を振ってくるとは予想外だった。

 


(どどど、どうしましょう……!)



 突然、自分のテリトリーに入られて気が動転してしまっている。

 こんな状態では声が震えてまともに会話ができない。

 とりあえず落ち着こう。


 冷蔵庫に常備されている缶ジュースをコップに注ぎつつ深呼吸した。

 そういえば、ジュースを飲む時には何かしろと要に言われてたような……いや、そんなことより今どうするかだ。


 なんならこのジュースをかけるという手も……。



(——よし)



 コップをのせたお盆を持ちながらリビングスペースに戻る。

 なみなみと注がれたジュースをこぼさないように、ゆっくりと進んだ。

 ここに要がいたら絶対、取り上げられてしまうだろう。

 祀莉の動きはどこかぎこちなくて危なっかしい。


 その様子を見て、桜も手伝いを買って出ようと思った、その時——





 ——ピッ


 四方館の扉のロックが解除される音が鳴った。



(え……?)


 それに気を取られた祀莉はうっかり足を滑らせてしまった。



「——ひゃあっ」

「西園寺さんっ!?」



 桜が近づいた時には遅かった。

 バランスを崩した祀莉は後ろ向けに倒れていき、持っていたお盆もどんどん傾いていく。


 コップの中身のジュースが宙を舞うように飛び散った。

 そのほとんどが、祀莉の制服を鮮やかに染めた。



 ドンッと床に倒れる音と、バシャッと水滴がかかる音。



「何してるんだっ!?」


 直後に、要が現れた。

 ジュースを被って尻餅をついている祀莉。

 その正面に立ち尽くす桜。



 誰が見ても、“水をかけられて嫌がらせをされた場面にタイミング良くヒーローが登場”である。




 ——しかし、本来ならば祀莉と桜の立場は逆でなくてはならない。



(どうしてこうなるんですかぁ……!)


 涙が出そうだ……。

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