16話 「トロール狩り」
「『刹那七連撃』!!」
俺はそう、片手剣の必殺スキルを『トロール』という巨体だけの魔物に惜しみなく繰り出し、四散させる。
そこで張りつめた空気を溶かすように、息を吐く。
「はいはいーセイリュウくんお疲れー」
「手伝えよ!?なんでチーム組んでんのに、俺だけがソロで戦闘してるの!?」
「ほらほらー早く次の『トロール』倒しなさいよ」
「持久力がもたんわ!!」
スキルを発動すると、それに見合った持久力が消費される。
それがこのゲームのMP的な物だろう。確かに、魔法がないのでMPとは表記しにくいものだ。
「ぐるぁあああ!!」
全身真っ赤な巨大な悪魔が、またもリスポーンする。
その右手には巨大な棍棒が握られている。だが、攻撃は思いのほか単調で、棍棒を縦に振り下ろすか、横に薙ぎ払う二パターンしか存在しない。
しかも、攻撃をしようとした瞬間に動きで見切れるので、避ける事は恐ろしいほどに容易い。一瞬で懐に入り、体力バーのゲージを根こそぎ持って行ける。
しかし、『トロール』だってそこまで雑魚ではない。
体力バーが黄色まで位置すると、最初からその力使えよ!と、言わんばかりの無差別攻撃が始まる。それが中々面倒で、懐にはいる事が難しくなるのだ。
だが、冷静になれば動きも見切れるので、倒す事にはそこまでてこづらない。
「ぐるぁ……」
『トロール』がまたも四散し、俺たちに経験値を寄越して消えていく。
この『魔人の林』の地帯には、先程から俺に狩られ続けている図体だけの『トロール』の他には、群れを成して行動している『軍隊ゴブリン』や、林の茂みからプレイヤーの脳天を撃ち狙っている人並みほどの大きさの『スナイパーゴブリン』が生息している。
そして、最奥の地帯ボスは『番人トロール』という、『トロール』より一回り大きい巨体が待ち構えているそうだ。
だが、この地帯の大きなポイントは先程から俺が狩っている『トロール』にある。
「本当にこいつら、経験値だけは上手いのよね」
そう、ユメカの言う通りである。
この地帯の東西南北の一部のポイントでしか出現しない『トロール』。出現数は一体ずつであり、倒す事にもあまり困らない割には経験値が並のボスクラスにあるのだ。
ゲームで言う、「あっ、これ後で絶対修正入るわ……」である。あっ、これゲームだった。
まぁシステムが掌握されているので、今ではいい稼ぎ場の一つだ。どちらかと言うと、このポイントまで来るのが中々の死闘であった。
『軍隊ゴブリン』の三部隊くらいと衝突するわ、『スナイパーゴブリン』に頭部を狙われるわ。
しかし、ここまで来れば楽園である。
現れるのは縄張りゴリラ!いや、違った!『トロール』だけである。さらに倒せば、1分間の間はリスポーンしないので休憩が与えられる。
これを作業と言わず何という!?
「ほら、次来たわよ」
「また俺なのか……」
「頑張ってくださいセイリュウさん!」
「うん!応援するなら手伝ってほしいな!」
「すまない、私の為に……」
「そうよ!リーダー譲ったんだからリーダーっぽいことしなさいよ!」
「いや明らかに今の俺の仕事リーダーじゃないからね!?明らかに結社入りたての奴が仲間内でやる雑用だからね!?」
「口答えするな!男だろ!!」
「ゲームで性別を出すのは卑怯だろう!!レベルだレベル!!」
セイリュウ 38LV。L
ユメカ 35LV。M
カルト 34LV。M
ハルカ 28LV。M
「このセイリュウ!頑張らせて頂きます!!」
とりあえず血涙した。
☆
俺の剣は一体、幾千の『トロール』を狩ってしまったのだろう?
俺の剣は一体、どれだけ血にまみれているのだろう?
感覚が可笑しくなる。
俺は……俺は……。
「目が逝ってる!」
「はっ!?俺は一体何を……」
俺の手には耐久値が半分ほど消費された『炎王の剣』があった。
ちなみに、『トロール』狩りが始まる前は8割は残っていたはずだ。俺は意識のないうちに、一体どれほどの『トロール』を……?
うっ!頭が!
「いやあんたがいきなり笑いながら『トロール』を狩り始めたから楽しいのかなぁ?って思ったらまさか狂ってただけだったなんてね……」
「お前らが「交代制ね」、とか言いながら、俺が倒すの早いから、「もうセイリュウ全部やっちゃえば?」とか言って全部俺に押し付けたせいだぞ」
まぁ、『トロール』を狩っている時の記憶がまるで残っていないのが不思議で仕方ないんだが……。
細かい事を考えたら負けだと思って、俺はその日の事を忘れる事にした。
まさかレベルが3も上昇してるとは思いませんでした。