11話 「片手剣の必殺技」
少し最近多忙…
確実に首を狙う、致死率100%の剣を紙一重で避けながら俺は『守護者』の隙を探す。どんな小さな隙でもいい、そこにさえ突け込めれば。
勝機はまだある。
だが、その勝機を探す希望にさえ『守護者』は俺から奪い去る。
「冗談だろ……まだ十分程度しか剣を交えていないが、一人じゃこいつの隙を突く事ができないってか………」
「ギギギ。」
諦めるしかない……。
ここは一度死んで、俺だけは退散するしかない。
こんな心意気で傲慢の迷宮がクリアできるのか?
「………そんなんじゃ……駄目だろうがっ!!」
「ギギッ。」
「この世界を終わらせるのは俺だっ!!そして、あいつに勇ましくなった姿で謝るのも俺だっ!!こんな所で諦めるなんて……まっぴらごめんなんだよっ!!!」
「ギギギ。」
しかし、システムは残酷だ。
どれだけ思いを強く吐こうとも、俺の剣戟はあいつには届かない。一歩届かない。
だけど、諦めない。この命が朽ち果てるまで、俺はこの剣を振るい続ける。
100回駄目なら101回目。1000回駄目なら、1001回挑戦するだけだ。だけど、諦めない。
負ける事が100%のシステムの割り出しを打ち破る。
そうしなければ、傲慢の迷宮などクリアできないのだから。
諦めたらそこで終わるのだから。
「斬撃ノ直撃ヲ確認。」
「くっ……」
体力ゲージが6割ほどになっていた。今の俺の防具では体力が4割持っていかれるのか。
つまり、奴の三本の剣を斬撃を浴びる事は死を意味する。
そんな絶望が割り出されたとしても、諦めない。
俺が諦めなければ、まだ勝機はある。
例え、俺以外の人間が傲慢の迷宮のクリアを放棄し、諦めても。俺は一人で戦い続ける。
そんな俺の希望への勝機は一つの可能性を見出す。
「これなら……もしかすると……」
「ギギギ。」
「もうこれ以外に策はない……やるしかないっ!!」
俺は覚悟を決めて、『守護者』を見やる。
「まさかここでこれを使う羽目になるとは思わなかったぜ?マジでお前は今まであった魔物の中でも最高峰の強さだ。恐らく、あの二人がいても苦戦したよ」
「ギギギ。」
「この策を使っても勝てる保証はない。だけど、今のままじゃあ余計にそれが増す」
それこそ100%に限りなく近く。
「排除シマス。」
「だから俺は賭ける!!煙幕瓶!!」
俺の左手に煙玉が入った瓶が具現される。俺はそれを迷うことなく地面に叩き付けた。
瓶からは真っ白な煙が吹き出し、俺と『守護者』を呑み込む。
「ギギギ。ロスト。ロスト。」
俺は『守護者』が俺を探している間に歯車をタップし、武器ポケットを開いていた。
そして、一つの武器を選択し、具現する。
その武器は自動的に俺の左手に発症していた。俺はそれを強く握り、煙が消えるのを待つ。
この煙に乗じて攻撃をしてもよかったが、あいつは背後に回っても気付く様なやつだ。
不意打ちが通じるとは思えない。
それに、真正面からこいつを倒す力がないと、傲慢の迷宮なんてクリアできない。
30秒後、煙が晴れて、俺たちの姿が露わとなる。
先程と場所が変わっていない俺たちの姿が。
「発見シマシタ。排除シマス。」
『守護者』が俺に襲い掛かる。俺はそれを左手の黒鉄の剣で受け止める。
二本の剣の重みが伸し掛かる。俺はそれに耐えきれず、剣を手放した。
「ギギ。」
「『受け流し』っ!!!」
「ギ。」
「入ったぜ……お前の懐にな」
「防御態勢。防御態勢。」
「おせぇえええ!!!!」
片手剣の必殺スキル―――――。
「『刹那七連撃』っ!!!!」
懐に入れば避ける事、ましてや防ぐことなど絶対にできない瞬速、いや神速を剣戟。
無作為な七連撃が『守護者』に襲い掛かる。
「破損シマシタ。破損シマシタ。」
「まだだぁあああ!!!」
俺は氷層の剣を『守護者』の両目の上にある三つめの目に投げつける。
『投擲の剣』、というスキルだ。
まさかこれを使う羽目になるとは本当に思わなかった。
「いやぁーグラムを咄嗟に軽くしてよかったぜ」
「破壊……ハ。」
『守護者』はそこで四散する。
俺はそこでドッと出た疲れでその場に座り込む。
『投擲の剣』。
装備している剣を投げるスキル。投げられた武器は耐久値が0となる。
しかし、直撃した場合、その剣の攻撃力の2倍の威力を相手に与える、凶悪的スキル。
発動条件はグラムが50以下の剣のみ。
「条件内のギリギリ範囲だな」
確か、グラムの上下限界範囲は50だったはずだ。
「セイリュウ様。お見事でした。このような強敵をたった一人で倒してしまうなど……」
「いやマジで賭けだったよ……こいつが煙の中でも索敵能力があれば詰みだったし、黒鉄の剣の耐久値が0になってたら終わりだったし……あーもうこんな奴とは絶対戦わねぇ!!」
「お疲れ様です、セイリュウ様」
「お……おう」
その時見せたリンネの笑顔で俺の疲れは消し飛んだ。
☆
セイリュウが剣を『守護者』を交えている時。
「攻略組58名!!!傲慢の迷宮へ行くぞぉおお!!!」
「「「おぉ!!」」」
始まりの街、南には傲慢の迷宮をクリアせんとするために58名の猛者が集っていた。
「今回の作戦リーダーを務めるギルラフルだ。君たちには感謝している……だが、俺たちはメンバーが集まっていることに喜んでいる暇はない!!!今こそクリア不可能と呼ばれし、大罪迷宮である傲慢の迷宮のクリアする時だっ!!」
「副隊長のヴァーミリオンよ」
そう、背中に巨大な90cmはあろう狙撃銃を担いだ耳が少し長い、森型の少女が現れる。
静かな面影を持ったその背中に掛かった透き通るような蒼髪が彼女の美しさを表していた。
そして、その空のような綺麗な瞳には、静かな闘志が秘められていた。
「んだ?女が副隊長を務めるのか?」
「おいおい?あの人を知らないのかよ?ヴァーミリオンと言えば100m範囲の敵の頭部を絶対に射抜くことが出来るって言われてる最強の狙撃狩だぜ?」
「なんで剣の世界にいるんだよ……」
「さぁーな。だが、あいつの援護は恐ろしく心強いぜ。あいつは座っていようが立っていようが動いていようが狙いを外さない天才だからな」
「というかSONにあんな武器あったか?」
「万年無課金の俺たちには届かない武器だよ」
「課金武器かよ……」
「今、現状じゃ絶対に手に入らない最強に位置する武器だ」
SONは現在、システムを完全に掌握されているために課金は不可能である。
「それにしても可愛いなぁー俺の好みだわ」
「お前あんな平べったい胸が好みなのかよ……俺は断然ユメカさんだね!!噂じゃこの世界にきてるらしいぜ?」
「マジかよ!?」
「一晩ゆめみてぇーな」
「おまえじゃ無理だ、たこ」
「お前もな」
「以上が作戦内容です。異論のある方は発言をお願いします」
一人の男が、手を上げる。
「どうぞ」
「ヴァーミリオンさん、俺と今夜一緒にねねぇ?」
そう下種の笑みを見せる剣を二本担いだ男。
「貴様!!攻略する気があるのか!!」
隣にいた青年が男の襟を掴む。
「てめぇーには聞いてねぇーよ雑魚」
「貴様……上等だ!!殺してやる!!」
「落ち着けルーシュ!」
青年の友人と思われる男が今にも斬りかかりそうな、ルーシュを抑え込む。
「間違えて背中を斬られても文句は言うなよ?」
「こっちの台詞だ。ぎゃっはっはっは!!んで、どうよ?」
「ルシファーを倒せたら考えておきます」
そこで全員の指揮が少し上がった。
実質、ルシファーと倒せた男に権利をやる、と言っているような物だからだ。
「ごほんっ!!それでは傲慢の迷宮へいざっ!!!」
ギルラフルの雄叫びにより、仕切りなおした街は一気に盛り上がる。