光の変貌
空が裂け、光が滲み出す。その裂け目の前に、ただひとりの堕天使が立っていた。黒い翼を広げたルカエル。彼の存在だけで、世界が軋むように震えていた。
「アズリエル……いや、今は“レイ”と呼ばれているか。器よ、お前の目覚めを待っていた」
彼の声は、雷鳴のように重く響く。楓は立ちすくみ、隣のレイを見た。少女の姿のまま、しかし背中には淡く光る羽が揺らめいている。
「……私は……」レイの声は震えていた。「私を受け入れてくれた人たちを、守りたい。たとえ器としての運命を背負うことになっても」
ルカエルの口元に笑みが浮かぶ。「選ぶのだな。お前の意思で」
光と闇がぶつかり合う轟音の中で、楓はただ、目の前の少女から目を離せなかった。レイの身体を包む光はどんどん強くなり、彼女の輪郭を曖昧にしていく。まるで“人”という存在そのものを超えて、別の何かへと変わっていくようで。
「……やめて、レイ!」楓は叫んだ。涙で滲む視界の中、震える手で必死にレイの腕を掴む。「いなくなっちゃうの? 一緒に未来を見ようって言ったじゃん……!」
レイは静かに首を振った。その瞳には迷いが残っていたはずなのに、今は不思議なほど澄んでいる。「楓……ありがとう
でもね、私は私のことを、「レイ」として受け入れてくれた人々が暮らすこの世界の未来を
守りたいの」その声は、風に溶けるほど儚くて。
「ありがとう、なんて言わないでよ!」楓の声は嗚咽に掻き消された。「やだよ……やだよ……! せっかく友達になれたのに。私、ずっとずっと……
やっと一緒に笑える人ができたのに……!」
必死に言葉を繋げながらも、胸の奥では理解していた。レイは、楓が求める「ただの友達」ではいられない。彼女はこの世界を繋ぐための“器”。その運命から逃げることはできない。
――でも、せめて。せめて、この手を掴んだままでいて欲しい。心のどこかで、奇跡を願っていた。
「もっと……一緒にいたかった」声にならない声が、楓の唇から零れる。
「まだ……笑ってほしかった……
レイがつなぐ未来を見るんじゃなくて
一緒に未来を見たかったんだよ」
「……ありがとう、楓。でもね、私は、。
2人で世界の終わりを見たいんじゃないの。
好きな人に、綺麗な世界を見てほしいの。」
レイはそっと、楓の手を握り返した。それはほんの一瞬――けれど確かに、温もりを残す仕草だった。
「楓がいてくれたから、私は“私”でいられたよ」淡い微笑みを浮かべるレイの姿が、光の中へと溶けていく。
楓は、掴んだ手が空気に変わっていく感触を、ただ呆然と見つめることしかできなかった。止めたい。引き戻したい。――けど、もうわかっていた。
これは、レイ自身の選択なのだ。彼女は迷いながらも、“人として生きる”ことより、“器として人々の未来を守る”ことを選んだ。
楓は震える肩を抱きしめ、声にならない嗚咽を空へと吐き出した。「……やっぱり、止められないんだね」
レイ…!
泣きそうになります。泣いてください。
不可解な点はお見逃しくださいませ…




