最悪な男
三話
屋上で偶然出てこようとした不良の彼と出会った主人公と、その不良の彼との会話的なものとなっています。
見えたブレザー
鼻の痛み
そして、睨まれたような眼差し
「んあ? 確か同じクラスの…誰やっけ?」
「あ、野木です」
何をやっているんだろう自分は。おそらく目の前にいる彼が佐原なんだろう。同じタイミングで扉を開けたせいで、反動で倒れこんだのが彼。おそらくの推測だが…。
「で、その野木が俺に何の用?」
「先生が授業に出てほしいって」
「却下。そう伝えといて」
「はぁ…」
それじゃどうやって先生に報告すればいいんだろう…。そんな気も知らないで彼は屋上にある給水タンクの影の方へ行ってしまった。あわてて追いかけて理由を聞いた。
「あ、の… なんで授業さぼるの…?」
こちらを少しだけ見た彼は、また視線を戻した。
「別にいいじゃん。俺の勝手やし」
「いや…それじゃ私が困るんですけど」
そういうと彼は訳のわからない顔をした。
「なんであんたが困るんだよ」
「えと、理由がないと…」
「理由…? …なら閉所恐怖症やからって言っといて」
「はぁ」
驚いた。不良の彼は閉所恐怖症だったのか。というか、それは嘘だと思われたりしないのだろうか…?
いろんな思いが交差する中、彼は寝転がった。そして目をつむったまま一言。
「早く出てけよ。水色パンツ」
「………なっ!」
一瞬周りが白くなった。思考が一気に停止して、顔が赤くなって熱を持ったことをなんとか理解する。とっさにスカートを手で押さえて、勢いよく座り込んでしまった。そして羞恥心で相手の顔を見るのも、大変になった。
「いつの間にっ」
「こっから見えたんだ。別に誰がお前の下着なんぞ見たがるかい、アホ」
「最低っ、この変態痴漢男!」
もう知らない。こんな男、とっとと退学になればいいのに!
そう心の中で呟きながら、屋上を出て急いで階段を下りた。さっさと教室に戻ってしまえばいい。二度と会うことさえないだろう。たとえ先生に頼まれても、会いに行かない。断って、ほかの生徒に頼んでもらえばそれでいい。
そして教室に戻ってきた空の顔は、今まで以上に恐ろしかったそうだ。先生も口には出さずに、冷や汗を掻きながら成果を聞いたが、睨みつけられて何も言わなかったらしい。ただ空から一言…。
「彼は閉所恐怖症らしいですよ」
と聞くことはできたらしい。
「あっははははは!」
「なんで笑うの…」
今、自分の目の前で爆笑している友人に睨みを利かせる。屋上であった出来事を話したらこれだ。酷い。こっちは被害者なのに。
「何その佐原って奴! 空の下着とか見て、ただで済むのはすごいことよっ!」
「それってどういう意味?」
呆れ半分で聞けば、予想していたのと同じ答えが返ってきた。
「だってさ、よくそれで赤空君が黙ってたよね」
「あぁ、最近ずっと紫空となんか喧嘩してるんだよね。二人で何してるんだか」
中で聞こえる自分に似た二つの声。一つは男らしい口調をしていて、もう一つはそこら辺にいる平凡な女の子という感じではなく、大人の女のような口調をした声。正直うるさいが子供のころからこうも聞いていると、気にならなくなる。
「で、その喧嘩とやらで外のことには気づいてないんだ」
「うん、たぶんね」
ストローをさしたジュースのパックを吸う。口にオレンジの味が染みこんで消えていった。
「赤空君出て来てくれないかなぁ。あたしあんたの赤空君大好きなのに!」
「そんなこと言われても…。ていうか、ほかの男子にさえ興味を持たなかったのに、どうして赤空は興味持つの?」
「だってかっこいいし、助けてくれたこともあったし。ま、それが全部空のためだってことはわかってるけどね」
「そうですか」
赤空はいつも空が喜ぶことをしたがる。それに空の親友ともいえる歌穂がガラの悪い連中に囲まれていたとき、空の人格から出てきて助けたこともあった。もっとも歌穂だったら一人で大丈夫だったかもしれないが。
でもその時に、歌穂が赤空のことを好意ではないが興味を示し始めた。新しいおもちゃを見つけたような感じで。
「赤空君にまた出て来てもらえるように言ってみてよ」
「えぇ、嫌だよ。喧嘩して機嫌悪いんだから」
第一こんなところで自分の他の人格を見せるなんて、周囲に自分が多重人格ということを見せつけるようなものだ。
「絶対に嫌」
「あっそ。面白くなりそうだったのに…。まぁ、また今度でいっか。それにしても確か佐原って影では結構モテてるよね」
「…ちょっと、あいつの話なんてしないでよ」
「いいじゃない少しくらい」
「もう」
あとから聞いたが、あの佐原は女子から結構な好意を寄せられているようだ。でも本人の性格もあって、告白をする女子も少ないらしい。それでも告白した女子がいたらしいが、断られてしまったそうだ。
「それでも思ったけど、紫空もよく出てこなかったね」
「私もそれ思った」
てっきり出てくるのではないかと思っていたけど、赤空との喧嘩に夢中になりすぎていたのだろう。出てきたりはしなかった。それはある意味よかったのかもしれない。でも紫空なら、下着を見られたぐらいで自分のように騒いだりしなかっただろう。あの人は大人の女性だから。
「でも私佐原と同じクラスじゃなくてよかったぁ。屋上に向かえなんて言われたら、私死んじゃうもの」
「ただの高所恐怖症で死なないよ。大げさなんだから」
「だって怖いのよ。高いところ大っ嫌い」
「あっそ」
歌穂は高所恐怖症。屋上でお昼を食べたいと思っても、行けなかったのは彼女のせい。でも今度から自分も行こうとは思わない。あいつと会うと思うと虫唾が走る。
「そこまで嫌い?」
「…なんでよ」
「顔、酷いわよ。相当歪んでる」
「えっ」
そのせいでまた慌てたのは言うまでもない。
と、三話はここで終わります
いかがでしょうか?
最初からこんな出会いでいいのかと自分で思ってしまいますが
ここからどう展開していくか、考えどころでもあります。
頑張ってみようと思います!