失われる安らぎと待ち受ける地獄
「……うぅ、ひ、広い。広すぎて落ち着きません……っ」
王都の喧騒を抜け、ついに王宮へと足を踏み入れた鈴。通されたのは、一般の貴族ですら一生お目にかかれないような豪華絢爛な『来賓の間』でした。しかし、そこで鈴に最大の危機が訪れます。
「さあ、英雄様。まずはその……ええと、その猫のようなお姿から、王宮の晩餐にふさわしいドレスにお着替えをいたしましょう」
控えていた数人のメイドたちが、鈴の猫装備(猫神の安らぎ)に手をかけようとしました。
「あ、あの! こ、これだけは……これだけは脱ぎたくないんですぅぅ!!」
鈴は必死に裾を握りしめましたが、王宮のルールは非情でした。猫装備を脱げば、あの『究極のリラックス効果』も『完全な気配遮断』も消えてしまいます。
「……う、うわぁぁぁん! 猫さぁぁぁん!!」
大粒の涙をポロポロと流し、鈴は絶望に打ちひしがれながら、しぶしぶと着替えの小部屋へと連行されていきました。
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数十分後。そこにいたのは、最高級のシルクで作られた淡いピンクのドレスに身を包み、宝石を散りばめた髪飾りをつけた、どこに出しても恥ずかしくない「完璧な美少女」となった鈴でした。
しかし、肝心の鈴本人は、猫装備を奪われたことで人見知りデバフが最大値に達しており、部屋の隅で膝を抱えてガタガタと震えています。
「……無理。……もう、誰にも見られたくない。……このドレス、重いし、視線が痛い……」
そこへ、ノックもなしに扉が勢いよく開きました。
「お姉様! お着替えは終わりました……わぁ! なんて愛らしいのでしょう!」
現れたのは、あの王女さまでした。彼女は鈴の姿を見るなり、その両手をギュッと握りしめました。
「お姉様、改めましてお願いがあります。わたくし、あなたの強さと優しさに心から憧れてしまいました! ……どうか、わたくしと『お友達』になってくださいませ!」
「……ひ、ひぃっ!?(至近距離での視線! 友達という重い契約!)」
猫装備という心の盾を失った鈴は、顔を真っ赤にして、いまにも煙が出そうなほどパニックを起こしています。言葉にならず「あ、う……あぅ……」と喉を鳴らすのが精一杯です。
> 【絶世の人見知り】限界突破!!
> 対象:一国の王女。
> 「猫装備なしの状態での直球プロポーズ」による精神崩壊を検知。
> レベルが 1 上がりました!
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現在のステータス(王宮・来賓の間)
| 項目 | 数値 | 状態 / 備考 |
| 名前 | 桜井 鈴 | 【最大級のパニック】 |
| レベル | 109 / 999 | (+1 Up) |
| 精神的防壁| 0| (猫装備なしのため) |
| 称号 | 【震える絶世の美少女】 | |
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「……そ、そそ、そ、そんなの、むむむ、無理ですぅぅ……!」
鈴が今にも泡を吹いて倒れそうになったその時、廊下からバタバタと慌ただしい足音が近づいてきました。
「姫様! 姫様、どこにいらっしゃるのですか!? もうすぐ晩餐会の時間ですよ!」
メイドさんたちの探す声が聞こえてきます。王女は「あ、見つかってしまいましたわ」といたずらっぽく笑いました。
「お姉様、また後ほど! 晩餐会でお会いしましょうね!」
風のように去っていく王女。残された鈴は、ドレス姿のままその場にへなへなと崩れ落ちました。
「……たすけて、ミィアさん……。もう、一歩も、ここから出たくないです……」
「ニャ……。鈴、ドレス姿も可愛いけど、魂が口から出てるニャ……」




