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新たな出会い

診療所の窓辺に、朝の光が柔らかに差し込んでいた。いつもと変わらない日常のはずなのに、楓の胸は少し弾んでいた。

「レイ、外に行かない?」

ベッドに腰掛けていたレイが、かすかに瞬きをする。それはいつもと同じ無表情の返事――けれど、わずかに視線が揺れた。

「診療所の中ばっかじゃ、退屈でしょ?」楓は笑って手を伸ばした。しばしの沈黙のあと、レイは恐る恐るその手を取った。

向かったのは小さな商店街だった。八百屋のおばさんが「楓ちゃん、珍しいね」と声をかけ、レイを一瞥する。レイは肩をすくめて楓の背に隠れようとしたが、楓はにっこりと笑って言った。

「友達なの。ちょっと変わってるけど、いい子だよ」

おばさんは少し驚いた顔をしたあと、ふっと笑ってリンゴを二つ袋に入れた。「じゃあこれ、お近づきのしるしね」

レイは一瞬、受け取るのをためらった。けれど楓が「ありがとうって言えばいいんだよ」と囁くと、ぎこちなく口を開いた。

「……ありが、とう」

その声はかすかに震えていたが、確かに人とつながるための言葉だった。おばさんの顔が柔らかくほころぶ。その瞬間、レイの表情にもわずかに影が差し――すぐに消えた。

帰り道、公園のベンチに並んで座り、二人でリンゴをかじった。風に乗って桜の花弁が舞う。季節外れに咲いた木の下で、世界が少しだけ色づいて見えた。

「ねぇ、今日のこと……どうだった?」楓が問いかけると、レイはしばらく口を閉ざしたまま空を見上げた。

やがて、ぽつりと。

「……ひとの、笑顔。懐かしい……気がする」

その言葉に、楓は思わず息をのんだ。レイの声はかすかに震えていて、それはただの感想ではなかった。――記憶の底から掬い上げた、忘れられない感覚のように。

「前にも……見た。たくさんの……光の中で」

レイは頭に手を当てて目を細める。ほんの数秒だけ、その瞳が人ならぬ輝きを宿していた。けれどすぐに、彼女は首を振り、困ったように楓を見つめた。

「……思い出せない。怖い」

楓は静かに頷き、レイの手を握った。「大丈夫。少しずつでいいから。私、そばにいるから」

レイは返事をしなかった。けれど握られた手を離さず、ほんの少しだけ楓の肩にもたれかかった。

桜が風に揺れる。その一片がレイの髪に落ち、やがてひとひらの記憶のように消えていった。



一つ一つの章の長さがバラバラですみません、!

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