Too Late Snow
四月ももうすぐ終わろうとしているのに、急に肌寒さが増してきた。
地球温暖化が進んでいるという話は一体どこに行ったのか。そんな春の温かさをかき消すような寒さを感じ、ベッドから起き上がったルクは思わずエアコンのスイッチを入れる。
「春なのに、どうしてこんなに寒いのかしら?」
カーテンを開けると、ちらちらと白い雪が降っているのが見えた。
「こんな時期に雪? 通りで寒いわけだわ」
ゆらゆらと降って落ちる雪は、しかし地面に落ちるとすぐさまその姿を消した。
いくら降っても積もらない雪。それを見ながら、遠くへ行ったフユアキのことを思い出した。
フユアキは隣の家に住む幼馴染で、小さいころからいつも一緒に遊んでいた。
小学校、中学校、高校と、一緒の学校に通い、まるで兄妹のように何をするにも一緒だった。
春はいつも家族ぐるみで花見に行った。いつもフユアキが無茶をして怪我をするものだから、ルクが毎回手当をしていた。時々隣に座っている家族の子供と喧嘩することもある。
夏は毎回のように、家族で泳ぎに行った。中学になると友達と行くことも多くなったけれど、それでも二人でいる時間はそんなに短くなかった。特に日が長いから、気が付くと時間が経っており、フユアキは「女の子をこんな時間まで連れまわして何を考えているの!」と怒られていた。
秋はよく、きれいな夕焼けを見に行った。近所の草むらにあるススキがきれいで、小さい頃はよくそこでかくれんぼをしたり、鬼ごっこをしたりしていた。
冬は校庭によく雪が積もっていたので、雪合戦をしたり、雪だるまを作ったりした。フユアキは他の友達と遊ぶことが多かったけれど、それの様子を遠くから見ながら、時々手を振る。すると、フユアキはそれに応えてくれる。と同時に、雪玉が当たってフユアキの顔が雪まみれになることもあった。
どんな季節が来ても、どんなことがあっても、ずっと一緒だった。喧嘩をすることもあったけれど、それも今となってはいい思い出だ。そして、大学も一緒の所を受けようと約束した。
しかしルクは、フユアキと一緒に行くはずだった大学に不合格となり、別の大学に行くことになった。その結果、フユアキと離ればなれになった。
フユアキと離れてもう一年が経つ。また会えるからと気にしていなかったけれど、ずっと帰ってこないフユアキのことが心配になって仕方がなかった。
離れて数日はどうということなかったけれど、日が経つにつれて徐々にフユアキのことが気になり始めた。今までそんなに意識していなかったのに、どうしてこんなにフユアキのことが気になるのだろう。
そんな中、季節外れの雪が降り始める。ルクは雪を見ながらつぶやいた。
「私と同じだね。もうすぐ温かくなる季節になるのに降る雪は、まるでフユアキがいなくなってからどんどん溢れ出す私の思いみたい」
冷たい空気の中、季節外れの雪は、それでも積もることなく消えていく。
この季節の雪はやはり珍しいのか、外ではその雪に大喜びではしゃぐ子供の姿があった。ルクはその姿を見て、深くため息をつく。
「でも君と私は違うね。君は降っているそばから消えていくし、喜んでくれる人もいる。君みたいに、私の思いがどんどん消えてくれるか、溢れ出す思いを喜ぶことが出来ればいいのに」
雪は積もることなく、しんしんと降り続く。地面に落ちた雪は、片っ端から消えてしまう。
もう少し君を知りたい。そう思いながら、ルクは外に出た。雪が降るだけあって、外はとても寒い。
「手袋してくれば良かったかな。手がかじかんじゃう」
降りゆく雪を手に載せながら、手をこすり合わせる。吐く息は白く、体が少し震える。
ふと、視線を遠くに向けた時だった。
「ただいま、ルク」
そこには、遠くに行ったフユアキの姿があった。
「フユアキ……どうして?」
「ちょっと近くに寄ったからね。元気にしてた?」
フユアキがルクに声を掛ける。しかし、ルクは答えようとしない。
「ルク……?」
次の瞬間、ルクはフユアキに抱きついた。そして、季節外れの積もった雪が一気に融けるように、ルクの目から涙があふれ出した。
ああ、やっぱり君と私は同じだね。
君はすぐに融かしてくれる相手がいて、私には積もった思いを融かしてくれる人がいる。
私の思いはToo Late Snow……でも、私の心に降る雪に、季節外れなんて言葉は無いんだよ。
タイトルはmovies(moimoi×Xceon×Dai)「Too Late Snow」より