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ソード・オブ・ナイツ  作者: ロドニー
傲慢の迷宮
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5話 「ログアウト不能」

「くっそぉ……あのババア…俺をゴミのように扱いやがって……。復讐してやる……教卓の机のネジを一本外してプリントを置いた瞬間に教卓が崩れる仕様に変えてやる……」


「地味だよ静留……」


「俺を止めるなよ飛鳥!俺はやってやらないと気が済まないんだっ!!」


「そんなことより、先生いるけどいいの?」


「え?」


俺の背後には額にピキピキという効果音が付きそうな、笑顔なまま怒りを体現するババアが仁王立ちしていた。

何も見ていない。俺は何も見ていない。


「西野ぉー他人の愚痴をこぼすとは元気に溢れているなぁ~?関心関心~」


「先生っ!僕は元気に溢れかえっているんで、どうぞゴミのように扱ってくださいっ!!」


「それなら、ここの整頓が終わったらこの部屋の掃除を頼もうか~んん?」


「任せてくださいっ!!」


世界は俺を拒んだというのか……。

俺は空き教室で、一人両膝をついて落胆した。


「いつも悪いな尼藁。こんな男に付き合わせて」


「いいんですよ、私が好きでやってますから」


「本当にお前ら一緒に育った幼馴染なのか?ここまで出来が違うとなると……」


「静留の両親はしっかりしてますよ。その証拠に妹ちゃんはかなり真面目な人ですから」


「あいつがねじ曲がってるだけか」


「はい!」


「聞こえてんだよ!?」


そんな屈託もない笑顔で縦に頷かれると、少しやる気失せるわ。


「そもそも、なんで今更教科書の整理なんですか?」


「そうやって後に回すから仕事がだるくなるんだ。任された仕事はなるべく早く終わるよう善処する」


「生徒にやらせてる時点で駄目だろ」


「なんか言ったか?元気が溢れ返ってる西野」


「塵一つ残さないぜぇええ!!!」


この教師、キャラの見た目的に何でもめんどくさがるタイプかと思ったら、こういう真面目系だから以外である。

まぁ合コン成功しない、ただの三十路のババアだけど。


「塵一つ残ってたら帰さないぞ、西野♪」


「鬼だっ!」


「尼藁は飽きたら帰っていいぞ」


「はい♪」


「鬼だっ!!」


軽くスキップしながら、教室から去っていく西蓮寺先生。

俺はそれを確認し、机の上に置かれた幾つかの段ボールを見て落胆する。


「俺のようなひ弱な男に、こんな重い段ボールを梯子に乗って棚に移す作業を任せるとは……あの教師は作業効率を考えろってんだ」


この段ボールが脇で挟めるサイズでなければ、作業は何時間掛かる事やら。


「うーん、多分純粋にクラスで唯一運動部に入っていない、まだ力のある男子だからだと思うよ?」


「はぁ?俺より脂肪がある文系男子の正木くんに頼めよな」


正木くん。

アニメ研究会の部員で脂肪がタップリとお腹についている、少し汗臭い系の男子。

見た目通りのオタクで語尾には『ござる!』を付ける変わり者。

決して、虐められていません。


「彼はバイトで忙しいからね……」


「くっ……確かに……」


正木くん。

好きなアニメのグッズは例による、観賞用、使用用、保存用に分ける真のオタクである。

それらを揃えるために、アルバイトはかなり掛け持ちしている。

彼の魂に敬礼。


「それにしても、俺以外にもいるだろ。浜上とか石田とかさ?そいつらとお前が組んだらすぐ終わるだろ」


この二人は中学の時に運動部だったらしく、俺より筋肉がある。

当然、体力もある。ちなみに、正木くんは顔はともかく、かなり力持ちである。


「私、静留以外だと手伝わないし」


「なんじゃそりゃ」


「だって私………」


その時、空き教室に一陣の風が吹いた。

カーテンが舞い上がり、埃が飛ぶ。

そして、俺が登っていた梯子が小さく揺れる。


「うぉ!?」


俺は思わず脇の力を緩め、脇に挟んでいた段ボールを落としてしまう。

その真下には、不幸なことに飛鳥が立っていた。

次の段ボールを運んで来た後のようで、息を吐いていたところだった。


「飛鳥っ!!」


「………す……え?」


「飛鳥ぁああ!!!」





「頭を強く打って失神しただけよ。命に別状はないわ」


「……俺のミスです……」


「西野くん、そんなに自分を責めちゃだめよ?」


「西野、今日はもう帰れ。あの作業は私がやっておく」


「はい……」


俺は力なく、保健室で眠る飛鳥を見て部屋を後にした。

そして、気力ないままに自宅に帰る。


「あら?今日は遅かったのね静留」


「ちょっとね……」


「今日はいつもみたいにゲームはやらないの?」


「……そうだね、今はゲームでもして気分を晴らしたいや」


俺は玄関から2階に上がると、またも妹と出くわす。


「お兄ちゃん、なんか今にも死にそうな顔してるよ?」


「そうか?まぁ、ゲーム終わったら活気に戻ってる事を祈ってくれ」


「う……うん…」


俺は自分の部屋に入り、部屋の中で異様な大きさをしたカプセルのボタンを押し、中に入る。

そして、中に入り、設置してある機械を体の各部位に装着し、手探りで起動ボタンを押し、異世界へ意識は飛んだ。


「セイリュウ様、おはようございます」


「ああ……」


「どうされました?いつもより元気がありませんね」


「ちょっとな……」


「そして、差し出がましいですが、カルト様と交わした約束はいいのでしょうか?」


「……そういや、そんな約束してたな」


「時刻はもう18時を過ぎています」


「急ぐか」


俺は走って、約束の場所である、始まりの街の南の東門へ向かった。

そこには、昨晩。というか今日の深夜に出会った少女が微動だにせず立っていた。

このゲームに足の疲労などはない、ただ暇なだけだ。退屈なだけだ。


カルトは俺の顔を見ると、昨晩のような爛漫な笑みを俺に見せてくれる。

俺はその笑顔を見ると、少し救われた気分になった。


そうだ、いつまでもうじうじしていられない。

幸い、飛鳥の命に別状はないんだから。

それなら、俺がすることはあいつがもう一度起きた時に、どれだけあいつを笑わせられるかだ。


こんな暗い顔で謝ってもあいつは喜ばない。


「よしっ!!」


「どうしたんですか?」


「カルト悪いな遅れちゃって……少し、絞られてな」


「いえいえ、気にしないでください。そもそも、私が一方的に手伝ってもらう約束ですし」


「それじゃあ、早速レベル上げといきますか!」


その時、視界に映る<WARNING>の赤い文字。

俺はこの文字を1カ月して始めて見た。一体何事だ…?


瞬間、空は朱に染まり。

俺の体は青い粒子に変わった。


もう一度、目を開くと見たことのない巨大な空間だった。

俺の隣に立っていたカルトが少し怯えた表情をしていた。


「リンネこれはなんだ!?」


「わかりません。運営も混乱しているようです」


「運営が予期していない事態……?」


そんな事があるのか……?


紅い空。

瞬間、その空に巨大な見たことのない魔物が現れる。

魔物は俺たちを見下しながら、嘲笑った。


「なんだてめぇ!!」


「いま迷宮のボスだったのによっ!!」


『喚くな人間が』


魔物が……喋ったぁああああ!?

って、お茶らける部分じゃない。


『我は退屈だ。貴様らプレイヤーはいつまでたっても、我の根城である傲慢の迷宮に来ないのだから』


傲慢の迷宮?

つまり、あいつはあの迷宮の主である、ルシファーって事か……。


『だから、我はこのゲームの権限を掌握し、貴様らにとあるシステムを施した』


こいつは何を言っているんだ?

ルシファーは背中に生えた6本の漆黒の翼を開き、俺たちに絶望を与えるように言った。


『今現在、36万2344人のプレイヤーたちに告ぐ!!貴様らは現時点においてログアウトが不能となったっ!!』


「なっ……?」


「お前は何を言ってるんだっ!!」


「ない!!ログアウトがないぞ!!?」


「なんだと!?」


「バカな……」


俺はログアウトコマンドを探すが、それは存在していなかった。

こんな事が……あってたまるか……。俺は何度も探すが、それは存在していなかった。


『だが、命は保障されているよ……。我は退屈なのだよ……。だからこそ、我を倒しに来いっ!!傲慢の迷宮のクリアが解放の条件だっ!!』


「ふざけんなっ!!大罪迷宮は未だ誰もボスにすら到達していないんだぞ!」


そう一人のプレイヤーが反論するが、ルシファーはそれを嘲笑う。


『なら、今こそ仲間同士協調し、クリアをすればいいだけの話。さっきも言ったが傲慢の迷宮のクリアが条件だ。もしも、電源を切ったり、カプセルを破壊し奪還させた場合は永遠にこのゲームを体験してもらうことになる……それではゲームを始めてもらおうか』


そうルシファーは俺たちに宣言し、姿を消滅させた。


「リンネ!!運営は!?」


「駄目です!!遮断されましたっ!」


「あのルシファーとかいう奴……本当にシステムを掌握したってのか!?そんな事がAIの魔物に……」


いや、AIという知識を持ちすぎた故なのか……?

機械は感情のない、知識を持つ者。奴らはその知識のほんの一部を使って、俺たちを束縛したってのか……。


「ルシファーはもっとも高い知識を持つAIボスでした。しかし、どうやら運営は知識を与えすぎたようですね」


「マジで笑えないわ……」


ログアウトができないゲーム、だがデスゲームではない。

途中離脱は『死』を意味する。


さぁーて、俺は何をしようか……。

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