茶封筒とOL
呪いのお札を発動させちゃったポンコツOL
言動の怪しいどS上司
可愛くよく働く後輩くん
態度だけは横綱の同僚
世話好きな部長
おっとり常務
狐顏でしっかり者の専務
熊のように豪快な社長
彼らの日常は、奇妙で面白い。
それは、突然の出来事だった。
今ではそれが今日である事を嬉しく思える。
ただ、その瞬間、私は思っていた。
なんで今日なんだ。と。
小さいながらも逞しく発展する不動産系の会社。その本社の二階の片隅にある経理部のかたまり。
そこが私、相原夢姫の居場所である。
その日も私は日課である郵送物の確認をしていた。
特別なことがない限り、本社に届く郵便物は全て、私が開封し、担当者へ配る。同時に自分の担当の物があれば、早く片付けられて楽だ。
その封筒は、コンビニにでも売っていそうな、安っぽい茶封筒だった。
慣れた手つきで私はレターオープナーを封筒の隙間に滑り込ませ、一瞬で中身を出す。
3年の修行の末に身につけた、秒速開封術は、時に悲劇を生む。
私のする失敗で一番多いのは、中身を切ってしまうことだが、8割セロテープで対応できる。
封筒の口から、中に入っていた書状と共に滑り出す、銀色の欠片。それは刀剣よりもずっと薄く、小さく、時に刀剣を超える切れ味を持つ……カッターや剃刀の刃だった。
「いっ!」
気付いた時には、電気代の請求書も巻き込んで、大惨事になっていた。
痛すぎて声は出ないのに、書状と刃を受け止めた右手は壊れた水道よろしく、鮮やかな鉄錆色の血液が溢れ出し、デスクに広がった手紙の山を赤く染め上げる。
「あぁぁぁ!」
「どうしたんだ!それ!」
普段滅多に大声を出さない同僚の佐山が叫び、係長がティッシュやタオルを掴んで慌てているのは、なんとなくわかった。
静かな土曜の午後、私は貧血でぶっ倒れた。