RP17 悪くない
バイクの楽しみ方って人それぞれだよね。
「なあ、ここのボルトどこだ?」
「ねえ、まなちゃん、ここ持っててくれる!」
「あ、やべ、なめそうだ・・・くそ・・・・あ、たく!モンキーとって!」
「はいよ」
「よし、とまった・・・」
朝から始めたAR125の組み立ては苦戦しながらも着実に進んだ。
驚いたのは3人の技量だ。
賢いのは分かっていたが・・・、整備技術もすごい。
なるほど、自分のバイクを組み立てられるわけだ。
スパナ、ドライバー、ラチェット、的確に使う。
俺とまなは彼らの小間使いだ。
全く出る幕はなかった。
「おーい・・昼飯だ!」
AR125が形になりつつあるころ、桑原のじいちゃんが、納屋の入り口にやってきた。
「ありがと、じいいちゃん」
手と顔にオイルや煤の汚れを付けた桑原が、駆け寄り、大きな籠を受け取った。
「お昼にしよう!」
煤やオイルの汚れを付けた飛び切りの笑顔を桑原は見せた。
大きな作業台の真ん中にバスケットがおかれた。中からは20個くらいのおにぎりが取り出され並べられた。
また、底の方からは2段の重箱が現れた。
重箱を広げると、唐揚げやらウインナー、卵焼きなど、いかにも高校生が好みそうなおかずが並んだ。
「すっげー・・」
思わず声に出る。
(跡部)「すごいだろ?いつもおばあちゃんが作ってくれるんだよ」
(松本)「うん・・・ありがたいことです」
(桑原)「遠慮しないで、さあ、食べて、食べて!」
『いただきます!』
力仕事で腹がペコペコだった俺たちは、おにぎりにかぶりついた。
「おいしい!」
「そうでしょ?じいちゃんが作ったお米なの」
まなの感想に対して、誇らしげに桑原は答えた。
「ほぉ・・・だいぶ形になったなぁ・・・オイルは何入れる気だ?」
気が付くと、AR125の傍らにおじいさんは立っていた。
「えっと・・・純正の10-40よ」
「ふむ・・・お前さん、何乗ってんだ?」
「え、僕ですか?」
「あったりめーだろう、お前さんの以外はここにあんだからよ」
「そうですね・・・俺は、NS400です。」
「ほう、そっか~・・・おめーさんは400か・・・・・んじゃ、ひとみ、奥の段ボールに入ってるオイルにしな。」
桑原は、納屋の奥に整然と積まれているダンボールへと、向かった。
「ひとみ、その2段目のやつだ、うん、それだ、」
言われた通り桑原は上に載っている2箱をおろし、下から2段目の段ボールを取り出した。
「え、これ・・・」
「そいつをいれな。250ならともかく、400となりゃぁ、125でついてくのは大変だ。カストロールの10-50にしな。」
「ねえ、たく、10とか40ってなに?」
このての話に縁もゆかりもなかったまなは目を白黒させていた。
「あ、えーとね・・・・」
10-50とはオイルの粘度を表す数字。正確には10W―50。10wは低温時のオイルの硬さ、50は高温時のオイルの硬さをあらわす。まあ、簡単にいうと10-50は低温時も高温時も安心なオイルということ。10w-50のオイルはかなりいいオイルなので、お高い。学生が買うようなオイルではないな・・・。
「ふぅーん・・・ただ入ってればいいってわけじゃないのね・・・」
「うん。おじいさんが、いいオイルを入れろってのは、125で400のバイクについてうためさ。125で400と同じ速度を出すにはそうしたらいい?まな?」
「えっと、頑張る?」
「そ、125でついてくには、エンジンをがんばらせるだろう?すると、125エンジンはどーなる・・」
「熱くなる?」
「そう、だから高い温度でもしっかり働いてくれるオイルがいいってことさ」
「ああーー、そーゆーこと。なんとなくわかったわ・・・」
「マフラー組付けるか・・・たく、手伝ってくれ」
「ああ、わかった」
松本と俺でマフラーを組みつける。
まもなく夕方か、というころ。作業は大詰め迎えた。
アッパー、アンダー、サイドと一通りカウルを装着した。
「さあ、あとはシートくらいだな!」
跡部がそう言うと、
皆一斉に床に置いてあるシートに目を送った。
「じゃ、つけるわね・・・」
桑原が、シートに手を伸ばし、抱えて持ち上げた。慎重に歩く桑原の姿を俺たちは見守った。シートを車体にのせる、静かに押す桑原。
カチャン
金具が組み合う音がする。
「ふふ・・・」ニヤリと笑う桑原。
『ふふふ、はははぁ~』
それを合図に俺たちは喜びを爆発させた。
「よし、さっそくガソリン入れよう!」
「そうね!」
「あ、2ストオイル!」
ガソリンを満タンにし(農機具や草刈機用に納屋にはガソリン携行缶がある。)
2ストオイルを入れる。(4ストロークエンジンと違いと違い、2ストロークエンジンはガソリンとオイルを一緒に燃焼させる。いわゆるギアオイルとは別にオイルが必要)
「よし、じゃあ、出そうぜ!」
跡部の声に俺たちは頷く。
「あ、ちょっとまって、バッテリーチェックっし忘れたわ!」
その声を聞き、松本がすぐにテスターを手にかけよった。
「あ、ばっちりね」
初夏を迎えようとする空は、16時をまわったが、まだまだ、明るい。
納屋のまえに引き出されたAR125。きれいに磨れた黒と赤の車体は、日に照らされて輝いていた。
「じゃ、いくよ・・・」
桑原はひらりとAR125にまたがると、キックペダルを引き出す。
キーをオンの位置に回しチョークをひく(エンジンを始動するときに混合気を濃くするスイッチ?のようなもの)
彼女は右足をキックペダルにかけた。
黙って彼女を見つめる。
「せーのー、ふ!」
勢いよくペダルが踏み下ろされた。
クゥワ・・・
キックにより、エンジンがまわる音はしたが火はつかなかった。
「ま、一発ではかからないさ・・・」
松本はあくまで想定内という態度で声をかけた。
「そうね。じゃ、もう一発!」
勢いよく、また、キックペダルを踏み下ろす。
クワゥ・・・・ヵ、クワワワワーン!!
こんどは火がついた。小排気量の2ストらしい、軽快な音があたりに響いた。
『おお!やったー!!』
俺たちは思わず万歳をした。
久々に燃焼する2ストエンジンからは、もうもう煙を吐き出していた。
「明日、その辺乗って、調整しなきゃね」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、久々に早朝行く?」
「そうね」
「たくはどーする?」
「おれか・・・いや、明日はやめとくよ・・・」
「え?タッくんいいの?」
二つ返事でおれが承諾すると思ってたんだろう。まなは驚きを隠さなかった。
「何言ってんだよ、まな、明日は誠たちと出かけんだろ?」
「え、そっちは行かないんだと・・・思った」
「先約はそっちだろ」
「まあ、そうね…でも意外」
「俺って信用無いのかね・・・」
「そりゃぁ・・・」
「うん、そうだね・・バカだもんね・・・バカイダ―だもんな・・・」
「うん、でも・・・・・」
「でも・・・こうゆうのは悪くないって・・・思っちゃった・・・」
まなは、AR125に群がるば3人のバカイダ―を、微笑んで見つめていた。
そうだな。
こういうのは悪くない。
「で・・・・いつおしえるの?」
まなの顔から笑みが消える。
「うん、本人が気がついてからでいいんじゃ・・・」
「そーゆーところが・・・信用ならないのよ、あんたらバカイダ―は・・・」
「・・・・・・」
まなは、桑原のところへ駆け寄ると、
「ひとみちゃん、ジャージ下がって、後ろ、パンツ見えてるわよ!」
「え!、ちょ、あんたら、おしえてよ!」
慌ててジャージを引っ張る桑原。
「ああ・・・ごめん。いつものことだから・・」
「見慣れてるせいか、あんま気にならんかった・・」
松本くんと跡部くんは、男子高校生として何かが足りないんじゃないだろうか・・・。
俺は少なくても目が離せなかったぞ・・・。
俺としては、こうゆうのも、悪くない・・・・。
軽いバイクが羨ましいと思う今日この頃。
老いた。その一言につきる・・・・。




