魔法衣の試練と、新たな拒絶
「ひ、ひぃぃぃ……もうやだ、おうちに帰りたいですぅぅぅ!!」
ギルド中の冒険者が石化したように固まっている隙に、鈴は脱兎のごとくギルドを飛び出しました。背後から「おい、あの娘待て!」という声が聞こえた気がしましたが、今の鈴には、時速100キロを超える「パニック・ステップ」を止める術はありません。
しばらく走り続け、人気のない路地裏まで逃げ込んだところで、ようやく足が止まりました。
「ニャ……。鈴、速すぎニャ。僕でも追いつくのが精一杯だったニャ……って、鈴! 大変だニャ、服がボロボロだニャ!」
「え……?」
ミィアに言われて自分の姿を見下ろした鈴は、再び絶叫しそうになりました。
先ほどの『赤面爆炎』の熱量に、日本のデリケートな高校の制服は耐えられなかったのです。ブレザーの裾は焦げ落ち、チェックのスカートには大きな穴が開き、全体的にススで真っ黒。
「あ、あわわ……。こ、これじゃ別の意味で目立っちゃう……! 恥ずかしい、さっきより恥ずかしいですぅぅ!!」
「……鈴殿、落ち着いてください。今の貴女なら、その羞恥心でもう一度爆発しかねません。幸い、この近くに魔法繊維を扱う高級な防具店があります。そこで、貴女の火魔法……いえ、『恥じらいの炎』に耐えうる装備を整えましょう」
ヒルダに促され、鈴は【不可視の前髪】を最大出力にして顔を隠しながら、コソコソと路地裏を伝って防具店『緋色の衣』へと向かいました。
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格調高い店構えの防具店『緋色の衣』。
中に入ると、上品な店員が2名、そして買い物をしていた貴族風の客が3名、一斉に鈴の方を振り返りました。
「焦げた制服……それに、顔が真っ暗な少女……? 一体、何事かしら」
「衛兵を呼んだほうがいいのではないか?」
合計5名からの、値踏みするような、そして不審者を見るような冷ややかな視線。
隠れる場所のない高級店内で、鈴の精神はガリガリと削られていきます。
(店員さんが見てる……! お客さんも、汚いものを見るような目で私を……! 嫌だ、見ないで、そんなにじっと見ないでぇぇ……っ!)
> 【絶世の人見知り】発動!!
> 対象:店員、客(計5名)
> 「少人数からの鋭い観察」による不快感と羞恥心を検知。
> レベルが 2 上がりました!
> 新たな能力【防壁の衣】を獲得しました!
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現在のステータス(防具店にて)
| 項目 | 数値 | 状態 / 備考 |
| 名前 | 桜井 鈴 | 【極限卑屈】 |
| レベル | 63/ | (+2 Up) |
| HP| 1650 | |
| MP| 3300 | (大魔導師級の極み) |
| 防御力 | 60 | (羞恥心補正) |
| スキル能力 | 【絶世の人見知り (Lv.1)】 | 【防壁の衣】(New!) 今までに獲得した能力|
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「店員さん! この子に、最強の耐火性を持つ魔法衣を。どれだけ内側から熱を放っても焦げず、かつ目立たないものを大至急お願いします!」
ヒルダが詰め寄ると、店員は圧倒されながらも奥から一着のローブを持ってきました。
「……それでしたら、こちらの『獄炎鳥の羽衣』を。火属性を無効化し、内側からの熱も完璧に遮断します。……お嬢様のその『激しい魔力』でも、これなら決して焦げることはありません」
鈴は震える手でローブを受け取り、逃げるように試着室へ。
試着室の中でローブを羽織ると、新スキル【防壁の衣】が装備と共鳴しました。
(……これ、すごく軽くて……なんだか、守られてる感じがします。これなら、また恥ずかしくて火を噴いても、服がなくなったりしない……かな)
ローブの表面に薄い魔力の膜が張り、外部からの「視線」という干渉を物理的に弾くようなオーラが漂い始めます。
「……あ、ぅ。……できました……」
試着室から出てきた鈴は、焦げた制服の上に深紅の魔法ローブを纏っていました。顔は相変わらず【不可視の前髪】で真っ暗ですが、その佇まいは「隠遁中の最強魔導師」そのもの。
「ニャ! 似合ってるニャ! これでようやく、一人前の冒険者っぽくなったニャ!」
「……ありがとうございます。……でも、やっぱり……お店の外に出るの、怖いです……」
レベル63。すでに一人で軍隊を相手にできるほどの魔力を持ちながら、鈴の心は一歩も外に出たくない「ジャガイモ」のままでした。
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【今回の獲得能力・装備】
レベル:61 → 63
【防壁の衣】:着ている服に魔力を流し、防御力を大幅に上げる。
新装備:『獄炎鳥の羽衣』:鈴の爆炎でも燃えない最強の魔法衣。




