4話 「少女カルトとの出会い」
「うぉおおおお!!!」
俺は握っていた鉄剣で目の前に浮いている浮遊体を斬りつける。
浮遊体は、そのまま俺に反撃する事無く体を四散させ、この世界から姿を消す。
俺は鉄剣を背中の鞘に戻し、自分の体力と道具を確認する。
セイリュウ 17LV。
俺がSONを始めて、一カ月の月日が流れようとしていた。
俺はあの時より、格段に強くなっていた。
だが、未だにこのゲームの最高難易度である、七つの大罪迷宮はクリアされる気配はない。
あのダンジョンの推定レベルは30クラス。
しかし、それでも足りないと言われる始末だ。
ちなみに、今の時間帯は夜中の3時であり、周辺もかなり暗い。
まぁ、ここは元々暗いから関係ないけどな。
ここは始まりの街、南の東側にある黒き森と呼ばれている場所だ。
木々が深く生い茂り、不気味な雰囲気を出しながら太陽の光を遮り、昼でも暗黒が広がる暗黒の森。
視野は暗黒でただでさえ悪いのに、草木のせいでそれを余計に悪化させる。
だが、ここで現れるレアモンスター、キューティーが落とすする道具、『氷の結晶』が手に入れば、俺は『氷層の剣』と呼ばれている、今現在俺が愛用している、『黒鉄の剣』よりワンランク上の武器が作れるのだ。
俺は黒鉄の剣の武器詳細を選択し、表示する。
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黒鉄の剣 攻撃力180
耐久値166(-374)
グラム140(+35)
ウェポンスキル
ドロップアップ
モンスターの各道具のドロップ確立を5%上昇させる。
耐久値減少ダウン
耐久値の減少を少しだけ下げる。
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俺はそれを確認し、武器を閉じ、目の前に立っていた二本の牙を生やした飢狼に、その黒鉄の剣を向ける。
『餓えた狼』という名前と共に緑の体力バーが表示される。
そして、俺は周辺にまだ複数いる事を、気配で察する。
この餓えた狼の賢い部分は、集団で行動し、プレイヤーに襲い掛かる部分だ。この魔物に集団で襲われてはソロプレイヤーでは一溜りもないだろう。
「ぐるぁっ!!」
一匹が飛び掛かると同時に、背後や周辺に隠れていた『餓えた狼』は一斉に獲物である俺に向かって噛みつこうと、飛び掛かる。
俺はまず正面から俺に飛び掛かってくる『餓えた狼』に向かって突っ込み、綺麗なストリームを描いて斬り落とし、一瞬で四散させる。
こいつらは集団攻撃や攻撃力はあるが、防御力は初期に出てくる粘着スライム並だ。
こいつらの長所は死をも恐れぬ特攻と集団での行動。
だが、短所は圧倒的に脆い耐久力である。
『餓えた狼』は着弾点に俺がいない事がわかると、すぐに俺を視認し、特攻をしてくる。
ここでこいつらのもう一つの欠点がわかる。
「二度目の特攻は全部正面からなんだよっ!!」
最初こそは不意のような形だが、二度目の特攻は違う。
奴らは先程まで俺が立ち尽くしていた場所に向かって、牙を剥いていたが、そこで仕留められなかった場合は、その場所を起点にし、飛び掛かってくる。
避けた方向にいる、プレイヤーへ。
だが、全員がその場所を起点にし、避けた方向へ真っ直ぐ突っ込んでくるので……。
「対処は凄く楽なんだよな」
「セイリュウ様、流石の動きです」
「最初は本当に苦労したけど。もうこの森で怖いモンスターはいないよ」
「しかし、あの頃とは違って格段に強くなっていますね、七つの大罪迷宮のクリアも近いのではないでしょうか?」
「あの迷宮は格別だろ……。そういえば、迷宮に入った事ってなかったよな」
「そうですね。しかし、迷宮のソロクリアは難易度が高いですよ」
「まぁ慢心して行けるもんでもないしな」
拝啓、お父さん。
友達ができません。
このゲームを始めて、一カ月です。
最初にも言ったけど一カ月です。
上層部のプレイヤーに比べれば、ペーペーの雑魚だけど。
それでも、この辺のレベルのプレイヤー辺りではかなり強くなった自信があります。
だけど、友達ができません。
話しかけるのが怖いんです。
「セイリュウ様……元気を出してください」
「いいんだよリンネ……俺は最強のソロプレイヤーになるんだ……」
「このゲームの迷宮は一人ではクリアできない使用になっている迷宮が多いです。ソロで行けば帰らないといけなくなる迷宮だって存在します」
「友達が欲しい……割と切実……」
俺は黒い森の中で、暗い気持ちに支配されそうになっていた。
その刹那、耳に足音が聞こえ届く。
その足音は位置を知らせるように鈍い足音だ。その点で『餓えた狼』ではない事がそれだけでわかる。
そもそも、この足音は魔物ではない。
「プレイヤーか!?」
「前方より急接近してくるプレイヤーがいます」
「キルプレイヤーか?」
それなら、俺は容赦できない。
「いえ、ノーマルのプレイヤーのようです!視認可能距離です」
その瞬間、草むらから何か大きな物体が飛びだしてくる。
それは、凄い速さで真っ直ぐ正面から俺に突っ込んできて……。
「え?」
「きゃっ」
俺はその黒い物体と衝突し、加えられた力の方に抵抗する術なく、真後ろに倒れる。
「セイリュウ様!?大丈夫ですか?」
「いってぇ……体力もちゃんと減ってやがるな……」
「いたたた……ごっ!ごめんなさいっ!!」
俺より少し幼い女の子のようだ。
「それよりも、『ケルト』」
「え?」
「あんたもダメージを負ったろ?それでも飲んで体力を回復しなって」
「す……すいません……ってそろどころじゃ!」
「ぐるるっ……」
「これはまた……」
少女を追いかけて来ていたのは7匹の『餓えた狼』だ。
俺は少女の前に立ち塞がり、黒鉄の剣を構える。
「ぐるぁっ!!」「がうっ!!」「ぶるっ!!」
俺に向かって、その牙を剥き出しに突っ込んでくる『餓えた狼』を俺は薙ぎ払うように、斬り落とした。
「リンネ、周辺に魔物は?」
「大丈夫です。検索を掛けましたがこの周囲にはいません」
「よし。大丈夫か……」
俺はそこで名前を呼ぼうと少女の名前を確認しようとすると……。
「凄いです!!どうやったらあんな剣戟が!?」
「一週間森に篭る?」
事実である。
最近はこの森に篭りっぱなしだ。
「たった一週間であそこまで流麗に!?」
「まぁ……流麗とかは自分じゃわからないけど……まぁ、褒めてくれてありがとう……」
「名乗り遅れましたっ!私、カルトです」
「今確認したよ」
カルト 12LV。
「一応、森型なんですよ?耳が長いでしょ?」
と、カルトは無邪気に笑いながら、森型の特徴である長い耳を見せてくれる。
カルトは、俺が見てきた数多いプレイヤーたちと大きな欠点があった。
まずは流れるような、綺麗な金髪である。
このゲームには日本人が多い。
なので、黒髪のプレイヤーほとんどを占めているのだ。
そういえば、先日のアップデートで髪染めのシステムが増えたんだっけ?
「カルト、それは地毛なのか?」
「はい、私父親がアメリカンなんですよ!そういえば、前のアップデートで髪染め増えましたよね……黒髪にしようかな~このままじゃあ目立っちゃうし……」
「そっちの方が、碧眼の瞳と似合ってフランス人形っぽくて可愛いよ?」
「か……可愛いとか……///私は可愛くないです!」
「いや、かなり可愛い部類だと俺は思うけどさ……」
俺は黒鉄の剣を鞘に戻す。
少女の背丈は俺の妹より、少し小さい部類だ。
中学生くらいだろう。
このゲームで年齢を聞くのは、暗黙の了解で禁止されている。
犯罪は未然に防ぐものだ。
「えっと……セイリュウさん?」
「ああ、俺はセイリュウ。今日でSON一カ月だ」
「一カ月!?私その二倍してるのに……」
「まぁ……俺、ゲーマーだからさ……」
「私もですよ!奇遇ですね!」
確かに、今思えばこの時間帯にいる事自体がゲーマーの表れである。
「カルトはどうしてこの森に?」
「レベルと技量を上げてたんです……実は、私友達3人と迷宮に行ったんですが、私のミスで全滅しちゃって……それで、強くなるまで一緒にしてくれないって……」
「なんだそれ……俺がガツン!と言ってやろうか?」
「いいんです……私、弱いですから」
「強弱に囚われてゲームの楽しさを失ったらゲーマー失格だぜ?」
「はい、わかってます……」
カルトの表情は少し暗い。
中学生の友達の輪の中から外されるって中々嫌なもんだよな。
「レベル幾らくらいになったら入れてくれるんだ?」
「えっと……15です……」
「カルト、俺と一緒にレベル上げしないか?」
「えっ?そ……そんなの悪いです!私迷惑かけます!」
「気にしなくていいよ。どうせ、俺だってソロでレベル上げしてるだけだし、背中を預けられる仲間がいた方が安心できるもんだよ」
「そうなんですか……?」
「ああ、だからもう今夜は寝て明日に備えてさ。明日、一緒にやろ?友達申請送っておいたよ」
「わわっ!すいません、助かります」
「じゃあ、明日の17時に始まりの街の南の東門で待ち合わせでいいかな?」
「わかりました!セイリュウさんありがとうございます!それではお休みなさいっ!」
女の子の無邪気な笑顔って、やっぱり可愛いもんだな。
カルトハーフだし、すごく可愛いし。
「セイリュウ様、浮気ですか?」
「ちちち違うわいっ!!ってなんでAIのお前がヤキモチ妬くんだよ!?」
「私は別にー」
「だぁー!!今夜は俺も終わる!!」
「セイリュウ様なんて知りません」
「お休みな!!」
「おやすみなさいませ」
俺はそういい、現実の世界に引き戻る。