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異世界料理は浄化とともに!  作者: 愛田茶々


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03. 屋台メシアレンジ!『炭火焼きオークバーガー』

 ダンジョンから戻り、街をぶらぶら歩いていた時。聞き覚えのある野太い声がカイを引き止めた。


「おい、そこの兄ちゃん!待ってくれ!」


 駆け寄ってきたのは、先ほどダンジョンでバロティーヌを分け与えた冒険者の一人、ガッツだった。熊のようにがっしりとした体格の戦士だが、その目は期待にキラキラと輝いている。


「俺はガッツだ。……いやあ、さっきの味が忘れられなくてよ。街の飯屋に入ろうとしたんだが、あの香りを思い出したら、どれも炭の匂いにしか思えなくて戻ってきちまった」

「……それは災難だな。で、何の用だ?」


 カイが気だるげに尋ねると、ガッツは意を決したように頭を下げた。


「実はよ、俺の実家は小さな食堂をやってるんだ。だが、親父が腰をやって休業しててな……。居抜きでそこを使っちゃくれないか?道具も火も揃ってる。金はいらねえ。条件は一つ、俺に毎日あんたの飯を食わせてくれることだ!」


 横で聞いていたリネットが、目を輝かせてカイの袖を引く。


「カイさん! 拠点ですよ、拠点!これで毎日、落ち着いてお肉が食べられます!」


「……お前な……っつーか、なんでまだついてきてるんだ?」

「決まっています!あなたのそばに居れば、美味しいものが食べられるからです!」


 カイはボサボサの頭を掻いた。

 店を構えるのは面倒だ、と思いつつも、この世界の"うまいもの"を一番切望しているのはカイ自身だった。


「……まあ、調理場を自由に使えるなら悪くない。だが、店はやらないぞ。お前とコイツに食わせるだけだ、それでいいか?」


「それでもいい!ありがとう!」


 ガッツは千切れんばかりにカイの手を握りしめた。


────


 案内されたのは、裏通りの古びた食堂『止まり木亭』。

 建物は古いが、店内は埃一つなく、手入れの行き届いた清潔な空間だった。そして、理想的な広い厨房があった。


「綺麗だろ?親父が無理しねえように、俺が毎日掃除してんだ。そっちの奥の部屋に寝泊まりできるスペースもある。どうだ?」


 ガッツはただのいい奴だった。

 ──裏で企てている内容を知らなければ、だが。


「ここでの寝泊まりはしないが……いい厨房だな」


「よし、契約成立だ!それじゃ、俺はまた明日にでも飯を食いに来るから、あとは自由に使ってくれ!」


 ガッツが意気揚々と去り、後にはカイとリネットが残された。


「……で、お前は、いつまでいるつもりだ?」


「晩御飯を食べるまでです!そして明日は、また朝ごはんを一緒に食べます!」


 はあ、とため息をつくカイ。


「わかった、じゃあ食材の買い出しに行くから手伝え」


────


「オーク肉の串焼きを六本買ってきてくれ」


 カイが指さしたのは、炭火焼きの屋台だ。そこでは色々な肉が真っ黒になるまで焼き上げられ、無造作に作り置きされていた。

 冷めきって硬くなったそれは、まさにこの世界の"絶望的な料理センス"の象徴であった。


「それから、パンを三つだ」


 今度は、パン屋を指差す。


 言われたとおりにそれぞれ買ってきたリネットは、首をかしげる。


「これを、どうするんですか?まさか今日の晩御飯は、ただの屋台メシですか!?」


 ショックで顔を歪ませ、目に涙を滲ませる彼女を無視して、カイは『止まり木亭』の厨房へ戻った。


「今日は疲れたからな、さっさと済ませるぞ」


 並べられたのは、買ってきた「オーク肉の炭火焼き鳥」と「丸くて硬いパン」。

 カイは迷わず焼き鳥に『浄化』を施した。


「……思った通りだ」


 味見を一かじり。焦げの不快な苦みや、オーク特有の獣臭さが綺麗に消えていた。

 カイは串から肉を外し、包丁を走らせる。ゴムのように硬い肉でも、紙のように薄くスライスすれば、食感は劇的に変わる。


 フライパンに、浄化したオイル、酒、砂糖、そして醤油を煮詰め、肉を投入。

 じっくりとタレを絡めていく。


 一方で、半分に切ったパンはオーブンで断面をカリッと焼きなおした。


 最後に、パンの中にソースが絡まった肉を挟めば、完成だ。


「……お待たせ。屋台飯をリメイクした、『炭火焼きオークバーガー』だ。食えよ」


 差し出されたのは、甘辛のソースが滴り、炭火の香りが食欲を狂わせる一品。

 リネットが我先にと食いついた瞬間――彼女の瞳がキラキラと輝いた。


「んんんっ!パンが……あの凶器みたいだったパンが、ふわふわで食べやすいです!肉も薄切りだから硬さが全然気になりません!噛むたびに、炭火の香ばしさと脂の甘みが広がって……!」


 それを聞いたカイも、満足気に頷いて一口噛み締める。

 焦げから苦みだけが抜けたことで、肉はまるで「燻製」のような高級感を演出している。スモーキーな香りが、安酒のソースと合わさって、極上のディナーへと昇格していた。


「お前はたくさん食べると思ってな。おかわりあるから食っていいぞ」

「……っ!カイさん、大好きです!」


 最後の一口を名残惜しそうにしていたリネットだったが、その一言で彼女の顔がぱぁっと明るくなる。


「……うまいもんが食えないなら、自分で作るしかねーよな」


 案外、この場所を手に入れたことを悪く思っていないカイだった。

 このときの彼はまだ自分事でしかなかったが、この何気ない一歩こそが、のちにこの世界の幸福度を劇的に上昇させる、『伝説の料理人』としての足跡を刻む始まりとなるのだった。


 そして、ガッツの企みとは──。


────


「うまい飯が食える店があるんだよ。それも、ひっくり返るほどにな……」


 街中の知り合いに片っ端から噂を広めている男の存在を、カイはまだ知る由もなかった。




挿絵(By みてみん)

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