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サイ×サイ×サイ! ー彼は勇者だったー  作者: 赤差棚
Bridge

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エピローグ ーーーーーーーの回想


男の身体を光が包んでいた。

その光は彼自身から発せられ、徐々に光と同化していく。

彼は思考が徐々に塗りつぶされ、意識が、意志が、薄れていくのを感じる中、握っていた拳もまた、薄れていくのを感じていた。

目の前の巨大な肉塊は既に自分が与えたダメージを治し体を復元させている。

時間を与えてはいけないのは、彼自身がもっとも理解している。

だが、彼の身体は既に自身の言うことを聞かず、動かない。

彼の心は知らずとも、身体はとっくに知っているのだ。

自らには、目的遂行は不可能であることを。


目的……彼にとってそれは、そんな大層なものではなかった。

ただ、周りに求められたからそうしただけ。

彼は元々、他人のために動く性分ではない。

他人ではない人達が、他人のために動くから旅を始めた。

彼は旅の中で多くの人に会った。

彼にとって旅は多くを他人ではなく、仲間にした。

旅で得た仲間が、自己満足を大義へと変え、

大層ではない旅の果てが、明確な目標へと変わっていった。

旅で得た友との思い出は、彼にとって何よりも大事な宝物になった。


しかし、旅が果てへと近づいていく内に、彼は一つ、また一つ、大切なものを失った。

旅で途紡いだ縁も、旅の苦楽を共にした三人の仲間も、目の前で彼の手から零れ落ちていった。


最初の別れが彼に与えたのは、自らの慢心と、無力への憤りだった。

彼にとって初めての挫折だった。

旅の途中で出会い、拳と拳の死闘の果てに分かりあった、二人目の仲間だった。

男と男の友情で固く結ばれていた。

その男は、自ら死に際を選んだ。

仲間のために犠牲になった。

最後、その男は満足気に、故郷に残した妹への遺言を託し、事切れた。

鳴いた彼の怒りはどこまでも届いた。

泣いた彼の悲しみはどこまでも流れた。

彼は無力を許さなくなった。


次の別れが与えたのは、果ての無い暗闇が目の前に押し寄せるような

どうしようもない絶望だった。

彼女は盗賊に売られ奴隷となり、世の中全てに絶望していた時、彼に救われ仲間になった。

彼を一番、慕い、敬い、それでいてどこか悪友のような絆があった。

最後に彼女は笑っていた。

やっと恩を返せると。

そして、どうか泣かないでと。

神の天秤は彼女を選ばなかった。

彼は約束を守れなかった。

堪えても堪えても、目の端から涙は零れていった。

不条理に泣いた。理不尽に泣いた。

絶望が彼の目の前を覆った。

残るのは最後の一人になった。


最後の別れは彼から全てを奪った。

故郷を覆う魔の手から守るための戦いだった。

その戦いの痕跡は五百年経っても消えることのないほど、熾烈なものだった。

守るべきものに守られた。

有るまじき事だ。

許されないことだ。

……彼女は幼馴染だった。

旅を始める前から彼の隣には彼女が居た。

彼の見る景色には、いつも彼女の影があり、

彼女もまた同じだった。

やはり彼女もまた、彼の目の前で生涯を終えた。

彼と彼女の故郷と共に。


結局、彼は失って気付く。

周りに支えられ立っていたことに。

旅路に刻まれた足跡は、彼を支えるもの達の思いで出来ていることに。

勇者の自覚が最後の最後まで足りなかったことを彼はここで思い知った。


そこから、彼は自ら望んで独りになった。

最初から持っているから失うのだと気付いたから。

世間から、嫌われ、憎まれ、時に石を投げかけられても、時に唾を吐きかけられても

彼は仲間を作らなくなった。

この痛みを消してはいけない。

和らげようと、ましてや救われたいなどと思うことなど許されない、許さない。

世間は彼の代わりに彼を傷つけ、彼もそれを望んだ。

彼に残ったのはただ一つ。

あれほど曖昧だった目的だけだった。

それを達した所で彼が失ったものはもう戻らない。

彼に再び笑顔が戻ることもない。

義務と懺悔が彼の背で呪いという重しとなり、突き動かした。

それを呪いとしたのは彼自身、彼以外の誰かではない。

それだけが、彼にとって唯一の救いだろう。


斬った。切った。キッタ。きった。

敵を、自分を。

そして遂に全ての元凶に辿り着いた。

だが、粉微塵に切り刻んでも、原型を留めないほどの殴打を喰らわせても、眼前の敵の命を散らすことは叶わなず、彼の時間はもう止まる。


彼はーーーーーーーーーオレはもう、握った拳が何のために、誰のために握られていたのかも思い出せない中で、謝ることしか出来なかった。

ごめん。ごめん。

皆、オレのために死んでいったのに、結局オレは何も果たせなかった。

皆、役目を果たしていったのに、オレだけがそれを果たせず、意識を、暗く深い海へ放り出そうとしている。

オレの名前はーーーーーーー。

大事なものも守れず、仇を取ることも叶わなかった。

弱くて、泣き虫で、どうしようもない、勇者の出来損ないだ。


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