九話 現在地発覚
「あぁぁぁ、疲れたーー。一旦休憩〜〜」
足がパンパンになるほど歩いて、疲労を誤魔化しきれなくなったので、休憩を申し入れる。
現在の歩行距離は、およそ六十キロ。
俺に歩いた距離を正確に測れる能力がある訳がないので、今の六十キロという距離は神さんに数十分前に聞いた距離だ。
空洞はかなり入り組んでいたり、上がり下がりを繰り返したりしてかなり複雑になっている。
道中の魔物も色々倒した。
流石にこの世界に来て直ぐに遭遇したあのバカみたいにデカいヘビや、苦戦を強いられたゴリラ程の強さでは無いが、敵の強さも少しづつ上がっている感じだ。
「宿りしマナよー、我が掌底に集いー、流水となって放たれよー、ウォーターショットーー」
今じゃ詠唱も丸暗記したウォターショットで水分を補給する。
魔法を使うのにもかなり慣れてきた。
この魔法しか使えないのは以前として変わりないが。
詠唱を唱えればどんな魔法を使えるという訳でもなく、俺の場合はレベルが低いため純粋に発動するための魔力が足りないとか、高ランクの魔法関連職を獲得してないと発動しない魔法なんかもあって、他の魔法習得はまだまだ先になりそうだ。
ちなみに職業といえば、新しい職業を獲得した。
ライトフットという、相手の攻撃を回避するのが上達してきたから獲得出来た職業だ。
もっとも、この職業の恩恵は、若干相手の動きをゆっくりに感じるとか、戦闘中に色々なことを考えるのが楽になったってくらいだけど。
「疑問なんだけどさー、この職業を獲得した瞬間に動きが良くなるじゃん。これって職業を獲得したからなのか?」
ふと、頭によぎった疑問を神さんに問いかける。
一応、なんでも知ってるらしいし。
一応だけど。
「いや、違うな。動きが良くなる瞬間に獲得したっていう表示になるだけだ」
「ほうほう、と言うと?」
「言ったろ、ある程度技術が身についたら獲得できるって。スポーツでもなんでも初心者から毛が生えた素人になる境目はあるが、目に見える明確なタイミングは無い。それを表示化出来ているのがこのステータスってわけだ」
なーるほどな。
サッカーとかバスケとか、何でも一ヶ月くらい経って、気づいたら一ヶ月前には出来なかったこと「あれ、なんか出来てる」ってなるが、このステータスはそれを完全に把握。
本人も気づかない程の緩やかな成長でも細かく数値化、判断ができるということか。
「てことは、俺が職業を獲得した時に動きが良くなってるっていうのは?」
「確かに良くはなってるってことだが、劇的にってことはない。お前がいた世界で言うプラシーボ効果が大きいな」
まぁ、恥ずかしい!
全部俺の錯覚だったってことかちくしょう。
「ちなみに、神さんにステータスってあるの?」
「俺にか? ねーぞそんなもん。管理する側がそんなルールに縛られる訳ねーだろーが」
「へー。あっそ」
「聞いたんだから、もうちょっと興味有りそうな反応しろよ!!」
やいのやいのと神さんと軽口を叩き合いながら、疲れて体が動かない代わりに、口を動かす。
こういう時の会話って、何故かはわからないけど楽しいって気持ちが最近わかってきた。
悔しいけど、こういうのを、仲……いやー俺からは絶対言わないけど! 向こうから言ってきたらまぁ、考えてやるか。
「そういえば、名前とか後回しにしてたけどさ、そろそろ決めとこうかなぁ」
案外脱出できるのもそう遠くないかもしれないし、そろそろ横文字のかっちょいい名前を考えないとな。
でも、横文字の名前とか思いつかねー。
「いいんじゃねーの? 今の名前でも別にこの世界でそこまで珍しがられないと思うが」
「へ? なんで? どーせこの世界横文字が主流だろ? 漢字の名前なんて違和感だらけじゃねーの?」
「そりゃあ居るからな、日本人」
「え、居るの日本人!?」
びっくりした。
この世界に日本人いるの?
「とは言っても、日本人の血筋を引くものって意味な。初代勇者が日本から転生してきたやつで、当時の人間、悪魔、天使による三つ巴の戦いを終わらせた功績で国の王様になった後、その国を日本っぽく変えちまったんだよ」
「そんな主人公みたいなやつ本当にいるのか。すっげー」
日本からいきなり全く別の世界に召喚されて、突如勇者になって世界を救うか。
俺とは対極みてーな人生なんだろーな。
俺にもしそいつと同じ力があったとしても、きっと世界を救うなんて道を選ぶことはないから、器が違うんだろうけど。
「名前はヒノモトって言ってな、国の住民は基本漢字の名前だ。オンセン? だったか、日本人は好きなんだろ? それもあるぜ」
「ヒノモト、ね」
温泉かぁ、久しぶりに入りたいな。
この全身に染み付いた獣臭を洗い流し、温かい湯に使って身も心も癒されたい。
ここから出たら行ってみたいところがまた増えてしまった。
魔法を習う場所に行く、ヒノモトに行く、だろ。
あとは友達を作る、か。
人生ノートの規模がデカくて潰れちまうぜ。
で、結局おれの名前だけど、うーーーん、外国人っぽい名前にしたいが、外国人の名前なんてよくわかんないからなー。
語感とインスピレーションで決めても、たまたまその名前に変な意味とかあったらヤダし。
「神様ー。俺の名前、外国人っぽい名前にしたいんだけどさー、なんかいい案ない?」
「いい案ねぇー。どういう風な名前にしてーんだ? 名前の意味重視で行くとか、語感がかっこいい感じがいいとかよ」
どういう風って言われてもなぁ。
普通というか、無難な名前がいいというか。
「日本で言う、山田太郎みたいな名前はないの?」
「山田太郎ってかえっていなくねーか? そうだなぁ、エリウ・ウォーカーとかどーよ。変な意味もないしこっちだとまぁ、特別印象はないって感じの名前だな」
エリウ・ウォーカーか。
横文字の名前って何でもカッコよく聞こえるんだよなぁ。
特に変な意味とか無いならコレにするか。
「じゃあそれにするわ! 今日から俺はエリウ・ウォーカーだ!」
異世界に来てから約一ヶ月。
俺の名前はそんな軽ーい感じでエリウ・ウォーカーと決まった。
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「いい加減、外への出口見つかんねぇかなぁ。ず〜〜〜っと岩、岩、岩しか景色ないの飽きたなぁーー」
岩の壁、岩の床、あとは一度は見たような魔物達、味気ない、というか色味があまりにも無さすぎる。
出口、せめて陽の光をいい加減に見せてくれ。
流石に歩きすぎて頭おかしくなりそうだ。
「なぁなぁなぁなぁなぁーーー。神様ぁーー。いい加減この場所が何処かわかんねーのー?」
「だからわかんねーつったろ」
そんなことはこっちもわかってる。
それでも聞きたいくらい何も無さすぎてイライラしているのだ。
モンスター倒して、歩いて、モンスター倒してって、ひと狩りいこうぜどころじゃねーんだよ。
このままじゃ、永遠に終わらないひと狩りになっちまうわ。
もうヘトヘトだ。
「神様ー、今まで結構魔物倒してきたよなぁー。倒したモンスターの生息地とかでさぁー、今の場所わかったりしねーの?」
「わかったらもう言ってるっての。お前が倒してきたヤツらなんて、大して珍しいヤツらじゃなかったからな。場所が絞れるほどの魔物に遭遇してねーんだよ」
ぐぬぬぬぬぬ。
もう疲れた、しんどいしんどい。
「クッソォォォォ!! 要するにもっと敵に遭遇しろってことだろ!? やってやんよぉぉぉ」
敵だ。とにかく敵を探す。
今の場所を把握するために。
ストレス発散では断じてない、ないない、ないぞ。
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
これはアレだ。
マラソンとかでめちゃくちゃ疲れてる時、逆にスイッチが入ってめちゃくちゃスピードが上がる、アレ。
長くはもちろん続かない。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
広い空間に出たので、自然と足が止まった。
膝に手をつき、息苦しさからきつく目を閉じる、呼吸を整えた後、顔は上を向いていた。
息苦しさも落ち着き目を開けると、ものすごい高さの天井がそこにはあった。
そして、微かだが地上からの光と思われるものが差し込んでいる。
「おいおい神様! アレってもしかして」
「あぁ、地上だな! 中々ラッキーじゃねーか。登り方を考えねーといけねぇが、これで希望が見えてきた」
「よっしゃあああああ!! いぇーい!!!」
高鳴る気持ちを抑えきれず、踊り出す。
「ワッハッハッハッハッハッハ!!! うわっ!」
イテテテテテ。
どうやら何かにつまづいたらしい。
つまづいた原因に目を向ける。
「コ、レ、は、、、頭蓋骨?」
俺の頭くらいはありそうな大きさだ。
辺りを振り返ると、魔物の骨がかなりの数転がっている。
「うぉぉぉぉおお! びっくりしたぁ、何でこんなに骨があるんだ?」
「……嫌な予感がするな」
……やっぱり?
神様もそう思うならもしかしてヤバいんじゃ。
「ん? 光が消えて…」
地上からの光が途切れる。
それは雲によって隠れたのでも、陽が沈んだ訳でもなかった。
巨大な、翼を持ち空から降りてきた生物が急接近をしてきたことによるものだった。
「ちぃっ!」
目標が間違いなく自分であることを確認し、素早く避ける。
自分が元いた場所に降り立ったのは、四足歩行の形状と翼、爬虫類のような鱗に覆われ、縦長の瞳孔でするどく自分を見つめる、ゲームや漫画に出てくるドラゴンそのままだった。
「グォォォォォォォォォォォオオオオ!!!」
「コイツは、、」
神様が目の前のドラゴンを見て反応する。
どうやら知っているみたいだ。
「神様、こいつはなんていう……」
聞こうとした瞬間だった。
床に亀裂が走る、崩れると思った時には既に間に合わず、ひび割れた床と共に俺は落っこちるしか無かった。
「うぉああああああああ!!!」
「朗報と悲報だ。今いるこの場所は世界最大の地下洞窟にして魔王が眠る場所、ナラカ大洞窟! そしてこいつはナラカ大洞窟にのみ発生する龍種、奈落の魔龍だ」
「今落っこちてるこの状況は悲報じゃねぇのかよーー!!!」
眼前の暗黒に染められた奈落に俺は吸い込まれていった。




