9話 「溶岩地帯の探索」
「はぁ!はぁ!!」
逃げ纏う少女の持久力は既に0に近いほど、減少してしまっていた。
しかし、少女は背後から聞こえる足音が聞こえると、それに気づかずに走り出す。
誰もいない暗黒の森の中、少女の持久力が残酷にも0になる。
「い……こ…来るなっ!!」
「………」
男は無言で亡霊のように近づいていく。
少女の震えはその男が近づくたびに大きくなる。
「こ……来ないでっ!いやっ!いやぁああ!!!」
「………!!」
男は握っていた剣を無情にも振り下ろす。
しかし、それで少女の体力が減ることはない。
減少するのは、少女が身に纏っていたコートだけだ。
「いやぁ!見ないで!!」
「………!」
男は裸になった少女の肌を嘗め回すように眺め、悪魔の笑みを見せる。
☆
「はっ!」
俺は背後から近づいてきていた、『溶岩スライム』を体を捻じり、斬りつける。
そして、そのまま『バックステップ』を使用し、後ろに下がる。
先程、俺が立っていた場所には『溶岩スライム』のマグマが吐かれている。
あれはダメージこそは大したことないが、火傷状態という状態異常になり、体が熱くなり5秒毎に体力を30減少させられるので、中々辛い物があるのだ。
しかも、その火傷は水の中や氷などの道具を使用しなければ治らないのだ。
俺は今、そんな道具はないし、こんな熱々の溶岩地帯に水などあるわけがない。
よって、絶対に避けなければならない。
「ぷぎょおお!!」
飛び掛かってくる『溶岩スライム』。
ちなみに、触れても火傷状態になるので厄介である。
「えいっ!」
そんな『溶岩スライム』を小型ナイフで七連続攻撃をし、四散させるカルト。
あの時よりナイフ捌きがかなり上達している。
「カルトも随分とナイフの扱いに慣れてきたな」
「はい!でも、そろそろこの武器の耐久値がなくなってきてるんです」
「確かに、あの森でもずっとあの武器だったからな……。鍛冶屋で叩き直すか新しい武器を作るか?」
「いえいえ、鍛冶屋さんに頼むことにしますよ」
「気に入ってるんだな」
「友達が……くれた武器ですから」
「ふーん」
「会って、この武器でルシファーと戦ったよって言いたいんです」
「今のお前なら大丈夫だよ。安心して背中を任せられる」
「って事は、昔は背中を預けてるのに任せてなかったんですか!」
「えっと……」
「ああ!図星だ!もうセイリュウさんなんて知りません!」
「悪かったよ!だってお前あの時まだまだ『餓えた狼』に苦戦してたんだもん!」
「もう……、でも今は任せてくれてるから許します」
「そう言ってくれると助かるよ……」
俺は剣を強く握り、目の前にうようよと現れ始めた『溶岩スライム』を切り倒していく。
カルトはそんな俺の斬り残しを倒してくれる。
「どきなさいあんたらっ!」
「は?」
「ふぇ?」
その瞬間、ユメカは背中の大剣を抜刀し、空を切り裂いた。
切り裂くと同時に、飛びだしてくる風の刃こそ、ユメカが持っている隠しスキルである『真空斬』である。
リーチは15mと長く、威力もかなり高い。
風の刃を飛ばし、15m先のモンスターをなぎ倒すスキルだ。
弱点と言えば、放つ時の隙と放った後の隙くらいだ。
「ってうぉおおおおお!?」
「きゃぁああああ!!」
俺はカルトを押し倒し、その場にしゃがみ込む。
「バカかてめぇ!?俺たちがいるのに普通発動するか!?」
「あーら残念。あわよくばセイリュウをと思ったんだけど」
「このキルプレイヤー未遂がっ!」
「それよりも私の目の前で女の子を押し倒すとはいい度胸ね」
「え?」
ユメカの大剣の剣先が俺の顔に向けられる。
そしれ、俺の下には俺の下敷きになったカルトがいた。
顔が赤いのは熱さのせいだよね?でも、この熱い地面の溶岩地帯に手を付けてるけど、全然熱くならないんだ。
寧ろ、冷や汗を掻いて寒くなってきたよ。
「こ……ここここ……こういうば……ばば……場所ではだ…だだだ……駄目だと思います…///」
「うぉおお!!?すまんカルト!!」
俺は急いで立ち上がり、カルトと距離を開ける。
確かに、カルトは可愛い。
だけど、早まるな少年セイリュウよ……。
「あんた殺すわ」
「お前元凶じゃないか!!」
「セイリュウ様……」
「呼んでねぇーよ!」
「ぐるぁああああ!!!」
俺たちが騒いでいると、巨大な岩が小さく動く。
そして、それが動くと周辺が小さく揺れる。
「なに!?」
「リンネ!」
「これは恐らく、『溶岩ゴーレム』です!」
「『溶岩ゴーレム』だと!?何でも溶岩つければ解決すると思うなよ運営!」
「『溶岩ゴーレム』は硬化したマグマを纏った6mほどの巨大な魔物です!その硬い体は剣による攻撃を全て弾きます。攻撃を通るようにするには、ドロドロの新しいマグマを付着させるしかありません」
「厄介な!……って来るぞ!!」
大きな岩は姿を現し、巨大な黒い岩石の魔物となる。
『溶岩ゴーレム』
「森の帝王なんかより、遥かにでけぇ!!」
「でかすぎです!!」
「ゴゴゴ……!」
『溶岩ゴーレム』はその腕を振り下ろす。
俺たちはそれを飛んで避ける。
しかし、『溶岩ゴーレム』その剛腕な一撃により、地面の硬い岩が砕け、俺たちに襲い掛かる。
「ぐぁ!」
「きゃぁ!!」
「くっ!!このっ!!」
ユメカはその大剣を振るい、風の刃を『溶岩ゴーレム』に向けて解き放つ。
しかし、風はその硬い体に弾かれる。
「ウソでしょ!?」
「ユメカ!避けろっ!!」
「ゴゴゴ!」
「あぐぁあ!」
「ユメカっ!」
『溶岩ゴーレム』の拳をかろうじで避けるが、ギリギリだった為に風圧で吹き飛ぶユメカ。
「野郎っ!!」
細かい石がユメカに小刻みにダメージを与えたのか、ユメカの体力は半分ほどまで減っていた。
しかし、『溶岩ゴーレム』は標的をユメカにしたのか、倒れているユメカに襲い掛かる。
「カルト!!ユメカに回復アイテムを!!」
「セイリュウさん!?」
「お前の相手は……俺だデカブツっ!!」
俺は氷層の剣の鋭い刃が当たるように、剣を振るうが『森の帝王』の時より硬い振動が返ってくる。
こいつ、硬すぎる……!
「ゴゴゴ!!」
「セイリュウ様!!」
「わかってる!!『ライトステップ』!!」
俺は緊急で右に避けるが『溶岩ゴーレム』が拳を振り下ろし、その時に砕けた細かい石粒は避けられない。
さらにいうと、『ライトステップ』と『レフトステップ』は持久力に減少がかなり大きいのだ。
あまり連発はしたくないのだが、あの二人からは距離を置かせなければならない……。
「セイリュウ様!『溶岩スライム』の落とすした、『熱々な液体』さえあればあいつに攻撃が通ります!」
「なに!?それを早く言えよ!!」
「申し訳ありません。弱点検索をしてたもので…」
「それでもナイスだ!」
俺は逃げながらも咄嗟のように、メニューを開き、『熱々な液体』を取り出す。
数は見ていないが、結構あるようだ。
「これか……」
俺は小瓶に入った、溶岩のような液体を凝視しながら襲い掛かってくる『溶岩ゴーレム』に向けてその小瓶を投げる。
小瓶は『溶岩ゴーレム』に触れると同時に割れ、中身が『溶岩ゴーレム』に掛かる。
「どりゃぁあああ!!」
俺はその掛かった部分に向かって、鋭い刃を振り下ろす。
かなり柔らかくなっていた。
「いけるっ!!うぉおおお!!!」
「ゴォオオオオオ!!!」
俺は休むことなく、連続攻撃を浴びせ続ける。
『溶岩ゴーレム』は斬られたことがあまりないのか、一撃一撃でかなり怯んでいる。
「とどめだぁあああ!!!」
「………ゴ…ゴゴ……」
『溶岩ゴーレム』は後ろに倒れ、体を四散させる。
「凄いですセイリュウさん!」
「カルト、ユメカは?」
「無事よ……まさか、あんたのような男に助けられるとは思わなかったわ」
「なんだよ、素直に礼は言えないってか?」
「流石はセイリュウ様です。見事な剣戟かっこよかったです」
「はい!流石はセイリュウさんです」
「そう?あははは!!照れるなぁ!」
「……ありがと」
「なんか言ったか?」
「何でもないわよ!!というかお約束すぎるわ!!」
こいつは何を言っているんだ?
☆
「号外!号外だよっ!!」
始まりの街に号外と書かれた紙がばらまかれる。
『防具破壊!夜道を襲われる女性プレイヤー!!』