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ソード・オブ・ナイツ  作者: ロドニー
傲慢の迷宮
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3話 「悔しさをバネに」

「セイリュウ様、お見事な奇策でした」


「あいつをバンバン狩るのは今の俺じゃあ無理だな。一体で苦戦を強いられる」


「そろそろ世界が夜に切り替わります。私としても街へ戻る事をオススメします」


「体力は自動回復するのか?」


俺は黄色で点滅している自分の体力が、先程から気になっていた。


「外ではプレイヤースキルなどがないと回復は致しません。街の中だと、少しずつですが、上昇し、回復していく仕様になっております」


「それなら街へ帰還するか…。この体力だと少し心持たない」


俺はまだレベル1の新米プレイヤーだ。知識がどれだけあろうとも、実力が伴っていなければ、死ぬのは目に見えている。

とりあえず、レベルが一桁で外にいるなら、体力は常に緑を維持していたいな。


「セイリュウ様!!上から魔物が急接近です!」


「何!?」


俺は咄嗟に右へ飛び込む。

そして、先程まで俺が立ち尽くしていた場所に、一匹の鳥がクチバシを地面に突き刺していた。リンネの報告がなければ……。

そう思うと少し寒気がする。


「あれは『バード』ですね。空中からの落下攻撃でプレイヤーを串刺しにする攻撃しか持たない鳥です。あのように、回避で地面に嘴を刺せれば『バード』はもう飛ぶ術を持ちません」


「一応、聞いておくけどさ?」


「はい、なんでございましょう?」


「あれ刺さったらどうなるの?」


「どれだけレベルが高くても、首より上を強攻撃されればこのゲームでは即死判断です」


「初心者大量のこの草原でそんな物騒な魔物を出すんじゃねぇーよ!!」


俺は地面に嘴を刺した愚かな鳥を四散化させた。


「このゲームマジでぶっ壊れが多いな……」


「運営には強く申しておきます」


暗くなった草原を俺はリンネと会話しながら歩いていた。

目的地は明るい光を漏らす、始まりの街だ。というか、そこしかまだ知らない。


「セイリュウ様、二名のプレイヤーが前方より接近しています」


「別にプレイヤーとすれ違う事なんてよくあるだろ」


俺の目にも映る、二名の男性プレイヤー。

一人は少し痩せ気味で、前髪が長く片目が隠れていた。背丈は俺より少し高く、雰囲気は最近のヤンキーって感じだった。

もう一人は対照的で、小太りで小柄な男だ。


「おいてめぇ」


「えっ?俺ですか?」


すれ違おうと、道を避けたのに何故か声を掛けられる。

無視はいけないので、俺は一応返事をしておく。


表示距離に入ったので二人のプレイヤーの名前が表示される。

ヤンキーのような男の名前はロジック。小太りの男の名前はロックだ。

体力ゲージの横にはレベルまでご丁寧に表示されている。


ロジック 7LV。

ロック  4LV。


俺より少し高いくらいか……。そんな二人と接点なんて…というか、まだこのゲームで他プレイヤーと話した事ないし……。


「何か御用ですか?」


目上だし、レベルも高いので俺は敬語で話しかけておく。


「悪いが死んでもらうぜ!!」


「え?」


そんな中二病みたいな発言する人が、まさかいるなんて……。

と、思った瞬間に小太りな男は、小さな鞘から鋭利な輝きを見せる短剣を取り出し、それを俺に向けて突進攻撃を仕掛けてくる。


「くっ!?」


俺はそれを左へ飛んで避けようとするが、男の方が素早さが高く、左腕を少し掠る。

それだけで、俺の体力バーは赤色になり、激しい点滅を始める。視界も少し赤みが掛かり、小さな歪みを見せる。


「セイリュウ様!!」


「こいつら……キルプレイヤーか!!」


「初心者狩りのロジック様とは俺の事だぜ!!」


「初心者にそれ言われても知りまへんがな!!」


「とりあえず地獄を見な少年!!」


「黙ってやられるほどゲーマー魂は死んでねぇ!!」


俺は背中の鞘から鉄剣を抜刀し、それを構えて小太りな男に剣先を向ける。

恐らく、俺の勝てる可能性は0に等しいだろう。だが、それでも抵抗する力は見せてやるつもりだ。


「というか、このゲームで殺しをしても利点はないんじゃないのか?」


「確かに、キルプレイをしたプレイヤーに、強制撤退水晶を使われれば10日間の間はログインできなくなります。しかし、初心者はそれを持っていないと踏んでいるのでしょう。さらに、キルプレイをすれば、そのプレイヤーが持っている道具がランダムに一つドロップする仕組みです」


「それが殺しの絶えない理由だよ運営さん!!」


その使用はすぐに、撤廃すべきじゃないか……。

しかし、呆れている暇はなく、小太りの男のナイフが俺に向けられる。

恐らく、あの突進攻撃はスキルだ。


「悪く思うなよ少年!!」


「!!」


俺は先程『落ちこぼれナイト』がドロップした盾を左腕に装着し、それを掲げる。

案の定、ロックの攻撃はやはり突進だった。俺はそれを盾で防ぐが、盾はその攻撃に耐えられず、耐久値を0にし、姿を消した。


だが、それは絶好の好機チャンスだった。何故なら本来は盾で攻撃を防いだ場合、剣と構えを切り替えている動作が入る物なのだ。

しかし、盾がなくなれば、すぐに攻撃の機会を得る事ができる。さらに、盾により弾かれたロックは隙だらけになっている、つまり、攻撃を仕掛けやすくなっている。


「タダでは殺されないぞこの野郎ぉお!!!」


「なっ!?げはっ!!」


俺は剣を縦に振り下ろし、そこから横や斜めと、縦横無尽に斬りまくった。

そして、ロックの体力を黄色になるまで持っていくことが出来た。


「くっ!!この餓鬼!!」


「へぇ、やるじゃねぇーか。だが、悪いな死んでもらうぜ」


「くっそぉおお!!」


俺の抵抗も虚しく、俺は次のロックの突進攻撃を回避しきれずに四散化した。


「セイリュウ様!!ご無事ですか!?」


「少し頭が痛むが、転落死ほどじゃねぇ」


あの痛みは地獄だった。

だが、そんな痛みよりも悔しさが大きく勝っているのは言うまでもないだろう。


「今日はもうログアウトするよ。また明日会おうぜ」


「承知いたしました。それでは」


俺は歯車をタッチし、記録を選択して、ログアウトを選択する。

すると、『本当にログアウトしますか?』の文字が俺の視界の中央に現れる。

俺は迷いなくYESをタッチし、意識を断ち切った。


そして、目が覚めると無機質な機械の中だ。

俺はカプセルから出て、すっかりと暗くなった夜空を見ながら、自室の窓を開いた。

そして……。


「ちっくしょおおおお!!!!」


とりあえず叫んだ。


「お兄ちゃん、ばんごは……いきなりどうしたの?」


「少しゲームでイラッとした事があってな、叫んでみたら割とスッキリするんだな」


「物に当たるよりは断然マシだけど、迷惑行為には変わりないんだけど……」


「………とりあえず飯だ!!俺は食うぞカカロット!!」


「切り替えが早いのが唯一の取り柄だよね」


俺は少し悔しい思いを心に残しながらも、それをバネにし強くなることを決めた。





「兄貴ぃい!ぎゃっ!!」


「ロック!!」


縦に断切された、ロックの体が四散化する。

それは、ロックのこのゲームにおける『死』を意味する。


「くっそぉお!!なんなんだよお前!!!」


ロジックは腰に仕舞ってある拳銃を取り出し、それをロックを断切した者に向け、迷いなく引き金を引くが、その者が振りかざした剣戟は、それを上回った。


「な……ん…なんだ…」


「これに懲りて、初心者狩りなんて悪質な事は止める事ね」


「な……女だ……と?」


その者は顔を何かで覆っていたが、声質は明らかに、幼い少女と思えるものだった。

ロジックは女に負けたことに、悔しがりながらロックを追うように、姿を四散させる。


少女はその覆面を取り外し、手に持っていた巨大な大剣を背中の大きな鞘に戻した。

そして、仮想世界に浮かぶ満月を見ながら、満足げに言葉を吐いた。


「ゲームはやっぱり最高ね」


ルナ 27LV。

月の光に照らされ、その少女の名前が露わとなった。

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