05. 鋼鉄銀魚の松笠焼きと天ぷら
毎日投稿追い付かなくなってきたので、2日おきに22時に更新します
夜の『止まり木亭』──。
厨房に吊るされた魔導ランプの灯りの下で、銀色に輝く巨大な『鋼鉄銀魚』が横たわっていた。
「……これ、本当に食べるんですか?」
少年アルが不安げに尋ねる。
一足先に店で待っていたガッツが「俺もこいつを食おうとした奴は数人知ってるが、全員包丁が折れたと嘆いていたぜ」と笑った。
「俺もコイツの調理法は知らねえな」
当たり前のようにガッツの隣に座っているバルドも、険しい顔で腕を組む。
「食べるさ。それも、美味しくいただいてやんよ」
カイが不敵に微笑み、意気揚々とエプロンを締めた。
まずは『浄化』。内臓に溜まった強烈な魔毒と、泥のような生臭さを一瞬で消し去る。
ガッツの言う、「包丁が折れる」のは、下処理の方法を知らないからだ。手で剥ぎ取ろうにも硬く、包丁に頼るのはしょうがないと言えるが。
カイは、高温に熱したオイルを、魚の皮目に著直接回しかけた。ジュワッ!という激しい音と共に、鱗が一枚ずつ逆立ち、花が開くように反り返る。
鱗の隙間に刃を滑り込ませ、一気に三枚におろす。頭側の半身には自家製ハーブをたっぷりと塗り込み、皮目を上にしてオーブンへ放り込んだ。
残った尾側の半身は、天ぷら用に皮を剥いで厚切りにしてとっておく。
続いて取り出したのは、常温に戻しておいたオークの塊肉だ。塩コショウで下味をつけ、余分な水分を丁寧にふき取る。
これに小麦粉を薄くまぶし、フライパンで多めの油を使って揚げ焼きにしていく。強火でカリッと焦げ目をつけたら、ひっくり返す。
ここからは低温でじっくり火を通すため、しばらく放置。
その間に、天ぷらを作る。
ボウルに氷水と卵黄を合わせ、そこに冷えた小麦粉をバサッと入れる。ここで混ぜすぎないのがカイのこだわりだ。
箸で八の字を書くように数回混ぜ、あえてダマが残るくらいにする。
190度の高温油に衣を落として、すぐ浮き上がるのを確認できたら、打ち粉をした切り身を入れ一気に揚げていく。表面が固くなったら火を弱め、衣の中で魚を"蒸す"状態へ。
「音が低く、小さくなってきた。……ここだ」
パチパチという高い音から、ポコポコという低い音に変わった瞬間を見極め、引き上げる。
「あっちも焼きあがった頃か」
オーブンから松笠焼きを取り出し、フライパンに作っておいたソースをたっぷりとかける。
これは、ネズミ茸をソテーし、塩と安酒で煮詰めて作ったものだ。
そして、休ませていたオーク肉は薄くスライスする。
浄化した瑞々しい生野菜の上にオーク肉を盛り付け、ビーツの真っ赤なソースを敷く。
「……完成だ。冷めないうちに食え」
カウンターに三枚の大皿が並べられる。
『鋼鉄銀魚の松笠焼き』
『鋼鉄銀魚の天ぷら』
『オーク肉のタリアータ風』
空腹のアルがおずおずと、一番目を引く松笠焼きにフォークを伸ばした。
パリッ、ポリポリッ!
静かな店内に、小気味よい音が響く。
「……っ!なんですか、これ!鱗がサクサクで……身は、噛まなくてもいいくらいフカフカです!」
「どれ、俺も……この鱗、本当に食えるのか?はむ……っ!サクサクのスナックみてーだ!身の柔らかさと旨味がとんでもねえ。これ、肉より美味いんじゃねえか!?」
ガッツが驚愕の声を上げれば、続いてバルドが天ぷらを口に運ぶ。
「俺はコイツが気になるな。見たこともない料理だ」
「……っ!なんと……!衣が熱を閉じ込め、魚の水分を逃がさず旨味に変えているのか……!この淡白な白身が、キノコソースと合わさって最高級の乳脂のようにとろけやがる。……鱗の松笠焼きが『動』なら、この天ぷらは『静』。見事な対比だ」
職人気質のバルドらしい称賛に、リネットは「難しいことはわかりませんけど、とにかく美味しいです!」と、オーク肉のタリアータにかじりついた。
「んんっ! このお肉、レアなのに全然臭くありません!それにこの赤いビーツのソース……甘酸っぱくて、お肉の脂をさっぱりさせてくれるから、いくらでも食べられちゃいます!」
断面は、カイの計算通り完璧なロゼ色。余熱でじっくり火を通したオーク肉は、噛むたびに濃縮された肉汁が溢れ出し、ビーツの香りが鼻を抜ける。
「おい、カイ!この茸のソース、パンにつけても最高だぞ!ネズミ茸がこんなにクリーミーになるなんて、街の高級店だって知らねえはずだ!」
ガッツは皿に残ったソースをパンで拭い取り、幸せそうに頬張る。
アルは、今まで食べたこともないご馳走を前に、瞳に涙を滲ませていた。
「……僕、こんな美味しいご飯食べたの初めてです。カイさん、あなたは命の恩人です」
「言っただろ、そいつをご馳走に変えてやるって」
カイも、まともに魚料理を作れたことに満足げな様子で、照れ隠しに、天ぷらを頬張った。
(……完璧だ。油のキレも、火入れも。これだよ、この味が食いたかったんだ)
やがて、大皿の上にあった料理は、ソース一滴すら残らず五人の胃袋へと消えた。
膨れた腹をさすりながら、ガッツが満足げに立ち上がる。
「ふぅ……。この世界にこんな美味い飯があるなんて感激したぜ。カイ、恩に着る!」
「……このレベルの飯を毎日食わされるガッツの胃袋が心配だな。舌が肥えすぎて、他の飯が食えなくなるぞ」
バルドは毒づきながらも、どこか誇らしげに息子を連れて店を出ていく。
「また明日な!朝食も楽しみにしてるぜ!」
「せめて夕食だけにしてくれよ……」
カイのぼやきは、上機嫌なガッツの耳には届いていなかった。
賑やかな親子が去り、店内には心地よい充足感と、リネットの満足そうな寝息、そして片付けを始めようとするアルの姿だけが残った。
AI作成のレシピイラストは参考までに。作中ではキノコソースかけてます。




