マタタビの洗礼と、百の視線
「いつまでも箱に閉じこもってちゃ、旅は始まらないニャ! 秘技・猫だまし飯だニャ!」
ミィアが取り出したのは、猫獣人族に伝わる秘草「マタタビ」を隠し味に、魔魚の干物を煮込んだ特製スープでした。箱の隙間からその強烈な、しかし抗いがたい芳香が流れ込みます。
(な、なに……この、脳がとろけるような匂い……。怖い、怖いけど……食べたい……!)
食欲が恐怖を上回った瞬間、カチリと内側の鍵が開き、箱からふらふらと鈴が這い出してきました。
「あ、ぅ……その、スープ……ください……」
「がはは! 釣れたニャ!」
「鈴殿、ようやくお顔を拝見できましたね!」
ヒルダにまでキラキラした笑顔で見つめられ、鈴はハッとして我に返りましたが、時すでに遅し。そのままスープを口に運ばされると、極度の緊張で摩耗していた脳がマタタビ成分でポワポワと弛緩してしまいました。
「ふにゃぁ……もう、どうにでもなれですぅ……」
キャラが崩壊し、ふにゃふにゃになった鈴を抱え、一行は村の出口へと向かいます。しかし、村の門には、異世界の少女を一目見ようと、農作業を切り上げた村人全員(約100名)が集まっていました。
「あの子が賢者様の弟子か!」「頑張れよー!」「可愛いお嬢ちゃんだなぁ!」
その瞬間、マタタビの酔いが一気に冷めました。
100人分の善意の視線。それは鈴にとって、100本の鋭い矢が自分を貫こうとしているのと同じ絶望的な光景でした。
> 【絶世の人見知り】限界突破発動!!
> 対象:11人~100人(村の全住民)
> 「全方位からの注目」という絶望的状況を確認。
> レベルが 10 上がりました!
> 新たな能力【虚空の瞬き(パニック・ブリンク)】を獲得しました!
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現在のステータス(村の出口にて)
| 項目 | 数値 | 状態 / 備考 |
| 名前 | 桜井 鈴 | 【極限パニック】|
| レベル| 28 / | (+10 Up / 爆発的成長) |
| HP | 450 / 450 | (レベルアップにより上限増) |
| MP| 680 / 680 | (レベルアップにより上限増) |
| 速度 | 80 | (緊張補正) |
| 回避率| 20% | (注目補正) |
| スキル能力| 【絶世の人見知り (Lv.1)】| 【虚空の瞬き】(New!)+今まで得た能力 |
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(ひっ……見ないで、見ないでぇぇぇ!! みんな、私を見てるぅぅぅ!!)
鈴の視界が真っ白に染まります。その時、新スキル【虚空の瞬き】が自動発動しました。
バシュゥゥゥンッ!!
「……あ、あれ? 鈴殿がいなくなった!?」
「どこニャ!? 気配も魔力も完全に消えたニャ!」
村人たちがざわつく中、ヒルダの背負っている大きな盾の「裏側」に、まるで最初からそこにいたかのように鈴が張り付いていました。
これは、「自分を注視している者の視界」から一瞬で消え、死角へと転移し続ける、究極の回避移動。
「……ここなら、誰からも……見えない……」
ヒルダが振り向けばその影へ、ミィアが覗き込めばその背後へ。100人の視線を全て物理的に回避し続けながら、鈴は超高速で村を脱出しました。
「……バド様、あの子、本当に大丈夫でしょうか」
「……がはは、案ずるな。あの回避能力、並の魔王の攻撃すら当たらんぞ。……元気で行くのじゃぞ、鈴よ」
バドの温かい見送りを受けながら、鈴はヒルダの影に同化して、震えながらも一歩、未知の荒野へと踏み出したのでした。
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**【今回の成長】**
* **レベル:** 18 → 28
* **新能力:** 【虚空の瞬き(パニック・ブリンク)】。注視されることで発動する、ノーモーションの「死角転移」。




