君ト僕ノ縮マラナイ距離
僕には愛している人がいる。
でも、今、僕は君に会うことは出来ない。
何故なら、僕はとんでもない事をしてしまったからだ。
それでも、僕は君に会おうと足を動かしている。
正直、足の筋肉が悲鳴を挙げている。
辛い。
苦しい。
もう走れない。
そんな感情が込み上げて来るけど、僕は……それでも走り続ける。
少しして、トラックの運ちゃんに声を掛けられた。
「どうだ、乗っていくか? 坊主」
僕は、運ちゃんの好意に甘えた。
助手席で座ったままジッとしている僕を、運ちゃんは運転しながら時々見ている。
「坊主、名前は?」
「…………」
「……名前、言えないのか?」
「……うん」
「困った坊主だなぁ……」
運ちゃんは苦笑いしながらも運転している。
君の住む町の近くまで送って貰えたんだ。
「坊主、元気でな!」
運ちゃんが手を振っているから、軽く振り返して僕は、また走り始めた。
走っている間、僕は昔の事を…………そして、何故こうしているのかを……思い出した。
僕は年齢とは裏腹に体が小柄でクラスの皆から苛めを受けていた。
両親も、僕を『出来の悪い息子だ』『何で父親の恵まれたガタイを受け継いでないのか』と言って暴行していた。
僕は堪らなく嫌だった。
クラスの皆のせいで学校に行かなくなった。
両親のお陰で家を出て独り暮らしを始めて、部屋に引き籠る事が殆どだった。
まず最初に自分の郵便通帳の暗証番号を変えた。僕だけしか知らない秘密の番号に。
僕には味方が居なかった。
唯一の救いは、君からの手紙だった。
最初は、インターネットでの繋がりだった。
あるサイトで意気投合した僕と君は次第に手紙を交換するようになった。
僕は毎年年賀状を君にだけ送った。
君は毎年、僕に年賀状を返してくれた。
君との手紙交換が僕の希望だった。
次第に家から出るようになった。
近所のコンビニでのアルバイトも始めた。
最初は大変だったけど、今ではバイト先の先輩との仲良くなれた。
人を少しでも信頼しようと思った。
でも、ある日両親がやって来た。僕を連れ戻そうと思ったらしい。
僕はその時の両親の微笑みが、悪魔の笑みに見えた。
『せっかく、この生活に希望が見えたのに』
『もし、また戻ったらきっとまた苛められる』
そう思うと、僕は怖くなった。
そして、僕は…………
僕は、そこで思い出すのを止めた。こんな記憶は無くなれば良いのに……
そして、あと少しで君の家に着く所まで来れた。僕は嬉しくなって走るスピードを少し上げた。
でも、その時…………
僕の体が空中を舞った。
コンクリートの地面に叩き付けられる直前、君が家から飛び出しているのが見えた。
漸く会える……
でも、体が重い…………
僕の意識はそこで途絶えた…………
『本日未明、○○○○さん夫妻を殺害したとして指名手配されていた息子の○○○○容疑者(21)が☆★県●○市郊外の住宅街で集配のトラックにひかれてその場に居合わせた女性が救急車を呼び、近くの病院へ緊急搬送されましたが、その救急車の中で死亡した事が判りました』
『○○○○容疑者は、自宅に訪問した両親を包丁で心臓をひと刺しにし即死したにも関わらず、更に身体中を何回も刺し、その後行方を眩ましていました』
『尚、○○○○容疑者が集配のトラックにひかれた際に連絡した女性は容疑者の事を良く知る人物だった事もあり、○○警察ではこの女性から事情を聞くとのことです』
『尚、○○○○容疑者のアルバイト先のコンビニ店員の一人は「最初は結構引っ込み思案なイメージでしたけど、最近はとても明るかった。殺人を犯すなんてとても思えない」と話しているそうですが……●●さんどう思われ…………』