10話 「初迷宮」
皆様の応援(?)で10話突破しました!
ガンっ!と、剣と剣が交わるような不協和音が俺の耳に鈍く伝わる。
だが、それでも今持っているこの剣を止めて、耳を抑える事は許されない。
「ギギギ。」
「くっ!?」
目の前にいる、『守護者』と呼ばれる五本の足で立って三つの目を持つ異形な魔物は恐ろしく鋭い剣を振るい下ろす。
何より厄介なのは腕が三本あって、全ての手の中に鋭利な剣が握られている事だ。
「ギギ。」
「うぉ!?っ!!危ないっ!!」
俺は機械的に繰り出される連続三回攻撃を何とか避ける。
そして、『バックステップ』で大きく後退し、体勢を立て直す。
「やばいな……あいつ」
「ロックオン。ロックオン。」
あいつの見た目は明確な化け物ではなく、完全なる機械だ。
だからこそ攻撃は単調で読みやすいが、読めていても避けられない。
三つの剣は正直、かなり厄介だった。
かと言ってあの三つの目から逃げられる自信はない。
トンボのようにクルクル指を回したら混乱状態陥ってくれないかな?
機械だってんだろ!
「くっそぉお!ユメカの奴、何が今の俺なら余裕だっ!!くそつええじゃねぇーか!!」
☆
―――――――――――――数時間前。
「火山の迷宮に入るだぁ?」
「そう、私は火山の迷宮の奥にある秘宝、『溶岩結晶』が欲しいの」
「『溶岩結晶』って何ですか?」
「火山の迷宮の奥地でしか手に入らない、秘宝指定の限定道具にも認定されてる道具だよ。だけど、火山の奥地は洒落にならない強さって聞いてるぜ?」
先程の『溶岩ゴーレム』とは比べ物にならない魔物がワンサカといるはずだ。
「私はそれを何としても手に入れないといけないの」
ユメカの目には覚悟が込められていた。この覚悟を折る事は俺にはできそうにはない。
「その為に協力をしてほしいってか?」
「うん。多分、悔しいけど私一人じゃクリアできない……あんたのさっきの戦いを見てあんたの協力が欲しくなったわ」
「なんだなんだ?嫌に俺を褒めてくるな……」
「あのあの……先程から話が読めないんですが……。火山の迷宮には奥地があるんですか?」
「リンネ、この無垢な女の子に火山の迷宮の説明を簡潔に」
「かしこまりました。それではカルト様、火山の迷宮について私がお教えします」
「はい!お願いしますです!」
「火山の迷宮はまずこの火山の事です。しかし、火山の迷宮とは略称にすぎません。火山の迷宮は三つの迷宮に分かれているのです」
「ほへぇー。この大きい火山の中に迷宮は三つもあるんですか……」
「火山の迷宮の下層と呼ばれる、地下へ進んでいく迷宮。上へと昇って行く上層。最初はこの二つに入ることが迫られます」
「あれ?奥地は最初に選択できないんですか?」
「奥地は上層をクリアしたプレイヤーから、つい最近見つけられた俗にいう隠し迷宮のような物なのです。クリアしたプレイヤーは無課金者の中にはいません」
「つまり、奥地に行くにはまず上層をクリアしなければならない、そういう事ですか?」
「そうですね。下層をクリアしても特に隠された迷宮は存在しないようです。ちなみに難易度は簡単な順に下層、上層、奥地、となっております」
「って事は凄く難しいじゃないですか!私たち無課金ですよね!?無課金ですよね……?」
カルトは俺とユメカを見比べる。
「ああ、俺はまだ課金してないし、これからもするつもりはない」
「私も使ってないわね。というか、給料日前にゲームに閉じ込められて課金できなかったってのが本音かしら」
「まぁいいぜユメカ、火山の迷宮に行こう。こんな所で躓いていたら傲慢の迷宮になんか届かない」
「恩に着るわ」
「それじゃあ仲間組むか。ユメカ誘ったから入れって……なんだその顔」
「なんであんたが仕切ってるわけ?」
「いや、意味が分からん。えっ?俺が仕切るムードじゃないの?」
「私が誘ったからあんたらが入りなさい!」
もうなんか、強情を通り越して子供である……。
だけど色んな一面のユメカを見れて、可愛いなと思う心もあるわけで……。
いかんぞ男の性が……。
仕方ないじゃん!あいつ顔はかなり可愛いし!胸も問題ないし!何より同い年だしっ!スタイルいいしっ!!他にもいっぱいあるしっ!!
ユメカ 28LV。L
セイリュウ 28LV。M
カルト 25LV。M
ちなみに、このLはリーダーという意味でMはメンバーという意味である。特に深い意味はない。ただ、どこかのメンバーである、という意味だ。
結社だとまた別の文字が表示されるらしい。俺は入ったことないからわからないが。
そして、俺たちは火山の迷宮・上層に突入した。
「ぐるぁあああ!!」
「はぁあああ!!!」
俺は氷層の剣を四度ほど、無作為に振るい、『ファイアーゴブリン』と呼ばれる赤色の牙を剥き出しにした鬼の形相の化け物を絶ちきる。
そのまま体の体勢を低くし、もう一体の『ファイアーゴブリン』の拳攻撃を回避し、その拳を振るった時にできた隙を突いて同じように無作為に斬る。
「ぶるぁっ!!」
「エロい目で見てるんじゃないわよっ!!」
後ろではユメカが『レッドファイター』と呼ばれる人間の皮膚を赤くした、格闘家の魔物を大剣を振るって切り倒していた。
流石は大剣だ。斬る範囲や威力は片手剣とは比べ物にはならない。
現に『レッドファイター』は攻撃を回避しようと後ろに飛んでいた。
だが、大剣の攻撃範囲外には逃げられなかったようだ。
「えいっ!」
「キキッ!」
「もうっ!」
「ケケッ!」
「避けるな!!」
「キキキ!」
「何してたんだよ……」
「このコウモリがさっきから耳障りなんです!!」
「こいつは特に俺たちに攻撃はしてこないぞ?」
『赤羽蝙蝠』と呼ばれるその魔物は火山地帯に住まう小さな魔物だ。
姿は少し赤みがあるただのコウモリである。
だが、実在するコウモリのように血を吸って攻撃をしてきたり、超音波を飛ばした攻撃などはまるでしない。
ただ鳴いてプレイヤーを挑発するだけ。
まぁ、それがかなりウザイんだが……。
無視さえ決め込めば特に問題はないのだ。
「キキッ!」
「ケケケっ!」
「キー!」
「うぜぇええええーーー!!ぶっ殺してやるっ!!!」
「二人揃って完全に遊ばれてるわね……」
☆
「かなり進んだけど、まだこの迷宮は続いてるのか?」
俺は先頭を歩いているユメカに聞く。
すると、ユメカは立ち止まり、ゆっくりと剣を引き抜いた。
「到着よ……」
「ここが上層のゴール……」
左右は灼熱のマグマの海だ。
落ちれば間違いなく焼け死ぬだろう。
というか、見てるだけで熱くないはずなのに、熱くなるほどのマグマだ……。
今、俺たちが立っている桟橋状になった岩石の足場が崩れたらどうしよう……と考えてしまう。
ちなみに、絶対に壊れないらしい。
「この桟橋を渡った先に奥地への階段があるわ」
「なんか熱いですね……」
「確かに……周りが周りだからな……」
桟橋を渡り終えると、そこに広がっていたのは何もない空間だった。
奥の方は暗く、何があるかはわからない。
「この先が奥地なんですか?」
「いや、何かいるわっ!!」
ユメカのその叫びを聞き、俺は剣を抜刀し、握りしめる。
暗黒の視界の先で三つの目が俺たちを睨む。
あれは……なんだ?
「ロックオン。ロックオン。侵入者ヲ三名確認。排除を開始スル。」
「こいつが上層のボスかっ!!」
「機械……?」
その赤錆を帯びた機械の三つの目は俺たちを見据えていた。
『守護者』。
奥地への侵入者を排除する上層のボスって事か!!
「排除シマス。」
「セイリュウ!囮お願い!」
「任せろっ!」
俺は一気に『守護者』との距離を詰める。
暗闇でははっきりと見えなかったが、こいつ腕が三本も生えてやがる……、体は馬みたいだし……。
「攻撃開始。」
「うぉ!?」
真上にあった腕から鋭い剣が振るい落とされる。
それを俺は剣で受け止める。
しかし、攻撃はそれで止まず、左方にあった腕から薙ぎ払うように振るわれる剣。
「避けきれ……!」
俺は『バックステップ』の後方加速で一気に後ろへ飛ぶ。
「それじゃあセイリュウ。そいつの相手よろしくね♪」
「は?」
気が付けば、ユメカとカルトは『守護者』の背後にあった階段の傍にいた。
って、まさかあいつら!!
「せ……セイリュウさん、ごめんなさーい!」
「今のあんたなら余裕だと思うし、私は先を急ぐからカルト借りていくわー」
「ふざけんな!!ってうぉ!?」
「ギギギ。」
「『守護者』さーん!!後ろですよー!後ろにあなたを倒さず僕を餌にして奥地へ行く本当の不届き者がいますよー!」
「それじゃあ奥地へ出発ー!」
「わぁー!本当にごめんなさいー!」
ユメカとカルトの姿が消える。
いつの間にか、メンバーからも外されている俺って……。
畜生あの女!!
可愛い顔で俺を餌にしやがった!!あの糞女!!
一回あの可愛い顔をギタギタに斬らないと俺の怒りが治まる気がしねぇ!!!
「ギギギッ。」
「って、今はそんな事を考える余裕はねぇ!!」
まさか、奥地へ行く条件がこいつの撃破じゃないなんて……。
運営さん、変なところでぬるいよ……。
振るわれた剣を俺は左に飛び込み、避ける。
「こんな所で負けるわけにはいかない……傲慢の迷宮をクリアするためにもっ!!」
俺はさっきよりも強く剣を握り、『守護者』に向かってその剣を振るい落とす。