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18 ケーキを食べて買い物をしただけです

 噂のイチゴタルトを堪能した祀莉(まつり)は、待たせたあげく一番良い場所を占領していては悪いと思い、食べ終わるとすぐに席を立った。


 忙しい中、席を占領してしまってすみませんと店長に謝罪した。

 またいつでもどうぞと言われたが、多分社交辞令だろう。

 こんな迷惑な客はごめんだと自分なら思う。

 何か小さな失礼があれば店が潰れると、怯えていたに違いない。


 心の中でもう一度お詫びをして店を出た。








(本当、天気が良いですね……)


 せっかく外に出たので買い物がしたい。

 先日、読んでいる漫画の最新巻が出たはずだ。


 (かなめ)には先に帰っても良いと言ったのだが、やはりついてこようとする。

 これまでどうにか追い払おうとして、色々策を練って実行した。

 しかし、成功したと思ったらいつの間にか近くにいるので、これに関しては諦めモードである。



「そういえば、鈴原さんとはどうなんですか?」

「……なんだいきなり」

「気になっただけです。ほら、席も隣同士ですし……」


 時々お話ししているでしょう?

 この前も落とした消しゴムを拾ってもらっていたのを目撃しましたよ。


 受け取る時に手が触れ合って、お互いドキッとしたんじゃないかと想像して楽しんでいた。



「お前が思っているようなもんじゃねえよ」



 ……そうなんですか。残念。でも——



「かわいいですよね、鈴原さん。ついうっかり手を握ったりとか、頭を撫でたくなったりとかは……」

「ねぇよ。なんだよ、さっきから」

「……ないのですか? わたくしに隠れてこっそり——」

「ない」


(ないのですか……)



 教室では後ろから観察しているから、それは本当だろう。

 要ならもっと積極的に動くと思っていたのに意外と奥手なのだろうか。

 いや、そんなはずはない。

 相手が今までにないタイプの子だから慎重になっているのだ。



「女の子の憧れのシチュエーションですよ? 要はそういうのは恥ずかしくてイヤなのですか?」

「……手を繋ぐことはあるだろ?」


 ——あ、今白状しましたね。

 さっきまで断固として「ない」と言っていたくせに。

 動揺して本当のことを吐いてしまったのだ。


 いったいいつ、そんなシチュエーションに……。




「——こうやって」


 するり……と要は自分の手を祀莉の手に絡ませてきた。


(えっ!? いえ、わたくしとではなくて……)



 ぴったりくっつけられた手のひらに、またしてもドキっとしてしまった。


 小さい頃——そして今も、行動の遅い祀莉を引っぱることはある。

 が、こんな風に触れてくるなんて……





(——鈴原さんのために何度も脳内でシミュレーションしましたね!)



 自分がドキッとしてしまったくらいだ。

 きっと桜も心をときめかせるだろう。

 しかし、これを本人にしないことには意味がない。

 できれば自分が見ているところでムード満点にやってほしい。


 そっと握られた手を意識して顔を赤くする桜とそれを優しく見下ろす要。

 想像しているうちに、口元が緩んできた。

 いけないけないと思いながら表情を引き締める。


 繋がれた手は離されることなく、手を引かれるように隣を歩かされた。




 機嫌良く歩く祀莉、要は優しい目で見下ろしていた。





***






 後日。ふたたび祀莉は同じ店にケーキを食べにきていた。

 今度は諒華(りょうか)と2人。

 やっと予定が合ったので、噂のスイーツを食べにいこうとなったのだ。




 自宅に迎えに来たのが要以外の人間だと知って、家中の人間が驚いていた。

 そこまで自分は友達がいないと思われていたのかと少しへこんだ。


 そして、彼女もやっぱりお嬢様。

 “予約しておいたから”の一言をあっけらかんと言った。

 しかも、午前の営業時間をまるごと貸し切りで。


(人気の店を貸し切りにするなんて……。要でもそこまでしなかったのに……)




 店員に「何になさいますか?」と聞かれて祀莉は季節のミルフィーユを注文した。



「あら? イチゴタルトを頼みませんの?」


 織部諒華、お嬢様モードである。

 西園寺家に迎えにきてくれた時もきっちり猫を被っていた。

 しかし車に乗り込み出発すると、途端に気が抜けたのか、いつも通りの話し方に戻った。

 外ではお嬢様らしく振る舞えと煩く言われているらしい。

 “車から出たらお嬢様になるから”と宣言していた。



「実はこの前、要と来たんです。その時に頂きました。先に諒華と約束していたのに、ごめんなさい」

「いえ、別に構いませんのよ。言って下されば別のお店にしましたのに」

「これも食べたかったんです」


 そうなんですか、とメニューに目を通しながら諒華は言った。

 一通り見終わった後、和風ほうじ茶パフェを注文した。


 あなたこそ、イチゴタルトはどうしたんだと口をはさみたかったが、ずっとこれが食べたいと言っていたから、彼女の本命は注文したパフェなのだろう。



「で、どうでしたの? 北条君とのデート」

「はい? 特に何も。というか、デートではありません」

「……デートですわよね?」

「違います。ケーキを食べて買い物をしただけです」

「……デートですわよね」

「いいえ」





 この会話は注文したものが運ばれてくるまで続いた。

 以前もどこかでこんな会話をしたような……とデジャヴを感じながら祀莉はケーキを一口頬張った。

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