別れ際の贈り物
村を離れる直前、バドが鈴の元へ歩み寄り、優しくその肩を叩きました。
「鈴よ、これを持っていきなさい。ワシからの餞別じゃ」
バドが差し出したのは、古びているが温かみのある銀のブレスレットでした。
「それは『帰還の銀鈴』。魔力を込めれば、どこにいてもワシの家の前まで一瞬で戻って来れる。……いいか、鈴。旅に出てみて、どうしても辛くなったり、誰もいない場所で一人になりたくなったら、いつでもこれを使って戻ってきなさい。ここはもう、お前の家なんじゃからな」
「……バド、さん……。あ、ありがとうございます……っ」
鈴はブレスレットをぎゅっと握りしめました。「逃げ場所がある」という事実が、人見知りの彼女にとってどれほどの救いになるか。鈴の瞳に、初めて感謝の涙が浮かびました。
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村を離れ、街道の脇で初めての野営が始まりました。
パチパチとはぜる焚き火を囲み、鈴は自分の「定位置」であるヒルダの影に隠れて縮こまっていました。
しかし、夕食を終えた後、真面目すぎる女騎士ヒルダのスイッチが入ってしまいます。
「鈴殿! これから過酷な旅が始まります。貴女のその天賦の才を活かすためにも、まずは『騎士としての精神性』、そして『基礎的なコミュニケーション能力』を鍛える必要があります!」
「ヒ、ヒィッ……!」
逃げ場のないテントの前。ヒルダが目の前で拳を握り、情熱的に語り始めました。
「まずは挨拶です! 相手の目を見て、ハキハキと『おはようございます』と言う! 練習しましょう、さあ!」
(む、無理……! 騎士様との距離が近すぎるし、目が……目が熱い……! 怖いよぉ、バドさぁぁん!!)
> 【絶世の人見知り】発動!!
> 対象:ヒルダ(至近距離での熱血指導)
> 「逃げ場のない一対一の対話」という極限状況を検知。
> レベルが 1 上がりました!
> 新たな能力【条件反射の擬態】を獲得しました!
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現在のステータス(キャンプにて)
| 項目 | 数値 | 状態 / 備考 |
| 名前 | 桜井 鈴 | 【魂の摩耗】|
| レベル | 29 / 999 | (+1 Up) |
| HP| 480 / 480 | |
| MP | 710 / 710 | |
| 精神耐性 | 3 | (熱血教育により減少中) |
| スキル能力 | 【絶世の人見知り (Lv.1)】 | 【条件反射の擬態】(New!) +今まで獲得した能力|
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「……鈴殿? 聞いていますか?」
ヒルダが顔を近づけた瞬間、新スキルが発動しました。
鈴の意識が恐怖で遠のくと同時に、彼女の身体が勝手に動き出します。
「は、はいっ! お、お、おはようございます……であります……!」
「おおお! 素晴らしい返事です! やればできるではありませんか!」
(……あ、あれ? 私、いま勝手に喋った……!?)
それは、脳が限界を迎えた時に「相手が満足しそうな返答」を反射的に口走る、悲しき自己防衛スキルでした。しかし、これがヒルダの教育心に火をつけてしまいます。
「よろしい! では次は『自己紹介の心得』、第1条から第100条までを復唱しましょう!」
「あ……あうぅ……(銀鈴を使ってバドさんの所に帰りたい……)」
鈴の異世界初日の夜は、焚き火の音とヒルダの熱血指導の声と共に、涙ながらに更けていくのでした。
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【今回の獲得能力】
【条件反射の擬態】:極度のパニック時、相手の期待に沿うような言動を「無意識に」とってしまう。本心とは裏腹に、その場をやり過ごすための自動操縦。




