表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/111

14 入学してから、1週間

 麗かな春の陽射しを受けて、窓際の席でまったりと過ごす昼休み。

 祀莉(まつり)は持参した小説を読み、諒華(りょうか)は各デスクに備え付けられているパソコンを操作していた。



「ねぇ、見て見て。これ」

「なんですか?」


 前の席の諒華が振り向き、パソコンの画面を提示しながら祀莉に呼びかける。







 入学してから、1週間。

 諒華の口調はお嬢様とはほど遠いものとなっていた。

 簡単に言うと被っていた猫が剥がれたのだ。


 実はこのクラスメイトのほとんどが猫を被っていて、お上品な子息令嬢を演じていた。



 高等部へ上がり、西園寺家の令嬢がクラスメイトに加わると言う情報を得た先生が、お願いだから失礼のないようにしてほしいと、Aクラス確定の生徒たちに頭を下げたそうだ。

 しかし、普段使わないお嬢様言葉が窮屈になってきたのか、だんだんと諒華の口調が崩れていった。

 たまにボロっと口調を乱してしまうことが増えていく。

 やってしまった!と思っても、祀莉は気にした様子はなく何も言わないので、まぁいいやと、彼女のお嬢様期間は1週間で幕を下ろした。


 その影響か、他の生徒たちも次々と猫を脱いで普段の自分をさらけ出している。

 さすがに先生の前では、被り直しているようだが。




 ちなみに桜は通常運転。

 クラスメイトに合わせてお嬢様口調になることもなく、ありのままで過ごしている。


 普通、金持ちが集う教室に放り込まれたら、周りにおいていかれないように無理をしてでもレベルを合わせようとするもの。

 しかし、彼女はマイペースに過ごしている。

 頭が良いから勉強を教えてくれと乞うてくるクラスメイトと着々と仲良くなっている。


 未だに諒華以外のクラスメイトと話をするのに緊張する祀莉は、だんだんとこのクラスに溶け込んでいる桜が羨ましいと思った。





「——祀莉、聞いてる? ここのイチゴタルト、すっごく美味しいんだって。今度食べにいこうよ」

「あ、はい。是非ご一緒させて下さい。諒華」


 席が近いこともあって、祀莉は諒華といることが多い。

 いつのまにかお互いに名前を呼び捨てるようになっていた。



「和風ほうじ茶パフェがおいしそう」

「イチゴタルトはどうしたんですか……」


 2人して色鮮やかなスイーツが並ぶメニューの画面に食い入っていた。



「カップルで行きたいお店トップ10入りだってー」

「へぇー。そうなんですか」


(カップル……)



 それにしても……と(かなめ)と桜に視線を向ける。

 男子生徒と話をする要と次の授業の予習をしている桜。


(1週間経っても何の進展もないんですけど!)



 後ろの席からジッと観察していても、甘い雰囲気になる気配がない。

 話しかけようともしない。

 照れているのだろうか。

 いや、要に限ってそれはないだろう。


 むしろ積極的に自分に興味を持たせようと働きかける方だ。

 それなのに一向に2人の距離が縮まる気配がない。物理的にも。

 机か。机が広すぎて距離が縮まらないのか。






 それと問題がもう1つ。



 ——秋堂貴矢。


 窓際の1列目の席、つまり桜の左隣にこの男がいるのだ。

 ヒーローとそのライバルがヒロインを挟んでいる状態だった。



 その上、貴矢は桜に積極的に話しかけている。

 適当にあしらわれたり、無視されたりしているから今のところ大丈夫だとは思うが、それでも祀莉は会話する2人を見てハラハラしていた。


 あと、その後の要は機嫌が悪い。

 視線を感じる……と思ったら、なぜか無言で睨みつけられている。



(イライラするくらいなら、自分も積極的に話しかければ良いのに……)









 ——なんて思い込んでいるが、機嫌が悪いのは祀莉が貴矢を見つめていたから。

 なに他の男をじっと見てんだよ、と言いたくて視線を送っていたのだ。


 突き刺すような視線に怯えている祀莉は、その意図には全く気づいていなかった。






 そんなことがちょくちょくあるが、このクラスはとても居心地が良い。

 広々とした教室を少人数で使用するAクラス。

 横に4人、縦に5人の並びで悠々と過ごしている。


 授業を受けるための机が置かれているスペースは教室の約半分。

 後の半分は個人用のロッカーと冷蔵庫。

 そして、休み時間のみ使用しても良い、座り心地の良い高級ソファーが高級テーブルを挟んで3セット。

 その他、生徒が持ち込んだ私物が日に日に増えてきている。


 それでも、まだ余裕があるくらいだ。


(この教室、1年後にはどうなっているのでしょう……)




 それに、このクラスは目立って要の支配がない。

 こんなに平和に過ごせるとは思わなかった。

 昔のどんよりとした教室とは違って、とてもにぎやかだ。


 小学校の記憶だから、かなり恐怖を誇張してインプットされていたのかもしれないが、それにしてもこのクラスは要に臆している様子はない。


 すぐに引き離されるだろうと思っていた諒華とは良好な関係を結べている。

 休み時間に1人で読もうと思っていた小説は、あまり役目を果たしてなかった。



(きっと鈴原さんとのことで、わたくしにまで気が回らなくなっているんですね)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ