パンゲアの何処かで
机の上に開きっぱなしになっていた大判の本にメガネウラ科という単語が見えた
あの時、眼鏡をかけ始めたばかりだった私はその単語に親近感という名の興味を抱いた
読んでみるとそれはトンボの仲間で
その名の由来が大きい二つの目がメガネみたいだからではなく、区切るならメガ、ネウラであるらしいことに少しガッカリはしたけれど
ゴキブリトンボと呼ばれることもあるらしいことに苦々しい痛みを感じたけれど
説明の最後に書かれていた文章が一番私を寂しくさせた
『史上最大の昆虫であった』
中生代の初め三畳紀
カエルが繁栄を始めたその時代にはもう七〇センチを越える悪夢のような節足動物が地上に影を落とすことは無かった
彼のお陰で借りることの出来たその本は当時の私には少し文字が多すぎた
でも貰った栞の助けもあって最後まできちんと読んだのだ
地球史上最大の大量絶滅を引き起こし、三億年以上続いた古生代を終わらせた激烈且つ徹底的な環境の変化をも越えて生命の連鎖を繋げることのできたトンボは今とあまり変わらない大きさの者達
P-T境界線というデッドラインを跨いだ生物たちはその後多様性という意味での回復を成し遂げたけれど
失われた種が復活をすることは二度とない
彼がカエルで私がトンボだった頃
私が覚えていないだけで
それは確かにあったのかもしれない
ジュラ紀の少し前
超大陸パンゲアの何処か裸子植物生い茂る水辺で
私は目にズラリと並んだレンズの端に彼を
彼は、もっと能動的に、腹減ったケロと私を見たのかもしれない
じきに四度目の大量絶滅が起きることも知らず
きっとただ生きることに必死だった
そして、いつか遠い遠い未来に彼はまた語るのかもしれない
「完新世の最後期、俺達は同じ種だった」
そんな出だしの
ニンゲンだった私達が
六度目の大量絶滅から全てのものを守ろうとした物語を
まあ
嘘なんですけどね
あのときの本を自分は覚えているんだってことを
私がそれを忘れてしまっているかもしれないから
そんな風に伝えようとするんですよ
「ねえやっぱり私はオタクとはちょっと違う気がする」
「へえ。じゃあ何?」
「ザ、ロマンチッカー」
「バカかお前は」
「いいね。今度から俺もそう名乗ろう。どうもー流星のロマンチッカー芳生です! うん。悪くない」
「あんた達がそれでいいなら、オタクよりもましだと思うなら、そう名乗るがいいさ!!」
現代社会においては牧歌的とも言える速度で進んでいた車は急に曲がって
開け放しの門を小石を弾く音を立てながら入った
田んぼの中に浮かぶ島のようなそこが、どうやら怒れる彼女の家であるらしかった




