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22 赤点は免れました

 中間テストの結果が出た。



 返却された解答用紙に記された点数を祀莉は恐る恐る確認した。

 やはり数カ所、ケアレスミスをしていたものの、なんとか学年の平均点は越えていた。


(やりました……! 要のおかげです! どうしてあそこまでしてくれたのか分かりませんが、とりあえず感謝です!)



 掲示板には上位10名の名前が張り出されているらしい。

 諒華が見に行きたいと言ったので祀莉も一緒に掲示板を見に行った。




 学年トップは特待生である桜。

 しかもほぼパーフェクト。

 そして、その隣に要の名前があった。


(そういえば、要は昔から頭が良かったんでしたっけ……)



 赤点でもおかしくない祀莉の成績が要のスパルタでぐんと伸びた。

 あきらかに彼の功績だろう。

 それでもクラス平均にはまったく届かないが、学年平均よりは上だったので良しとしよう。





「あら、今年はBクラスが一位じゃないのね」


 AからFクラスの平均点を見つめながら諒華が呟いた。

 上位の生徒とともに掲示されていたクラスの平均点は、Aクラスが一番で、クラスが下がることにだんだんと低くなっている。

 なぜ、諒華がそんなことを言うのか祀莉には分からなかった。



「どういうことですか?」

「いつもはBクラスが一番平均点が高いの。ランクでは敵わないBクラスは、せめて成績では勝ちたくて毎回頑張るんだけどねぇ」


 順位を見に来たBクラスの生徒が我々Aクラスの集団を憎々し気に睨みつけている。

 相当悔しいようだ。



「今年は特待生の鈴原さんがいるからかな。あれ……? でも祀莉も入ってきたから変わらないか」


(うぅ……)



 クラスの平均点が公表されるなんて知らなかった。

 もしかして、要はそれを気にしていたのかもしれない。

 だからクラスの足手まといになる祀莉の成績を上げようとしたのだ。


(わたくしのために、あそこまでするわけないですものね……)



 理由を知った途端、さっきまでの感謝が薄れてしまった。





「祀莉って頭良いと思ってたんだけどなぁ」

「……諒華だって人のことは言えないのでは?」

「私は日本語がちょっと……ほら、外国暮らしが長かったから、問題の意味が分からなくて」

「5歳から日本にいるって言ってませんでした?」

「…………」


 なにはともあれ、中間テストは乗り切れた。




(これからは、授業中の観察はほどほどにしておきましょう……)





***





 今までのテストと学校のレベルを鑑みれば、かなり良い点数を取れたと祀莉は機嫌良く帰宅した。



「おかえり、姉さん。テストどうだった?」


 すでに着替えて寛ぎモードの才雅さいがが祀莉に声を掛けた。



「ただいまです。要のおかげでなんとか…………赤点は免れました」

「それは良かった! いくら西園寺家の令嬢でも、壊滅的に成績が悪かったらクラスが落とされる可能性があったからね」

「え……」

「要兄さんも必死だったみたいだし」



 初耳だ。

 まさか、成績でクラスを落とされることがあるなんて思わなかった。

 家のランクが全てだと思い込んで、入学当初から特に勉強のことなんて考えていなかった祀莉は、思いもよらぬ事実に衝撃を受けた。


(あ、危なかった……)



 なるほど。

 だから要はあんなにスパルタだったのか。

 今はまだ自分の婚約者である祀莉がBクラス、もしくはそれ以下になるなど、彼のプライドが許せなかったのた。

 しかし、ここで祀莉のクラスを落としておけば、心置きなく桜と過ごすことができるのではないか。

 クラス落ちした女なんて婚約者に相応しくないとかなんとか言って婚約破棄すれば良いのに、なぜそのチャンスを逃す?


(要はいったい何を考えているのでしょうか……)




 とりあえず、今回のテストで赤点はなかった。

 セーフである。

 制服から着替えて才雅のいるリビングで夕食まで過ごすことにした。

 


「ねぇ才雅、要ってわたくしに大きな声で怒鳴ったことありましたっけ?」

「え? どうしたの、いきなり……あ! 昔、姉さんがドジして怪我した時、要兄さんがすごく怒ったこと?」


 ……と言われても、祀莉にはまるで記憶にない。

 ドジなんて昔から数えきれないほどしている。

 いったいどれのことを言っているのだろうか。



「えっと……それっていつの頃の話ですか?」

「覚えてないの? まぁ……しかたがないか。姉さんすっごく泣いてたし」


 才雅が言うには小学生の時にそういった出来事があったらしい。

 同じ学校の生徒が、ちょっとした悪戯で運動場に大きめの落とし穴を作っていた。

 案の定、祀莉はそれにひっかかって怪我をしてしまったのだ。



 その子たちは別に祀莉をターゲットにしていたわけではない。

 見るからに落とし穴ですと主張する稚拙なトラップ。

 注意してなくても回避するのは容易だった。


 しかし、いつものごとくぽけーっと歩いていた祀莉は見事に足を取られ、転んでしまったのである。

 そこに、要が登場。

 足から血を流して泣いている祀莉に詰め寄った。



『お前に怪我をさせたのは誰だ!? 言えっっ!!』



 近くにいた才雅もびっくりするくらいの形相で、祀莉に向かって怒鳴っていた。

 正確には感情が高ぶって怒鳴るように祀莉に問いかけていたのだが。


 初めて見る要の鬼のような顔と怒鳴り声に、当時、要に恐怖を抱きつつあった祀莉は、気を失ってしまったのであった——。





「それから要兄さんは、姉さんの前では大きな声で怒らないようになったんだよ。覚えてない?」



 才雅の問いかけに祀莉はふるふると首を横に振った。

 ぶっ倒れた記憶はあるが、その理由は思い出せないでいた。


(そうですか。この前、頭に浮かんだ要の顔はその時の……)



 自分を心配してのことだった。

 それなのにいきなり気を失ってしまった祀莉を気遣って、それ以降、大きな声で怒らないようになったのだ。


「要兄さんは、昔から優しいよね〜」

「そう、ですね……」


 楽しそうに昔話をする才雅に、つられて返事をしてしまった。

 しかし、今の話を聞いて少しだけ要への恐怖が薄らいだのは確かだ。




 その後、落とし穴を掘った生徒が翌日から学校に来なくなったという話を聞くまでは……。

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