第6章 スローライフ再開・だが平穏ではない
王都での一連の騒動を終え、リードはようやく自分の畑へと戻ってきた。
「はあ……やっと戻れた……」
胸いっぱいに広がる田園の香りが、リードの心をゆったりとほぐす。
緑の畝の間を歩きながら、空には鷹が舞い、遠くの小川では水の音が静かに響いていた。
畑には、先に戻っていた小さな妖精のような農助手、ミリィが笑顔で出迎える。
「リードさん、おかえりなさい! でも、国王の命令、忘れないでくださいね。
次の召集が来るかもしれませんよ」
リードは肩をすくめ、笑う。
「わかってる……でも、今日はゆっくりしたいんだ。スローライフ、スローライフ……」
畑仕事は、リードにとって魔法よりも安心できる日課だった。
水やりを魔法で瞬時に終わらせることもできるが、あえて手でじっくりと土を触る。
土の匂いと、芽がすくすく育つ感触。それこそがリードの心を落ち着かせる。
しかし、穏やかな時間は長くは続かなかった。遠くの森の方で、何やら異様な光と音がする。
「……またか」
リードは軽くため息をつき、杖を手に立ち上がる。
スローライフを望んでいても、世界は彼の願いを簡単には許さないらしい。
森から現れたのは、先日の王都で名を知られた「爆炎竜」――の、子ども版のような小型竜だった。
体長は人間の背丈ほどしかないが、火の粉をぱちぱちと撒き散らす。
「ひゃあ! 危ない!」
ミリィは畑の作物を守ろうと慌てて飛び回る。
リードは笑いながら、杖を一振り。炎は消え、竜はびっくりしたように宙に浮かんだまま固まる。
「君、また来たのか……でも、もう大丈夫だ」
竜は、どうやら迷子になっていたらしい。リードの膨大な魔力で心を穏やかにすると、
竜はふわふわと畑の隅に降りてきて、草をついばむ。
「ああ……これなら被害もないな」
リードは微笑みながら、竜に手を差し伸べる。
その時、空から突然の声。
「リード・フェルンガルト!」
国王直属の使者が、颯爽と畑の真上を飛び降りてきた。手には書類の束。
「また……召集か」
リードは苦笑する。スローライフは、どうやら“毎日”のことではなさそうだ。
「新たな任務です。王国全域に影響する緊急の案件――」
使者の声は張り切っているが、リードの心はすでに半分、鍬と土の上に戻っている。
「……わかった。でも、終わったら必ず戻るからな」
リードは言い、竜とミリィに一瞥をくれる。
こうして、リードの“スローライフ再開”は始まったばかりであり、
そして平穏でない日々もまた始まるのだった。




