表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/111

16 デートに誘ってみよう

 放課後、特別な人間のみ使用を許可された四方館。

 祀莉(まつり)は、数日前に届いた本棚にせっせと本を並べていた。


 正確には漫画と小説。

 カモフラージュの図鑑や辞書も忘れない。

 家の本棚から数冊ずつこちらに移しているのである。

 まだ一段も埋まってないが、1ヶ月程度で全て移し終えるだろう。


(これなら部屋に置く量を気にせず新しい小説が買えます!)




 本を並べ終え、本棚に備え付けられていたガラス扉を閉めて、きっちりと鍵をかける。

 今は祀莉とか要しかここを利用しないが、もしかしたら来年に後輩が入って来るかもしれない。

 たとえ遠い親戚でも本家の許可があれば、利用が可能らしい。


 用事があれば先生も入って来る。

 念には念を入れておこう。



 祀莉はまだ数冊しか置かれていない本棚を眺めながら、今日までのことを考えていた。

 主に、桜と(かなめ)のことだ。


 ——2人の進展が全く見られない。



 時々話しているのは見るが、要といる男子生徒が桜に話を振ってグループでワイワイしている程度だ。

 2人で話しているところを未だに目撃できていない。


 もしかしたら、祀莉の知らないところでイチャイチャしているのかもしれない。——にしては、要は祀莉の目の届く範囲にいる。

 昼食だって一緒にとっている。


 諒華(りょうか)と食堂で並んで食事をしていると、同じテーブルに貴矢(たかや)と一緒に現れるのだ。

 せっかくだからヒロインを誘って昼食をとればいいのに。


(あぁ……だったら喜んで覗き見に行きますのに!)


 いつまでたっても、要は行動する気配はない。

 ライバルの貴矢が邪魔しているか、お互い牽制しあっているのからかもしれない。






(はぁ……。やっぱりわたくしがちょっかいを出さないとダメなんでしょうか……。でも、どうしたら良いか……小説の中に参考になるシーンとかないですかねー……)




 手に持っている小説の内容がどんなものだったか気になり、適当にページを開いた。

 ヒロインに極悪なライバルが登場する恋愛小説だ。

 下手な嫌がらせをしていたような気がする。


 数ページ読むつもりだったが、目は次へ次へと文字を追っていく——。








「——祀莉」

「っ!?」


 名前を呼ばれたと同時に勢いよく本を閉じた。



「え、あ……要。びっくりしました」


(気配がなかった! いえ、わたくしが本に集中しすぎて……)



 いきなり後ろに立つのは心臓によくないので、やめていただきたい。

 というより、近い。

 要の両手は祀莉を閉じ込めるように、本棚に添えられていた。


 恐る恐る顔を上げると、無表情で祀莉を見下ろす要と目が合った。



 まっすぐ射抜くように見られて居心地が悪い。

 思わず俯いた祀莉の耳元に要が唇を近づける。



「最近、織部と仲が良いな」

「——っ!?」


 低い声で囁く。

 含むような言い方に、以前の記憶が蘇る。




 ——要はまたわたくしを孤独にしようとしている。




 今までは様子見。

 ある程度、仲が深まってきたところで引き離すつもりだったのだ。

 だったら最初から近づかせなければ良いのに。


 今更、距離をおけと言われるのは……——



「い、いやです! わたくしから諒華を奪わないで下さい!」


 家の名前で近づいてきたとしても構わない。

 今、彼女と一緒に過ごす時間が楽しい。

 それより何より……



「初めてできた……し、親友なんです……」

「え、あ、そうか……それは、良かったな」




 ——あれ?


 思いもよらない言葉が彼の口から出てきた。



 あの、人を蔑んだような目で「だからなんだ」と言われると思った。

 また周りを遠ざけるように仕向けられるのかと、恐怖を感じたのに。


 それに……要にしては歯切れが悪い話し方だ。



「……ところで祀莉、織部と話していたことだが……その、ケーキがどうのとか……」

「え? はい。イチゴタルトが美味しいと評判のお店があるらしいって話をしていました」


 特別甘いものが好きでもない要がなぜそんなことを……そこまで考えて唐突に思いついた。

 ——これは桜とのデートの下調べだ。

 世の中の女の子がスイーツに目がないことくらい、要にも分かっているだろう。



「あの、要。もしかして、そのお店に興味が?」

「あ、あぁ……」


 若干だが頬が赤くなっている。

 つまりはそういうことなんだろう。

 ここは自分が後押ししないと……と、先ほど得た情報を要に提供した。



「カップルで行きたいスイーツのお店トップ10に入っているみたいですよ。女の子なら行こうといえば頷いてくれるはずです」

「そ、そうか……お前も行きたいか?」

「はい!」


 もちろんだ。

 今度、諒華と一緒に食べに行こうと約束している。

 眺めていたメニューはどれも美味しそうだった。

 食べたいものを検討中だ。




 要と桜はいつ行くのだろう。

 そうだ、二人のデート日を聞いておかなくては。

 こっそり後をつけてデートを観察する。

 このチャンスを逃すものか!


 祀莉は瞳を輝かせて聞いた。



「それで、いつにするんですか?」

「……明日、とかはどうだ?」

「明日……これはまた急ですね」

「ダメか?」

「予定が空いているなら大丈夫だと思いますよ」


 明日はちょっと急すぎるんじゃないかと思ったが、要の誘いを断るわけがない。

 既に予定が入っていなければ、100%誘える。


 ちょっと待ってろと、要はポケットから携帯を取り出して、離れた場所で電話をかけていた。




 明日ということは、これから誘うということだ。

 今は放課後、いつもすぐ帰ってしまう桜はもうすでに帰宅している。

 電話で予定を聞くのだろう。


 もう連絡先を知っているなんて、やりますね……と心の中で賞賛の言葉を送った。



 明日は天気が良いから、テラス席で食べると気持ちが良いですよねとアドバイスしておいた。

 その方が自分も覗き見しやすいということは、心の隅に置いておく。

 きっと素敵な1日を過ごしてくれるに違いない。


 電話を終えた要は心なしか嬉しそうだ。


「楽しみですね」

「……あぁ。明日、迎えに行く」

「そうですか」



 彼女の自宅もリサーチ済みらしい。

 いつの間にそんな情報を聞き出したのだろうか。



 自分が知らないうちに2人の距離は縮んでいるのかもしれない。

 最近、祀莉は諒華と話していることが多い。

 その隙をついて要と桜はお互いのことを話す関係にまで発展していたらしい。

 だから今回、思い切ってデートに誘ってみようと思ったのだ。



 祀莉に相談するように店の話をしてきたのは、自分たちの仲を邪魔するなと警告するため。

 桜との仲を見せつけようとしたのだ。


(そんなことしなくても良いのに、鈴原さんのことが心配なんでしょうか?)



 明日の大まかな予定を聞かされながら、今日も祀莉は北条家の車で帰宅した。






***




 そして翌日。



 オシャレな店構えが今時の若いカップルに人気なスイーツのお店。



 そんなお店にお似合いのカップルがテラス席でデートを楽しんでいた。


 一番人気のイチゴタルトを幸せそうに頬張る桜。

 それを微笑ましく見つめる要。


 これだ。

 これぞわたくしが求めていたトキメキのひとつ。

 なんて理想的なカップルだろう……。


 そんな2人をニヤニヤしながら、双眼鏡で見つめていた。


 ほら、今ですよ。鈴原さんの口元についているクリームをさりげなく拭うのです!




「——おい、祀莉……」


 あら、おかしいですね。

 要の声が耳元で聞こえるんですが。


 彼は目の前のお店で鈴原さんとイチャついているはずなのに……——







「起 き ろ」


 ——カプッ





「————っ!!?」


 みみみみ耳!! 右耳にっ! な、なにっ、かっかぶりついっっ!!?




 一気に目が覚めた。



「やっと、起きたか……」

「あ、あれ? わたくし……え?」



 ——今のはもしかして夢!?



 祀莉は自室のベッドに寝ていた。

 間違いなく夢である。


 昨日の晩はウキウキしてなかなか眠れなかった。

 こんな感じかなーと妄想しながら寝入り、そのまま夢として見ていた。

 で、寝坊である。


(やってしまいました……)



 2人を尾行するために、早く起きて例のお店の近くで待ち伏せするつもりだったのに。


 しかし、今ここで不可解な事象が起きていた。

 ターゲットである要が覆いかぶさるように祀莉を覗き込んでいるのであった。



(あ、あれ……??)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ